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交通社会と向き合う力を身につける

13面記事

企画特集

子どもの交通事故を防ぐには、地域ぐるみの支えが必要だ

 超高齢化社会と交通手段のモビリティ化が進む中で、子どもたちには交通ルールを順守するだけではない、自覚的に交通社会と向き合う力を身につけることが必要になっている。そこで、近年の子どもを取り巻く交通事故の傾向とともに、自ら危険を回避できる能力の育成の必要性や地域ぐるみで子どもの安全を守る体制づくりについて紹介する。

危険回避能力の育成と地域ぐるみで見守る体制が重要

交通事故の大半は法令違反
 小学生の交通事故の約4割が登下校中であり、中・高校生においても自転車乗車中の事故が多くなっている。いずれも、急な飛び出しや信号無視などの法令違反が大半を占めており、学校の交通安全教育にはさらなる交通ルールの順守の徹底を図る取り組みが求められている。
 また、近年では飲酒運転や高齢ドライバーによる予期せぬ事故に巻き込まれるのはもちろん、自転車が歩行者をはねて死亡させる事故によって莫大な損害金請求を負ったりするケースもあり、子ども自らが危険を予測して回避できる能力と同時に、“自らが加害者にならないための”自覚的に交通社会と向き合う力を身につけることがより一層重要になっている。
 こうした中、今年4月から自転車に乗る人は年齢にかかわらず、ヘルメットの着用が努力義務化された。これまで道路交通法では「保護者は、13歳未満の子にヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない」となっていたが、対象を拡大したことになる。その背景には、近年、交通事故全体に占める自転車の比率が増加傾向にあり、昨年も過去最高の23・3%に達していることが挙げられる。

依然として低い、ヘルメット着用率
 重要な点は、自転車事故では転倒時に頭に致命傷を負うケースが多く、ヘルメットをかぶっていない場合の死亡確率は、着用者の2・6倍と跳ね上がることだ。しかし、昨年の死傷者約6万8000人のヘルメット着用率は9・9%と低く、警察庁が今年の2~3月に自転車に乗る人のヘルメット着用率を13都府県で調査した結果でも、わずか4%にとどまっている。
 また、肝心の子どもの着用率においても、中学生で4割、高校生は1割未満と遅れているのが実態で、各学校においては改正をきっかけに着用率を向上することが求められている。
 こうした自転車乗車中の着用率を高めるには、家庭でのヘルメットの購入を促進させる必要があるため、東京都足立区では3月に購入費用のうち2千円を補助する制度を開始。愛知県でも3月末までにほとんどの市町村で補助を導入するなど、全国で同様の取り組みを行う自治体が増えている。あわせて、自転車事故に伴う高額賠償の事例が多発していることを受け、以前は任意保険だった自転車保険を義務化する自治体も多くなっている。
 ただし、せっかく安全のためにとヘルメットを購入しても、子ども自身が面倒くさいからと装着していなかったり、正しい装着の仕方ができていなかったりしたら意味がない。そのためにも、日頃からの家庭や学校での教育や、地域ぐるみの見守る目が大切になる。

交通社会の一員としての自覚を
 子どもの交通事故では年齢が上がるほど自転車乗車中の事故が増え、高校生は実に8割を超えている。そのため、年齢別自転車乗車中の事故による死傷者数では、高校生の死傷者数が極めて多くなっている。また、発生状況も午前8~10時の登校時間帯が最多。地域によってはほとんどの生徒が自転車で通学している高校もあり、不慮の事故によって死傷者を出さないためにも登下校中のヘルメット着用率を高める必要がある。
 高校生の自転車事故が多い理由は、運転への「慣れ」が過信や油断につながっていることが挙げられる。例えば通学路等では「スマホを見ながら」「イヤホンで音楽を聴きながら」「友達と話しながら」走行する姿をよく見かけるなど、自転車という「車両」を運転しているという意識や責任感が乏しいことが課題になっている。
加えて、道路の右側走行や無灯火運転といった、交通ルールとして教わっているはずの運転マナーを守っていないことも多い。こうした交通ルール無視を原因とした人や自転車との衝突事故では、多額の賠償請求を課せられることもめずらしくなくなっている。だからこそ、たとえ高校生であっても交通社会の一員であることを自覚させる指導の徹底が重要になるのだ。

