持続的な幸福「ウェルビーイング」|教育現場でのあり方とアプローチ
トレンド2030年までの世界の行動指針であるSDGsの17項目の一つに「Good Health and Well-Being(すべての人に健康と福祉を)」が掲げられています。価値観が変化したことによりウェルビーイングへの注目が高まり、経済的な豊かさだけでなく将来そして社会全体の幸福度とは一体何かを考えることがより重要視されています。その過程でウェルビーイングと教育は密接に関係しているといえます。
出典:経済産業省『SDGs』/文部科学省『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申案)』
ウェルビーイングとは
OECD は「PISA2015 年調査国際結果報告書」において,ウェルビーイング(Well-being)を「生徒が幸福で充実した人生を送るために必要な心理的、認知的、社会的、身体的な働き(functioning)と潜在能力(capabilities)である」と定義し、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含む概念としています。ウェルビーイングの捉え方は国や地域の文化的、社会的背景により異なり得るほか、一人ひとりの置かれた状況によっても多様な求め方があります。
出典:文部科学省『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申案)』
教育現場におけるウェルビーイング
コロナ禍や社会構造の変化を背景に、不登校やいじめ、貧困など子どもたちの抱える困難が多様化・複雑化するなか、一人ひとりのウェルビーイングの確保が必要と考えられています。文部科学省は新しい時代に相応しい学校づくりのあり方として、“教員・子ども双方が幸せに感じる”ウェルビーイングな学校施設を創造すると提唱しており、教育を通じて日本社会に根差したウェルビーイングの向上を図っていくことが求められます。
教育におけるウェルビーイングの要素
教育現場におけるウェルビーイングの要素には、以下が挙げられます。
・幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)
・学校や地域でのつながり
・協働性
・利他性
・多様性への理解
・サポートを受けられる環境
・社会貢献意識
・自己肯定感
・自己実現(達成感、キャリア意識など)
・心身の健康
・安全・安心な環境 など
各要素が個人の身体的・精神的・社会的な状態を左右し、それぞれの重要度には個人差や多様性が見られます。
出典:文部科学省『次期教育振興基本計画について(答申)【本体】』『【資料8】ウェルビーイングの向上について(次期教育振興基本計画における方向性)』
教育活動全体を通じた子どもたちのウェルビーイング向上
一人ひとりの多様な幸せと社会全体の幸せ(ウェルビーイング)の実現を目指し、子どもたち主体の教育に転換するために、以下の取り組みが行われています。
・一人一台端末の本格運用に係る環境整備
・学びの継続・保証 オンライン学習システムの展開
・学びの多様化
・新たな学びに対応した指導体制等の整備 など
そして、子どもの主観的な認識でウェルビーイングの向上を判断するために重要とされているのが情報収集です。主観的な認識に関連する主観的指標の例には以下が挙げられます。
・自分の幸福感や友人関係の満足度の増加
・将来の夢や目標を持っている児童・生徒の割合増加
・児童・生徒の自殺者数の減少
・不読率(1カ月に1冊も本を読まなかった子どもの割合)の減少
・自分と違う意見について考えるのは楽しいと思う児童・生徒の割合増加 など
これらを調査・分析し子どもの成長を教育現場から支えるための課題を把握することが求められます。
出典:文部科学省『次期教育振興基本計画について(答申)【本体】』『【資料8】ウェルビーイングの向上について(次期教育振興基本計画における方向性)』『教育再生実行会議 第十二次提言概要. 「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」』
学校環境からウェルビーイングへのアプローチ
ウェルビーイングな学校施設の創造においては、人と違う特性や興味を持っていることが新しい価値創造・イノベーションにつながる学びへと転換すること、個人を取り巻く「場」が持続的によい状態であることが重要とされています。これらを踏まえて学校環境でどのような取り組みを進めるべきかを考えることが必要です。
教師のウェルビーイングの確保
子どもたちのウェルビーイングを高めるためには、教師のウェルビーイングを確保することが必須です。そのために重要視される点には以下が挙げられます。
・子どもの成長実感や保護者・地域との信頼関係
・職場の心理的安全性
・良好な労働環境 など
学校が教師のウェルビーイングを高める場であることは広く認識されるべきであり、教師だけでなく職員や支援人材など、学校の全構成員のウェルビーイングの確保も深く関係していると考えられます。
出典:文部科学省『次期教育振興基本計画について(答申)【本体】』『【資料8】ウェルビーイングの向上について(次期教育振興基本計画における方向性)』
学校施設におけるウェルビーイングの向上
老朽化した学校施設の進行や多様な教育内容・方法等への対応するために、安全・安心で質の高い教育研究環境の整備のほか、バリアフリー化や環境衛生設備が推進されています。
また、省エネ・創エネ対策、災害への防災・減災対策と機能強化などの課題も多く挙げられ、「未来思考で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造する」ことをコンセプトに学校施設も造り変えが求められています。
ウェルビーイングを通して考える未来の社会
ウェルビーイングの向上は、教育現場だけの目標ではなく世界全体が取り組む未来のための指標といえます。個人のウェルビーイングを支える要素として学力や学習環境、家庭環境、地域とのつながりがあります。また、それらの環境を整備するための施策も講じていかなくてはなりません。
子どもたちの未来を見据えたとき、現時点で予測される社会の課題や変化に対応した人材の育成、予測できない未来に向けて自らが社会を創り出していくという視点を持つことが重要になっていくと考えられます。