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学校施設を改修する上での重要な視点

13面記事

施設特集

老朽化が進む学校施設では長寿命化改修が求められている

 新しい時代の学びに対応した教育環境にするなら、校舎を新築に造り替えればいい。だが、自治体の財政予算が厳しくなる中ではそうともいかず、多くの学校施設は計画的に改修を行って長寿命化していくことが望まれている。ここでは、その際に重視するポイントは何かについて整理した。

改修ノウハウや人材不足などが課題

 老朽化が進む学校施設の改修では、新しい生活様式やインクルーシブな視点を取り入れた上で、1人1台端末の活用や学びの変化に対応した柔軟な教室・空間づくりや学校家具の整備を図っていくこととあわせて、校舎自体の高断熱化改修や高効率空調・照明等の整備によって「省エネ」効率を高め、太陽光発電などの自然エネルギーを使った「創エネ」と併用することで脱炭素化に貢献し、持続可能な教育環境を目指すことが求められている。
 これらの課題を解決するためには、中長期的な視点のもと、学校施設の計画的な整備を行うことが必要になるが、学校設置者によっては「構造体の改修範囲の見極めが困難」「法的制約への対応が不明」「改修のノウハウ不足」など技術的な課題がボトルネックとなり、思うように改修計画が進んでいないケースが多い。とりわけ、財政状況が厳しい中で、コストを抑えながら建替えと同等の教育環境を確保していくためには、計画段階からの民間事業者による人・技術両面での積極的な連携がますます必要になっている。

学校設置者への支援を強化

 こうしたことから、文科省では新しい時代の学校施設整備に対する学校設置者の取り組みを支援するため、ボトルネックとなる課題を抽出・整理し、対応策を分かりやすく解説した「課題解決事例集」を5月に公表している。
 加えて、ウェブサイト上に学校施設の整備・活用事例、ノウハウの蓄積・発信を行う共創プラットフォーム「CO-SHA Platform」を開設。ここでは、新しいアイデアによる学校施設の整備・活用事例を紹介する、専門的・技術的な知見を有する「学校建築アドバイザー」の助言や派遣を行う「相談窓口」を設ける、学校関係者の横のつながりづくりを目的とした「ワークショップ等のイベント開催」を実施するなどして、校舎を最大限に活用したい教職員と整備を行う民間事業者との連携を深めていく意向だ。
 例えば、「相談窓口」では、自治体で検討中の基本計画についてアドバイスが欲しい、脱炭素化(省エネルギー、ZEB、木材利用等)に関する先進的事例の具体的な整備内容が知りたい、ファシリテーターとなるような民間業者等を紹介してほしいといった問い合わせに無料で応えられるようになっている。
 学校施設の老朽化は、安全・安心な教育環境を確保することだけでなく、グローバルな社会へと飛び立つために必要な個の能力を引き出し、新しい価値を生み出す教育へと転換する上においても足かせとなる。迅速に子どもの学びにとって有益な学校施設の改修を進めていくためには、現場の教育者の意見を参考にした上で民間業者の先端的な知見を取り入れるなど、行政側にもこれまでにない柔軟性を持つことが重要といえる。

早期に着手したい改修は

 長寿命化計画の中でも優先的に改修を進めていきたいのが、時代にそぐわないトイレの改修といえる。洋式化・乾式化はもちろん、抗菌化や自動水栓などを整備することは感染症対策としても重要になる。何より、明るいトイレに生まれ変わることは子どもの心理面や健康にとっても大切な要素であり、快適な教育環境づくりには欠かせないものだ。また、意外と段差が多いのが学校施設の特徴で、スロープやエレベーター等の設置とあわせてバリアフリー化を進めていく必要がある。
 学習環境としては、新学習指導要領で目指す「主体的で対話的な深い学び」に応えられる多目的スペースの確保が挙げられる。そこでは、個人やグループ学習に適し、子どもの想像力や表現力を高める学校用家具の導入も欠かせない。また、普通教室においては、GIGA端末を活用する上での机の狭さなどを解消する器具や新JIS規格による机・椅子の導入も進めなければならない。

学校施設の大半は「無断熱」

 近年の学校施設では、普通教室への空調設置やICT機器の導入等による高機能化、地域開放に伴う多機能化によりエネルギー使用量が年々増加。そのため、校舎の断熱化を図るとともに高効率な空調設置やLED照明に切り替えたり、自然採光や通風などをもっと有効に利用したりすることで、可能な限りエネルギー量を削減する改修が不可欠になっている。
 ただし、このような改修を行う前の学校施設の大半は、屋根、壁、床下などに断熱材が入っておらず、外の熱を伝わりにくくする複層ガラスなどを施工しているところも少ないのが実態だ。したがって、今年の夏のような猛暑の日が続くと、いくら冷房の設定温度を低くしても教室の温度が30度を切らないといった事態が起きており、屋内での熱中症の発生も危惧されている。
 それゆえ、近年では資金を寄付で集め、専門家の指導のもと、生徒たちが自らの手で断熱されていない教室の天井や壁に断熱材を入れ、内窓をつける改修を行う動きも広がっている。断熱改修によって教室内の体感温度を改善することは、子どもの健康を守り、学習環境を向上する上で大切になるのはもちろん、温室効果ガスの抑制や電気代の削減にもつながるものだ。これらは現在進められている学校体育館の空調整備にもいえることで、冷暖房機器の設置とあわせて建物の断熱性を高めていかなければならない。

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