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よりよい生活、よりよい社会を形づくる「見方・考え方」

7面記事

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 学習指導要領の各教科の「目標」には、共通して「見方・考え方」という文言が登場する。小学校の教育課程に詳しい総合初等教育研究所参与の北俊夫氏は、この「見方・考え方」の意義を教師が正しく理解することが、これからの授業づくりにつながると考える。子どもたちの見方・考え方を養うには、どのような理解や整理が必要なのか。エネルギー教育を例に解説してもらった。

教師の「教え方」を子どもの「学び方」へ
「視点」と「方法」で生きる力を身に付ける

北 俊夫 一般財団法人総合初等教育研究所参与
東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文部科学省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士舘大学教授を経て、現職。学校教育アドバイザーとして活躍中。『「ものの見方・考え方」とは何か』(文溪堂)、『小学校社会科におけるエネルギー・ライフライン教育』(日本教育新聞社)など著書多数。

誰もが働かせている見方・考え方

 まず、「見方・考え方」とはそもそも何なのかということです。「見方・考え方」は直接的には学校教育の授業づくりで求められていることですが、広くは私たちが生きていくために必要な「道具」と言えます。
 日常的な体験から考えてみましょう。新しい土地に行ったとき、地図で町全体を見渡してから、目的地を探すことがあるでしょう。ピンポイントで目的地だけに目を向けると、位置関係が分からず、たどり着くまで時間がかかったり道を間違えたりすることもあるため、まずは全体を「概観」する見方が役立つのです。
 次に、私たちが物事を決めるときのことを思い返してみましょう。比較をしてから判断することがありますね。買い物一つをとっても、品質や価格などを比べてより良いもの、必要なものを選びます。両方買うかもしれないし、その時は買わないかもしれません。「比較」するという見方・考え方は生きるうえでの大事な術です。
 このように「見方・考え方」は人としてよりよい生活を営むため、そしてよりよい社会を作っていくために必要なツールだと捉えることができます。そのように捉えると、現行の学習指導要領において、いずれの教科の目標にも共通して盛り込まれた意味も分かってきます。

社会科の見方・考え方 三つの「視点」

 次に、教科レベルで考えてみます。見方・考え方には、その教科固有のものと、どの教科にも共通するものとがあります。
 社会科固有の「見方・考え方」は、次の三つの「視点」に集約されます。
 一つ目は、社会的事象の位置を見る「地理的な眼」です。地図や地図帳を活用して、この事象は、どこの出来事なのかを確認します。この「どこ」という地理的な視点は他の教科にはあまり見られない社会科ならではのものです。
 二つ目は「歴史的な眼」です。この事象は今のことなのか、過去のいつのことなのかを確認します。これから先のことを話題にすることもあります。よりよい社会をどう作っていったらよいのか、という未来志向の視点で学習する場合にも「いつ」という時間軸でみる視点は大事です。
 三つ目は、社会的事象がどのように関係し合っているのか、どんな働きをしているのかという「関係性の眼」です。自分と社会との関係、社会的事象と社会との関わり、自分と他の人との人間関係もあります。その関係性を社会のシステムとして理解する視点も重要だと思います。
 この三つの視点は、中学校社会科の地理的分野、歴史的分野、公民的分野に、高校では地理歴史科、公民科の学習につながっています。小学校の段階では社会を総合的に学びます。それだけに、子どもにどのような「眼」で社会的事象を捉えるのかを意識させ、学ばせることがポイントになります。
 これらは社会科における固有の見方・考え方です。したがって国語や算数、音楽や体育など他の教科にも身に付けてほしい、その教科固有の「見方・考え方」がありますから、それらを明確にして授業に臨みます。
 一方、どの教科にも共通する「見方・考え方」があります。例えば、広い視野からものごとを考えること、演繹的・帰納的に考えること、比較、関連、分類、整理といった操作ができるようになることなどが挙げられます。「一を学んで十を知る」という言葉もありますが、応用性や転移性、汎用性のあるマスターキーとしての、価値のある「方法」を身に付けたいものです。

