AIと向き合う力を身に付ける
22面記事生成AIの進化について説明するKDDI木村氏
KDDI×港区立南山小学校
生成AI体験授業
近年、スマートフォンなどで簡単に情報が得られる一方、子どもの発想力や想像力の発達に影響が出る可能性が指摘されている。急速に進化しているAIについても、子どもの考える力が失われるのではないかと不安に思う教員も少なくない。こうした中、通信のつなぐチカラによって「おもしろいほうの未来」を目指すKDDIでは、AIに対する正しい理解や向き合う力を身に付けてもらおうと、画像生成AIを体験する特別授業を2023年12月12日に東京都港区立南山小学校(小林功明校長)で実施した。そこでは、自分の想像したことから新しいものを生み出す楽しさ、思考を働かせて創意工夫する難しさなどを通し、子どもたちが生き生きと学ぶ姿が見られた。
「生成AIとは何か」について学ぶ
当日、南山小学校6年1組の子どもたちは、生成AI体験授業の前にKDDIが特別協賛する、ある少女の想像から生まれた少年(イマジナリ)が冒険を繰り広げる映画『屋根裏のラジャー』を鑑賞。作中では、想像力がもたらす正と負の側面や、その中で困難を乗り越えていく主人公たちの姿が描かれている。それは生成AIなど進化の著しいテクノロジーが孕むさまざまなリスクにも通じる課題であることから、KDDIではこれからの未来を創る子どもたちにAIを正しく、ポジティブに使いこなしてもらうため、東京学芸大学准教授・登本洋子氏監修のもと、今回の生成AI体験授業を企画した。
そんな思いが込められた本授業では、映画にちなんで開発された画像生成AI「MYイマジナリメーカー」を使い、自分だけのオリジナルキャラクターを生成する体験にチャレンジする。授業の冒頭では、担任の本多裕太主幹教諭から紹介を受けたKDDIの木村塁氏が講師として登壇し、AIについて学ぶ時間が設けられた。
最初に講師はAIについて知っていることを子どもたちに尋ねた。「ChatGPT」といった返答に「その通り」とうなずいた上で、実は「AIとは何か」というのは明確な定義はないが、「人間の脳の動きをコンピューターで真似しているもの」と定義するなら、そこから何か新しいものを生み出すことができるのが生成AIであると説明。2枚の犬の写真を見せながら、「どちらがAIで作成した犬なのか見分けがつかないくらい、この1~2年で急激に進歩したのが生成AIといわれる技術です」と話した。
続いて、その仕組みについても、「皆さんが先生から話を聞いて脳にインプットして学習していくように、AIもコンピューターのプログラムで同じことをしていて、その学習を膨大にこなすことで人間を超えるような頭脳を持ち始めています」と解説した。
思考を働かせ、言語化するプロセスにAIを活用
AIのマイナスの側面を知り自ら考えて指示を出すことが重要
一方で、AIのマイナスの側面を知り、どう向き合うかも大事になる。ここでは本多教諭が生成AIの使用にも年齢制限や保護者の同意が必要などのルールがあることを周知してから、なぜ取り扱いに気を付ける必要があるかを講師が説明した。
その一つが盗作を生み出す恐れがあることだ。「例えばAIは音楽や画像を作れますが、他の人の作品をそっくりそのまま真似をしたものができてしまうことがあります」と注意を促した。二つ目は、AIが嘘をつく可能性があること。実際に回答した誤りの事例を見せて、絶対に正しいと判別する安全な機能が完全には備わっていないことを指摘しつつ、「SNSを使うときと同様に、本当に正しい情報なのかを考えて、別の方法も使って調べてみる必要があります」と伝えた。加えて、AIを使いこなすには指示を具体的にする工夫が重要になることを覚えてほしいと話した。
今後はさらに自動運転やロボットによる接客、医療の自動診断などが進化し、将来的に子どもたちはAIと一緒に行動するのが当たり前になる時代を迎えると予測。ただし、今まで通り主役は”人間“であることに変わりはない。自ら考えてAIに指示を出し、やりたいことを実現していくことが大切になるとメッセージを伝えた。
想像通りのキャラクターを作るため試行錯誤
次は、いよいよ画像生成AIを実際に体験する時間だ。講師の実演で使用方法を学んだのち、子どもたちは各自のタブレットにある作成シート(1)を使い、どんなキャラクターを作りたいかを想像し、見た目や性格、得意なこと、そのキャラクターで何をしたいかをあらかじめ記入する。それが終わったら「MYイマジナリメーカー」を起動させ、自分だけのオリジナルキャラクターを生成するための入力作業に取りかかる。
その際、本多教諭は入力した内容を作成シート(2)に転記し、生成したキャラクターも画像保存して貼り付けるよう子どもたちに指示を与えた。自分が思い描いたキャラクターでなかった場合、何度でも作り直してみたり、指示した内容による生成の違いを見比べたりできるようにするためだ。
