2024年に注目の教育キーワード10選
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社会の多様化や情報化の進展、技術革新など、世の中の変化が加速していくなか、未来を生きていく子どもたちの教育の在り方も重要とされています。現在の教育の在り方に対して、さまざまな分野から見直しや改善を行うべきであるという声も上がっています。
この記事では、2024年に注目される教育キーワード10選を紹介します。
1.教育現場へのAIの導入
文部科学省初等中等教育局は2023年7月4日、『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』を策定しました。これによると、生成AIは発展途上にあり、信頼性やリテラシー面などさまざまな懸念があります。そのため、“十分な対策を講じることができる”という一部の学校で限定的な利用をすることが適切であるとされています。
働き方改革の一環として、教員研修や校務での適切な活用に向けた取り組みも推進されています。教員自身が新たな技術の利便性、懸念点など理解を深めておくことは、将来の教育活動で適切に対応するための素地を作ることにもつながります。
スマートフォンの所有率が年々高くなっている昨今、児童・生徒に対して情報活用能力や情報のプライバシー、個人情報の保護、著作権侵害への注意など、十分な指導を行う必要性が高まっています。また、学校の課題に対しAI生成物を成果物として提出するといった不正行為に対して、保護者への周知と理解を得ることも肝要です。
出典:文部科学省『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』
2.デジタル教科書の本格導入
2024年度から全ての小中学校等を対象に、小学校5年生から中学校3年生に対して英語のデジタル教科書が提供されることになりました。学習用デジタル教科書とは、紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録である教材です。なお、動画・音声やアニメーションなどのコンテンツはこれに該当しません。
学習者用デジタル教科書とその他の学習者用デジタル教材を組み合わせて活用することで、児童・生徒の学習の充実を図ることが目的です。これにより以下のメリットが期待されています。
・デジタル機能の活用による教育活動の一層の充実
・デジタル教材等との一体的使用
・特別な支援が必要な児童生徒の学びの充実
今後の学習者用デジタル教科書の在り方については、学校現場の環境整備や活用状況などを踏まえながら段階的に提供していく予定となっています。
出典:文部科学省『3.学習者用デジタル教科書について』
3.2024年度国立大学入試で『情報』が出題科目に
2024年度に実施する大学入学共通テストでは、これまでの5教科7科目に『情報』が加わり、6教科8科目が課されることになりました。
情報の科目が追加される背景には、情報社会の変化に対応し、問題の発見や解決において情報技術を適切かつ効果的に活用する能力の重要性が高まっていることがあります。高等学校では『情報Ⅰ』が必須科目として設定されており、大学では文理を問わず『数理・データサイエンス・AI』のモデルカリキュラムが策定されています。
情報に関する知識は、教養教育の一環として学生が身に付けるべき基礎能力と位置づけられています。また、このカリキュラムの普及を促進するための教育プログラムの認定制度も開始されています。
出典:文部科学省『大学入学共通テストへの『情報Ⅰ』の導入について』
4.2024年度から5年間は私立大学等『集中改革期間』
2024~2028年度の5年間(※予定)を私立大学等における『集中改革期間』と位置づけ、時代と社会のニーズの変化に対応した私立大学・短期大学・高等専門学校への総合的支援を充実させる考えを示しました。これにより主体的な改革の後押しとなることが期待されています。
将来を見据えた環境整備などを行う観点から、新たな4つの方策の実施と1つの支援事業の継続をすることが提示されました。
新規
1.少子化を支える新たな私立大学等の経営改革支援
2.成長分野などへの組織転換促進のための支援
3.定員規模適正化にかかる経営判断を支えるための支援
4.私立大学等経営DX推進事業費補助
継続
5.私立大学等改革総合支援事業
これらの方策では、少子化時代において日本の未来を支える人材育成を担う教育現場の在り方を提起し、私立大学等の将来を見据えた経営改革計画の実現を計るとともに、知見やノウハウの普及・展開を図る取り組みについて継続的に支援するとされています。
また、定員規模適正化では過去に学生募集停止をおこなった学部などへの継続的な教育研究活動を支援する方針が発表されています。
出典:文部科学省 高等教育局 私学部『令和6年度概要 私学助成関係の説明』
5.休日の部活動の地域移行が2年目に
学校部活動を地域クラブ活動に代替させていく『地域移行』に向けてさまざまな取り組みが進められています。地域移行では、教育・職員の負担軽減を実現する観点から部活動を学校単位から地域単位の取り組みとし、学校以外の地域人材が担っていくことを目標としています。
生徒にとって望ましい持続可能な運動部活動と学校の働き方改革の両立を実現するため、大会の在り方を見直したり、スポーツ医科学に基づいた科学的なトレーニングを導入したり、多角的に検討・検証が行われています。
現在は、休日の運動部活動から段階的に地域移行していくことで、2025年度末を目処に地域移行の実現を目指しています。地域におけるスポーツ機会の確保、生徒の多様なニーズに合った活動機会の充実などにも着実に取り組み、地域のスポーツ団体等と学校との連携・協働の推進を図ることが重要とされています。
出典:スポーツ庁『運動部活動の地域以降について』
6.NEXT GIGAで端末更新が本格化
NEXT GIGAとはGIGAスクール構想(※)におけるICT環境の更新のことを指します。令和の学びのスタンダードとして、児童・生徒へ1人1台端末を整備し、ICTを通してさまざまな学びへ活用する取り組みが行われています。
GIGAスクール構想では、ICTの活用により以下のような学習を提供することが期待されています。
・調べ学習
インターネットを用いて主体的な情報収集・整理・分析をする能力の育成
・表現・制作
