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鼎談 教育活動としての修学旅行

13面記事

企画特集

集団活動や体験活動の目的を明確化し主体的な学びへつなげる

 修学旅行は、新型コロナウイルスの流行によって中止や延期が相次いだ一方で、非日常を体験する学びの重要性を再認識させた。そこで、学校の特別活動における学校行事として修学旅行を行う意義や、深い学びへとつなげる工夫などについて、有識者3名にそれぞれの立場から話を聞いた。

出席者

文部科学省・初等中等教育局視学官
安部 恭子 氏

全国修学旅行研究協会・理事長
岩瀨 正司 氏

日本修学旅行協会・理事長
竹内 秀一 氏

人間関係形成能力を育む「特別活動」

 ―修学旅行は特別活動の学校行事に位置付けられていますが、そもそも教育課程における特別活動とはどのような内容なのでしょうか。

 安部 特別活動は昭和33年から学習指導要領に位置付けられました。中・高校では学級活動、生徒会活動、学校行事の三つの活動の総称で、小学校はこれにクラブ活動が加わります。多様な集団活動や体験的な活動を通して、社会性をはじめ実際の社会で生きて働く汎用的な力を育み、児童生徒の人間形成を図る教育活動です。教科書がないため指導資料等を作成していますが、学校全体で指導が積み上げられていないなど、学級差や学校差が課題です。

 岩瀨 確かに、特別活動は授業の一環という意識をもっと高める必要があります。中学校での修学旅行も基本は授業であることから、私どもの協会では「学びの集大成を図る修学旅行」を一貫したスローガンにしています。

 竹内 高校でいえば、これまで修学旅行における事前・事後学習は、教科の授業時間などを使って行うことはできませんでした。けれど、今回の学習指導要領改訂により、一連の教科の中で探究的な学びが求められるようになったことで、「総合的な探究の時間」に関連付けることにより、その時間に事前・事後学習を割り当てられるようになりました。それが、学習指導要領と修学旅行との関わりの大きな変化といえるのではないでしょうか。

修学旅行と教科との結び付き

 ―修学旅行を教科と結び付けるという考えは、以前からあったのでしょうか。

 岩瀨 教科学習の一環という位置づけは以前からありました。しかし、修学旅行の事前指導に「総合」を使うのは、都道府県によって温度差がありましたね。今回の学習指導要領で「総合」とうまくリンクしていくことができれば、修学旅行はより一層充実した活動になると思います。

 安部 事前に修学旅行の意義について子どもたち自身が理解し、自分の目標をもって参加しないと、思い出づくりだけになりかねません。コロナ禍ではオンライン修学旅行も行われましたが、子どもたちが実感して学んだり体得したりするためには体験や実践が欠かせません。子どもたちの学びを深め、より良い教育活動にするためには、時間をかければよいわけではなく、ねらいを明確にし、共通理解を図った指導が重要です。

 竹内 修学旅行には日本史的な観点もあれば、平和学習では公民的な観点もあるなどさまざまな要素が入っていることから、教員にとっては自分の教えている教科とどうつなげていけるかが大事になります。また、当然ながら探究学習は教科の中でも行う必要があるため、その延長線上に捉えることもできますし、人間関係形成能力でいえば、特別活動でのHRや生徒会活動といった、集団で何かを目指す活動と関連付けができると思います。

コロナ禍以降の修学旅行の変化と課題

 ―コロナ禍以降、修学旅行はどのように変化していますか。

 岩瀨 行き先が多様化したことです。学習内容も歴史や文化といった決まりきったものから、SDGsやキャリア教育の視点を取り入れるように変化しています。一方で、近場や短い日程で済ませたことにより、それが物価高と相まって常態化してしまうのではないかと心配しています。また、教員の働き方改革と安易に結び付けられてしまうことは、生徒たちのために、果たしてそれでいいのかと考えてしまいますね。

 竹内 高校の「探究」では体験活動が重視されていることから、修学旅行を探究的な学習の機会にしたいと考える学校が増えています。その中で、学校が決める探究課題はSDGsや平和学習、防災学習が多いため、そうした実践ができるプログラムがある行き先が求められるようになっています。ただし、そのためには少人数での分散学習的な活動が必要になります。高校でも修学旅行費用の高騰が課題として浮上しています。

 安部 カリキュラム・マネジメントの観点からいうと、特別活動における集団宿泊活動として実施する「修学旅行」と、「総合的な探究(学習)の時間」のねらいが曖昧にならないようにすることが大切です。それぞれの趣旨を生かして活動を関連させることにより、体験活動としての修学旅行がよりダイナミックに展開されるようにするなど、学校全体で充実を図る必要があります。

 ―平和学習や防災学習等で講話を聞く学校も多いと思いますが、年代的に経験した方の話を聞くことが難しくなっている問題もあります。その点についてはいかがでしょうか。

 竹内 それは受け入れる側も承知しています。例えば長崎では当時の被害を今に伝える原爆遺構を見て回った後で、グループで見てきたことや自分たちが平和のためにどういうことができるかを議論し合うといったことを、現地のファシリテーターを交えて行っています。つまり、語り部の話を聞く体験から、自分たちが実際に経験したことを発信する活動へと変化しており、そうした新しいプログラムは、SDGs学習を始めとしたさまざまなテーマにおいても広がりつつあります。

 安部 現地の人の話を聞いたり、見学したりするだけでなく、子ども自身が主体的に考え、自分に何ができるかなどを考えられるようにすることが大切です。学校行事での学びを「総合」などの教科の学びに生かすといった、往還の関係となるようにすることが重要です。

より良く生きるための教育活動に

 ―これからの修学旅行に期待することはありますか。

 岩瀨 非日常を体験させる修学旅行は、日本の優れた教育文化の一つであり、授業でもある。とすれば、少なくとも義務教育は無償で行うべきものであり、費用の公的支援をもっと拡大してほしいと切に思っています。

 竹内 コロナ禍で修学旅行の教育的価値が見直されただけでなく、さまざまな人の協力によって成り立っていることも再認識される機会になりました。ぜひ、先生方には関係する機関と密に連携し、「前年踏襲」ではない創意工夫にあふれた学校ごとのオリジナルな修学旅行をつくってほしいと期待します。

 安部 人間的な触れ合いを深め、互いを思い合ったり尊重し合ったりする機会となり、子どもたちが将来に向かい、よりよく生きていく土台や今後の生活の支えとなるような教育活動になるようにしてほしいですね。

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