狙い通り、タブレットの操作に慣れた子どもたちは自分のイメージに近くなるように次々と設定を書き換え、スピーディーに新しいキャラクターを生み出していく。よく見ると、見た目のイメージをもう少し詳しく書き加えたり、「得意なことをプラスするとしたら、何がいいかな?」と友達に相談したりする場面があり、子どもたちは想像上のキャラクターに近づくよう試行錯誤していた。
想像に近い納得のいくキャラクターが完成すると、発表シートに記入する作業へ移る。そこでは、名前やそのキャラクターがクラスでどんなことをするのか、生成AIを使ってみて大変だったこと、気づいたことなどを書き込んで発表の準備をする。
完成したキャラクターを発表シートにまとめる
自分の作ったキャラクターを発表
発表は、まず3~4人のグループで自分が作ったキャラクターを紹介し合うところからスタート。そこでは「ほら、こんなのができちゃったよ~」と頬を膨らませて発表したり、「自分が思っていたのとはちょっと違ったけど、面白いでしょ」と得意げに話したりなど、顔を突き合わせながら、子ども同士の活発な意見が飛び交った。
続いて、みんなの前で発表する展開へ。海で一緒に遊んでくれるキャラクターをイメージした児童は「自分の思っていることを言葉にするのが大変だった」としつつも、「頭の中ではいくらでも想像できるけど、実際に絵にして見られることはなかったからAIはすごい」と驚きを表現した。また、男性と女性の識別がしっかりできていて賢いと思ったという鋭い指摘もあった一方で、街中で夜空を見ながら歌うキャラクターにしたいと思った児童は「衣装を黒と指定しても、性格を変えると見た目が変わってしまって納得できない」といった意見もあった。
最後は、本多教諭が「今日体験したように、みんなの想像や考えを実現する手伝いをしてくれるのが生成AIの機能。大事なのは使い方を正しく守り、自分の考えをしっかりとAIに伝える知識を持つことです」と改めて確認。講師もこれに付け加え、「一人一人の脳が違うように、それを真似しているAIもそれぞれ得意分野などが異なります。それを認識した上で、自分の味方になるツールとして使いこなせるようになってほしいです」と授業を締めくくった。
黒板に投影されたキャラクターについて発表する様子
まず使ってみることがAIを理解する「第一歩」となる
登本 洋子准教授(博士/情報科学) 東京学芸大学先端教育人材育成推進機構
ご飯を炊いたり、肉や魚を煮たり焼いたり、食事を作るときに私たちはガスや電気を使用します。かまどで火を起こして薪で調理をしていた頃からまだ100年も経っていませんが、ガスや電気の利用が一般的になったのは、かまどよりも簡単で便利だからです。
この1年で急速に広まった生成AIも、役割は違いますが、このガスや電気のように、私たち人間を支えてくれます。ほんの一例ですが、学校においてはメールや議事録、資料の作成、教材や問題の作成をサポートしてくれます。言語に関することは得意で、英語の学習では会話の相手になってくれたり、間違いを正してくれたりします。
児童生徒が生きていく社会は、こうした生成AIやICTを駆使して物事を進めることが当然の世の中になります。しかし、ガスや電気と同じように完全に安全ではありません。どのように使ったら効果的で、どのような使い方が望ましくないのか、私たち大人も早く使い慣れて、子どもたちに伝えていく必要があります。
2023年12月、港区立南山小学校で「気を付けないといけないこともあるけれど、生成AIのおかげで、できなかったことができるようになる未来があります」として、生成AIを活用した特別授業が行われました。授業後87・5%の児童が「人工知能や生成AIに対する印象が良くなった」95・8%の児童が「もっと生成AIを勉強したい」と回答しました。また「特別授業の前までは少し怖かったけど、ちゃんと使えば、すごく便利ということがわかった」という声が聞かれました。
この子どもたちのように、まずは使ってみて分かることがたくさんあります。まだ使ったことがないという先生がいらっしゃいましたら、まずは第一歩を踏み出してみてください。
最初の一歩を踏み出す機会に
港区立南山小学校 本多 裕太主幹教諭
私自身もAIに対する漠然とした知識しかない中で、今回の特別授業で使用した画像生成AIは、児童が身近に感じられるキャラクター作りを通してAIを体験できるため、教員にとっては「ChatGPT」などのテキスト主体のものから始めるよりも授業で扱いやすいと感じました。子どもたちも興味津々で取り組み、こちらが考えていた以上にすぐに自分のイメージを伝えるコツをつかんでいたため、最初の一歩を踏み出す機会としてふさわしいと思いました。
今日の実感からも、AIは子どもたちのイメージを広げる手段としてさまざまな学習に応用できると考えます。しかも、教員一人では手が回らない場面で個別にアドバイスがもらえるようになるなら、どんどん活用していきたいですね。