「職員室のクラウド化」で加速する教員の働き方改革
12面記事チャレンジを称える管理職の後押しと、ミドルリーダーの実行力が鍵
「職員室をクラウド化します!」―。昨年4月1日の宣言から、わずか半年で校務のDX化を実現した練馬区立関町北小学校。その副校長を務めていたのが、現杉並区立松ノ木小学校の笠原秀浩校長だ。いかにして学校一丸となり、「クラウド化」の取り組みを実現したのか、話を聞いた。
記載した内容がデータ連携する仕組みを構築
GIGAスクール構想で整備されたクラウド環境では、教職員の情報を集約することで校務を改善し、子ども一人一人の習熟度や理解度の向上に活かしていくことが目的になる。しかし、約3年が経過した現在も、クラウド上の情報共有の方法に、悩んでいる学校や自治体が多い。
その中で、関町北小学校ではクラウド上で共同編集やデータ連携が可能な「Google Workspace」の機能を使って校務を省力化した。つまり、取り立てて新しいソフトウェアを導入したわけでもなく、どの学校にも配備されたGIGA標準仕様となる環境のもとで実現したのだ。
教員の労力を減らすために構築したのが、表計算アプリケーションで作成した「週案簿」の内容を「連絡帳」とデータ連携させる仕組みだ。しかも、「週案簿」は共同編集によって他の教員の週予定を把握できるようにし、入力した内容は自動的に子どもたちの連絡帳にも転記されるため、教員や子どもへの連絡事項がリアルタイムで共有できる。
さらに、欠席届のクラウド化にも着手。保護者がアンケートフォームに入力して学校へ送信すると、教職員全員が同時に確認できる仕組みにした。また、アンケート機能を使って「個人面談」の日程調整にも利用。集めた情報は自動的に一覧表示される工夫もしているため、教員が日程調整する時間を削減できるのだ。
忙しい朝など情報を一元化できる効果に手応え
これらの効果について笠原校長は、例えば管理職としては、朝、端末を開くだけで、その日、誰がどの時間にどんな授業を行うか、どの子どもが休みなのかを一目で確認できることを挙げた。「教員の空いている時間が分かって補教の指示が的確になり、担任以外も欠席状況を確認できることで、気になる子どもへの対応もすぐにできるようになった」と語る。さらに、その日のToDoリストなども併せて、教員間のコミュニケーションツールとなっているチャットに自動で毎朝定期的に送られるようになっており、忙しい朝の情報確認や指示の迅速化に役立っている。
ほかにも、保健室の来室記録や教育相談室の相談内容をクラウド上で管理し、保健日誌が自動で作成できることで養護教諭等の負担を削減し、管理職への速やかな情報伝達に活かしている。また、校内のミニ研修も「各自が研修動画を作成したものを適宜閲覧し、適宜感想を書き込むスタイルにしたところ、多くの時間を短縮することができた」という。
教職員全員のクラウド活用に向けた仕掛け
ただし、こうしたクラウド化のメリットは教職員全員が活用して初めて生きるものであり、どのようにアプローチして実現したのかが気になるところ。というのも、これまでの校務のICT化では学校全体の情報共有こそが、一番の障壁になっていたからだ。
笠原校長は、「1つには電子化していた週案簿を共有する土壌があったことが大きい。これをクラウドに移行することで、 “以前より楽なのに質が向上した”と実感させることを目標にした」と話す。その達成には環境面の設定はもちろん、メールやホームページで連絡できるものはすべてペーパーレス化して省力化したり、情報の伝達がスピードアップする教職員のチャット利用に教育委員会が理解を示し使用を許可してくれたり、関町北小学校の吉川文章校長が率先してクラウド化の促進を認めてくれたりしたことなど、明確な意図を打ち出したことで多くの人が協力してくれて、推し進めることができたことを挙げる。
その上で、学校が一丸となって取り組みを進めるためには「失敗を恐れずチャレンジする姿勢を称える」管理職の後押しと、その意を酌んだミドルリーダーの理解や言動が鍵になると指摘。「ミドルリーダーが率先してクラウドを活用し、ポジティブキャンペーンをしてくれたことにより、若手やベテラン教員も追随してどんどん進んでいったと思う」と振り返った。
“楽なのに質が向上した”を実感する、大きなステップに
クラウド活用の魅力は教職員の校務の改善だけでなく、そこで獲得したスキルを1人1台端末の授業の創意工夫に活かしていけることだ。加えて、保護者への情報共有・発信の機会を広げられることも大きな魅力だ。同校では、「学級だより」などもクラウド上で配信。登録したメンバーしか見られない場所に写真や動画も掲載することで、保護者が子どもの日々の活動の様子をより具体的に把握できるようになっている。
「ICTは教員の働き方改革を加速させることができる唯一のツールであると考える。学校全体の情報をクラウドで可視化し、そのデータを有意義に活用していくことは、よりよい学級経営や学校経営を助けてくれるものになる」と笠原校長は期待する。
その意味でも同校における校務の改善は、まだそうした過程の第一歩ではあるが、“以前より楽なのに質が向上した”を教職員が実感する、極めて大きなステップになったに違いない。