教師の指導で子どもの「学び方」に

 さて、学習指導要領に出てくる「見方・考え方」は、各教科の「目標」の冒頭に登場します。「見方・考え方を働かせて」の文末は「養う」と結ばれています。ここでいう「養う」のは教師です。では「見方・考え方」を「働かせる」のは誰でしょうか。
 これも、まずは教師です。いきなり子どもが働かせるわけではありません。
 各教科の目標にはいずれも、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性」の三項目の資質・能力が示されています。教師が見方・考え方を働かせて指導することによって、各教科の目標や内容を効果的かつ確実に子どもに身に付けさせることができるのです。
 教師が意図的、計画的に仕組んだ「見方・考え方」を、子どもは「学び方」として身に付けていきます。「見方・考え方」は教師の「教え方」ですが、それは子どもの「学び方」として身に付いていきます。

エネルギー教育における「見方・考え方」

 ここまでお話しした「見方・考え方」の整理をもとに、例としてエネルギー教育における「見方・考え方」やその指導法について考えてみます。
 一つは「世界の中の日本」というグローバルな視点です。日本のエネルギー自給率や、世界からの輸入に頼っている現状は、小学校から教えることが可能です。
 学習指導要領の4年に示されている「安全で安定的な供給」の視点も大事です。飲料水やガス、電気などがいつでもどこでも利用できることと、その理由を捉えさせることです。さらに「安全性」「安定性」はエネルギーだけではなく、持続可能な社会を作っていくために、他の事象を見るときに生かされる視点でもあります。
 「働く人の理解」「工夫・努力」の視点から、エネルギーに関わる人たちの働きを教材化することも不可欠です。エネルギー資源だけが独り歩きして日本に来るわけではありません。人が介在して外国から運んでくるのです。エネルギーに従事する人の働きを学習することは、エネルギーに対する「見方・考え方」の大事な視点です。加えて、化石エネルギーの「有限性と課題」にも気付かせたいですね。
 こうした点を授業者が確認し、社会科や理科、総合的な学習の時間などで見方・考え方を働かせて授業をすることが、子どもたちがエネルギーに対する確かな「見方・考え方」を養う上で重要です。小学校から中学校、高校とそれぞれレベルアップした授業が展開されることを期待しています。

課題を自分事にするきっかけに

 次に、授業指導の「方法」の観点から「見方・考え方」について整理しましょう。
 まず、飲料水やガス、電気などの利用場面を「概観」してから、飲料水やガス、電気の供給事業を事例として取り上げます。これによりエネルギーやライフラインの概念が身に付きます。まず飲料水の学習を行い、分かったことをガスや電気の事例に「応用する」という実践事例があります。
 エネルギー資源は外国との「関係性」の中で確保されている視点も押さえたいですね。ウクライナ情勢により世界のエネルギー価格が高騰し、その影響が私たちの生活にも及んでいることを考えさせることもできます。日本と外国、生活と社会といったさまざまな関係性に気付くことにより、社会課題を自分事として捉え、解決しなければという意欲が高まってきます。
 エネルギー教育を実践するときは、教科横断的な視点を持つことが重要です。社会科で学んだエネルギーに関する見方・考え方を家庭科の時間に生かし、自分の生活をよくすることにつながるような流れになるといいと思います。
 さらに、小学校から高校まで縦断的に展開できるようになれば、エネルギー教育は大人になってからも学べる、生涯学習のテーマとして発展するのではないでしょうか。
 見方・考え方は、一人一人の人生を形づくる上で重要な切り口です。さまざまな教科で多様に働かせることで、子どもたちの生きる力を養うことができます。価値のある「道具」として身に付け、それらの使い方をぜひ追究してほしいと思います。

授業支援パッケージで全国に広がるエネルギー・ライフライン教育

 日本教育新聞社は、エネルギーやライフラインの視点から授業をサポートする「授業支援パッケージ」を無償提供中。4年「住みよいくらし」「自然災害からくらしを守る」、5年「工業生産を支える『貿易と運輸』」の3つを取り揃えている。授業支援パッケージは、総合初等教育研究所参与の北俊夫氏が監修したオリジナル教材。既習事項との関連を図った社会科の授業に活用できるほか、理科や家庭科、総合的な学習の時間など、教科横断型のカリキュラム開発にも役立つ。
 また、本パッケージ活用の手引きとして『小学校社会科におけるエネルギー・ライフライン教育』が、実際にパッケージを活用した授業の事例集として『エネルギー・ライフラインを取り上げた授業の実際』が日本教育新聞社より発売中。エネルギー・ライフラインを扱う必要性や実践の方法、実際の実践の様子を丁寧にまとめた冊子となっている。

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