思考停止という病理 もはや「お任せ」の姿勢は通用しない
16面記事榎本 博明 著
現代教育の本質的問題を分析
本書は、現代の指導層の人たちには必読の一書だというのが評者の率直な感想である。とりわけ教職員の指導層、あるいは教育を真剣に考える同志の仲間には、ぜひとも―。
現代の教育界は問題山積であり、その打開の糸口さえ不透明なまま百家争鳴の感を呈しているが、その現実を著者は実に冷徹な目で見つめ、根本的、本質的な問題点を剔出して見せる。その分析は綿密精緻であり静かな説得の文体に深くうなずきつつ読んだ。
「考えることを忘れた社会」「思考停止に陥りやすい日本人の心理」でさまざまな現代社会の問題となる事例を具体的に伝えたその上で、「その根底に流れる教育のあり方」(第3章)を論じている。教育者必読の一章である。
・ノートを取る習慣のない学生たち
・実用性重視が思考停止をもたらす
・理解よりスキルを重視することの弊害
・読書離れによる読解力の欠如
・検索力はあっても、思考力がない
・「手取り足取り、面倒見の良さ」が奪う考える力
―等々、現代、一般的に良しとされているような現実への分析、考察の鋭さに脱帽する。
終章は「考える力を奪う教育からの脱却を」との主張の下、「発信力よりも、まずは吸収力を高めることが大切」と説く。全く同感だ。
『思考停止という病理』とは、本書の内容を実に的確に訴える書名である。「病理」の解明なくして良策は立てようがないからだ。
(990円 平凡社(平凡社新書))
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)