子どもの危険回避能力を高めるには
 子どもの危険回避能力を高めるためには、実際に危険を体験することが最も効果的といえる。したがって、言葉で伝えるだけでなく、交通事故の体験動画やシミュレーションを使って、どんな危険が潜んでいるかを知り、どのような手段をとれば危険を避けられるかを体験することが重要になる。近年では、警察の協力による交通安全講習以外に、スタントマンの実演で実際に交通事故を再現する講習を導入する学校も多くなっている。目の前で事故が起きるのを見て恐怖を感じることにより、交通安全に対する意識が高められるからだ。
 こうした交通事故の危険性を知ることに加え、身近な地域の交通事情を知り、危険回避のシミュレーションを実施することも重要となる。そのためには、実際の地図を使ったり、通学路等をフィールドワークしたりして交通事故が起こりやすい場所を把握し、自らが事故に遭わないための行動を学ぶ必要がある。
 肝心なのは、このような安全指導を一度きりで終わらせるのではなく、学年計画に組み込んで繰り返し継続していくことにある。あわせて、各教科においても、防災への日常の備えや避難行動ができるようにする、身の回りの生活における防犯への知識を身に付けるなど、子どもに直接的・間接的に働きかけていくことが大切になる。なぜなら、子どもは年齢が低いほど危険認識や危険認知力が未熟であり、誰もがヒヤリハットを経験して成長していくように、発達段階に応じて危険に関する予知能力や事故の回避能力などを鍛えていくことが効果的になる。
 すなわち、子どもが危険を回避できる能力は、日常に潜む危ないと思われることや悪い事態が起こる可能性を察知するところから始まるのであり、交通事故を回避する能力もその一部であるからだ。

地域ぐるみで子どもの安全を守る

 通学路の安全確保に向けては、地域ぐるみで子どもの安全を守る体制づくりを強化していくことも重要だ。文科省がまとめた「地域における通学路等の安全確保に向けた取組事例集」では、学校を中心に、保護者や地域住民、警察等が連携・協働して子どもの登下校などの安全を確保している活動が紹介されている。
 京都府長岡京市では、地元住民から寄せられた通学路上の危険箇所への対策要望を各小学校が取りまとめて教育委員会に報告し、教育委員会や関連部署・機関が対応している。対策要望は毎年100件程度寄せられ、草刈の実施から信号機の新設までと幅広い。あわせて、青色防犯パトロールの巡回やシルバー人材センターによる登下校時の見守り活動も行っている。
 埼玉県嵐山町は、通学路が広域であるため、付き添い登校や見守り活動への負担が大きいことが課題だった。そこで、各区それぞれが区内の見守り活動を実施し、区をまたぐ場合には引継ぎを実施することで活動者の負担を軽減し、登下校の空白地帯の減少につなげている。

見守り活動を行政が支援する取り組みも
 学校単体の見守り活動にも工夫が見られる。京都市立御室小学校の見守り活動では、全国的に担い手不足と高齢化が課題になる中で、大学生がボランティアとして加わっているのが特徴だ。また、見守り隊員の人となりを知ってもらうことが重要であることから、PTA広報誌に顔写真付きの活動紹介を掲載し、保護者への周知を図っている。
 石川県金沢市立夕日寺小学校では、地域住民や保護者によって構成されるサポート隊が、子どもと一緒に通学路の点検を行い、危険箇所のピックアップや「地域安全マップ」の作成を行っている。大人だけでは気が付きにくい、子ども目線での危険箇所の発見や、横に広がって歩いてしまうなど子どもならではの行動も観察できるため、注意喚起につながっているという。なお、活動は、防犯委員会、警察、近隣の大学生、町会・自治会、保護者会、社会福祉協議会など、地域の諸団体と人員・資金の面でも連携して進められている。
 見守り活動に対して、行政等が支援している取り組みもある。熊本県では、見守り活動の財源として1校あたり最大3万円を支給。地域学校安全指導員の経費補助(1回あたり千円)として使用している。「完全ボランティアとするよりも依頼がしやすく、気持ちよく活動してもらえるようになっている」とメリットを挙げている。


自転車乗車中のヘルメット着用を徹底したい

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