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新時代の学びに対応した教育環境を

9面記事

施設特集

学校施設改修のボトルネックとは

 学校施設は、今日の学校を取り巻くさまざまな課題に応え、未来へと継承していく、豊かで快適な教育環境に造り変えていかなければならない。しかし、実際の長寿命化改修では技術的なボトルネックが多数存在することが明らかになっている。ここでは、新時代の学びに対応した教育環境のあり方とともに、課題となる事象について紹介する。

長寿命化改修で目指しているもの
 各地方公共団体は、インフラの戦略的な維持管理・更新等を推進するために、個別施設ごとの長寿命化計画を策定することが指示され、昨年4月時点で策定率は98%に達している。
 その中で、公立小中学校の約半数が築40年を経過するなど、老朽化が進む学校施設の改修では、インクルーシブな視点を取り入れた上で、子どものICT活用や学びの変化に対応した柔軟な教室・空間づくりや学校家具の整備を図っていくことと同時に、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた学校施設の環境負荷対策として、校舎自体を高断熱化や高効率な空調等による「省エネ」と自然エネルギーを使った「創エネ」によって改修し、ZEB化を目指すことが求められている。また、引き続き新型コロナウイルス等の感染症予防対策を継続していく中で、教職員の負担を軽減し、安全を担保する各種衛生設備・機器の需要も高まっている。
 加えて、地域の避難所を担う屋内運動場では、天井材や照明器具などの⾮構造部材の耐震化やエアコン設置とともに、近年頻発している集中豪雨による浸水も含め、災害に備えたライフラインを維持する防災機能の強化をより迅速に進めていく必要もある。
 それゆえ、文科省では施設の改修や整備に関わる予算措置を拡充するとともに、今年度は特別支援学校の教室不足解消のための改修や、断熱性が確保されている体育館への空調設置の補助率の引き上げ、物価変動の反映や標準仕様の見直し等による建築単価アップ、新時代の学びを実現する学校施設を整備するための新たな単価加算にも着手している。

学校施設改修の課題を解決する事例集
 しかし、これらを踏まえ、多くの自治体が教育環境向上と老朽化対策を一体的に取り組む際に、「構造体の改修範囲の見極めが困難」「法的制約への対応が不明」「改修のノウハウ不足」などのボトルネックとなる課題が指摘されてきたのも事実だ。
文科省が今年5月に作成した「学校施設の教育環境向上を図る改修等に関する課題解決事例集~既存学校施設を活用したこれからの学びの環境づくり~」は、このようなボトルネックとなる課題を抽出・整理し、対応策を分かりやすく解説したものになる。
 3部構成となる本事例集では、第1部(基礎編)で、学校施設の実態や新しい時代の学びを実現する改修整備の方向性を紹介。第2部(事例編)は、前半で既存学校施設の特性や構造・法令上のポイントを。後半は、改修整備事例を基に目標の設定や検討プロセス、工期等の技術的課題への対応例を解説するとともに、改修時の構造・法令上の具体個別課題への対応例を解説。第3部(資料編)は、改修整備の際の技術的に参考となる情報を紹介している。