文章の作成や画像・音声・動画などを使用した資料や作品を制作する能力の育成
・遠隔教育
大学・海外・専門家との連携や少子化が進む地域の子どもたちが多様な考えに触れる機会、入院などで登校できない子どもと教室をつないだ学びの機会の充実
・情報モラル教育
情報収集や発信など実際に情報技術を活用することで、情報モラルを意識する機会の増加
クラウドを使用した1人1台端末環境では、従来のコンピュータ室での環境とは異なる年度更新作業が必要となるため、万全な作業計画を立てることが重要です。運用においては、ICTに対応するために必要な教員のスキル向上も課題とされています。
※…GIGAスクール構想とは、多様な子どもたちが公正に個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育を実現する計画のこと。
出典:文部科学省『GIGAスクール構想の実現へ』
7.質の高い教師の確保(教員不足対策)
令和の日本型学校教育を担う質の高い教師を確保するため、教職の魅力向上に向けた環境の在り方に関する調査研究会が幾度と開催されています。
多様化する社会の変化を踏まえ、より個別最適で協働的な新たな学びに進化させることが期待されています。教員不足も指摘されるなか、これを実現させる課程では質の高い人材を確保することが不可欠です。そのため、教職の魅力向上を図る必要があります。
質の高い教員の確保へ向けて以下の項目で検討が進められています。
・教員給与の在り方について
・教員の勤務制度の在り方について
・さらなる学校の働き方改革の推進について
・学級編制や教職員配置の在り方について
・支援スタッフ配置の在り方について など
教員を取り巻く施策については、国だけではなく都道府県や市町村の教育委員会等、各学校の校長等が主体的に関わり考えていくことが重要です。
出典:文部科学省『質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する参考資料』
8.『令和の日本型学校教育』を推進する地方教育行政の充実
『令和の日本型学校教育』とは、全ての子どもたちの可能性を引き出すために個別最適な学びと協働的な学びを実現しようとする教育構想です。
これを実現するための地方教育行政の在り方について、2022年1月から以下の論点について審議が重ねられています。
・教育委員会の機能強化・活性化のための方策
・教育委員会と首長部局との効果的な連携の在り方
・小規模自治体への対応・広域行政の推進のための方策
・学校運営の支援のために果たすべき役割
これらのうち、特に小規模自治体への対応・広域行政の推進のための方策については極めて重要な課題として優先的に検討されています。全国的に少子高齢化や過疎化が進むなかで、自治体の規模による地域格差が生じないように教育の機会均等を果たす必要があります。都道府県から助言や情報提供、その他援助などを通じて積極的に支援を行っていく姿勢が重要です。
出典:文部科学省『「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けて』
9.教職員給与特別措置法(給特法)の改正
教職員給与特別措置法の改正は、公立学校における教員の働き方改革を目的としており、教員の長時間労働問題の解決に焦点を当てています。この改正により、教員の労働環境の改善と効率的な教育活動の実現を目指しています。主要な改正点は以下の通りです。
一年単位の変形労働時間制の導入(2021年4月1日施行)
・公立学校の教員に一年単位の変形労働時間制を適用できるようにする
・教員が休日を集中して確保することを可能にする
業務量の適切な管理に関する指針の策定(2020年4月1日施行)
・教育職員の業務量の適切な管理等に関する指針を策定し、公表することにより教員の健康及び福祉の確保と学校教育の水準の維持・向上を図る
勤務条件の透明性と適正化
・教員の勤務時間の長時間化に対応して持続可能な学校教育の実現を目指すことで、教員の業務量を適切に管理し、効果的な教育活動を行うための環境を整備する
教員の働き方を見直し、過重労働を軽減して教育現場の健全な運営を支援します。これによって教員の健康や福祉の確保を図ることは、教育の質を高めるための重要なステップとして注目されています。
出典:文部科学省『公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の 一部を改正する法律案の概要』
10.教員勤務実態調査の結果を踏まえた学校の働き方改革の本格化
教員の勤務実態や働き方改革の進捗状況などを把握・分析することを目的として、2022年に『教員勤務実態調査』が実施されました。調査結果からは、平日・土日ともに各学校の教員の在校等時間が減少したことが確認されましたが。しかし、依然として長時間勤務の教員が多い状況が続いていることが分かりました。
また、有給休暇の取得日数が増加しており、教員の健康と福祉の確保に向けた取り組みが進んでいることが明らかになりました。さらに、学習評価や成績処理において、ICTを活用した負担軽減の取り組みが実施されており、効率的な業務運営が図られています。
これらの結果を踏まえ、働き方改革を推進するには、国と各教育委員会、学校、地域が協力し、これまで以上に真剣に取り組むことが不可欠です。児童・生徒にとってより良い教育環境を確保するためにも、教育現場の働き方改革に大きな期待が寄せられています。
出典:文部科学省『教員勤務実態調査(令和4年度)【速報値】(概要版)』
まとめ
急速する時代の変化に伴い、教育内容も日々変わっています。未来を担っていく子どもたちの育成のため、教育の重要性はますます高まっており、より質の高い教育が求められるようになりました。
2024年に注目の教育ワードからは、複数のアプローチによる教育現場におけるデジタル化の進展を感じることができます。AI導入やデジタル教科書の利用には、教育の質を高めると同時に、教員の負担軽減、子どもに合わせた個別指導の充実などが期待されています。
教育現場の働き方改革は、長年にわたり大きな課題とされています。長時間労働の減少や給特法の改正による過重労働を軽減する取り組みは、教員勤務実態調査の結果からわずかながらも改善されている様子が分かります。今後は国と学校、教育委員会や地域が一体となることで、さらなる教育現場の発展が求められます。