教委アンケートから見えてきた課題
 この中で、注目したのは都道府県及び政令指定都市の教育委員会に実施したアンケート結果(回答率92%)を公表していることだ。それによると、長寿命化改修の具体的な内容では、全ての教育委員会から「老朽化対策」の回答があり、次に「トイレの洋式化・乾式化」「壁や窓等の断熱性向上、高効率照明等の導入等の脱炭素化」の回答が半数を超える結果となった。
 実際、市区町村教育委員会でも耐震化の次の大規模改修としてトイレの洋式化を進めたケースが多い。既存の学校トイレは現代の一般的な生活習慣とあまりにかけ離れているからだ。近年では、これに抗菌化や自動水栓化などを加え、感染症予防につなげている。また、建物の断熱性を高め、LED照明などに切り替えることは、エネルギーロスの多い既存学校施設の改修としては極めてマストな対策といえる。
 そのほかでは「非構造部材も含めた耐震対策」「既存の面積資源を有効活用・再配分し、多様な学習活動等に対応できる空間整備」「特別教室、体育館等の空調整備」「内装木質化等の木材の積極的な活用」の順で多くなっている。とりわけ、季節を問わない熱中症事故が学校でも多くなっている中で、体育館の空調整備が遅れていることは教育活動における重大な瑕疵となっている。
 また、長寿命化改修の整備方法は、既存施設をそのまま生かすパターンの回答が大半を占め、増築や構造体を改変する工事は少数であることが分かった。
 その上で、現在、長寿命化改修を実施している中で技術的ボトルネックに感じていることでは、「工期」の回答が最も多く、次に「構造上の問題」「法令上の問題」の回答が続く結果となっている。「工期」については、仮設校舎設置の可否や工事現場での週休2日制の導入なども影響し、学習活動に支障が及ばないよう計画することが難しくなっているようだ。したがって、建築工事と設備工事を分けるなど工事を分けて段階的に行う分離分割タイプの改修、工事範囲・内容を限定して計画的に行うメリハリタイプの改修なども検討されている。

既存のRC造の耐力や規制がネックに
 こうした中、「構造上の問題」の具体的な内容については、構造体の改変が困難であり空間拡張を断念したという回答が多数あった。つまり、既存のRC造の耐力では、壁を抜いて多目的教室にするといった空間を広げることができない校舎が多いのだ。そのため、「多様な学びを実現するための空間(教室・廊下)の可変性をRC造で実現するためのアイデアについて、全国的な共有が必要」といった声もあった。その他、「ICT環境の充実や空調設備の整備に伴い、電気容量に不足が生じ、受変電設備の改修が必要となる」との指摘もある。
 また、「法令上の問題」では、既存遡及、日影規制への対応に苦慮したという回答が多い。防火避難規定や文化財保護法などさまざまな規制が強固されていることや、「既存不適格の改修」が多岐にわたることから、工事予算が想定より増大することがネックになっているようだ。
 一方、今後改善が必要と思われる整備の内容では、「教室空間の充実」の回答が最も多く、次に「トイレ洋式化・乾式化」「職員室等の執務環境の改善」「多目的スペースの整備」「特別教室・体育館等の空調整備」の回答が約半数を占めた。加えて、1人1台端末導入に伴う「机の大きさの変更」「多様な学習活動に対応する家具の導入」を挙げる回答も多くなっている。
 働き方改革を進める中では、教員が働きやすい職場に造り変えていくことも、これからの学校施設には大切な要素だ。学校の予算は子どもにかけることが中心であり、執務環境の改善は後回しにされてきた経緯がある。例えばトイレや更衣室、リラックススペースなど、教職員に配慮した施設設備のあり方にも見直しが必要な時代を迎えている。

技術的課題に対応した改修事例
 本事例集では、このような技術的課題に対応した改修事例を紹介している。例えば増改築が繰り返し行われ、まとまりのない教室配置だった柏市立土小学校は、職員室の周りに普通教室を集約・再配置するなど普通教室、特別教室、管理、地域開放のエリアを整理。拡張が必要な特別教室の改修については、廊下を取り込む、調理室と被服室を一教室とするなど教育内容と擦り合わせを行いながら計画した。
 川崎市立菅生小学校では、既存建物について構造躯体、設備の劣化、光環境、温熱環境などの各種現況調査を実施した後、コンクリートの中性化対策や鉄筋の腐食対策等の老朽化対策、断熱化や省エネ設備の導入等の環境対策を決定した。また、校舎及び体育館の再生整備をするに当たっては、学校を取り巻く関係者によるワークショップを開催。教職員との対話を通じて普通教室周りの展示・掲示スペースや収納など、展開模型も活用しながら実際の使い方を意識しつつ検討した。
 このように、教育環境向上を図る改修を進める際に問題となる構造・法令上の技術的な課題を解決するためには、何より「どういう学校にしたいか」といった明確なビジョンをもった上で、首長部局等と連携した技術的知見を学校関係者と共有し、創意工夫を図っていくことが必要になる。

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