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自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合を世界トップレベルへ

9面記事

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 自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合を世界トップレベルの5割へ―。文理融合型の教育を進め、探究する力を育む新しい理科教育は、デジタル人材の育成を掲げるわが国の政策にも直結する。だからこそ、「新しい理科」は本来の科学的な探究による興味関心を引き出す教育に転換し、国はそれを将来のキャリア形成に引き継いでいける仕組みを構築していく必要がある。ここでは、日本の置かれている現状を整理し、未来を支える理系人材の育成に触れる。

文理横断型の入試や、女性の理工学部進学を促進

わが国の未来を支える理系人材の育成が急務
 周知のとおり、国際競争力が低下し、生産年齢人口が今後さらに減少する中では、わが国の未来を支える理系人材の育成が急務となっている。こうした中にあって、昨年5月に内閣官房が進める教育未来創造会議では「わが国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」を発表した。
 この提言は、わが国が置かれている現状や人材育成を取り巻く課題を踏まえ、目指したい人材育成の在り方を整理した上で、

 (1) 未来を支える人材を育む大学等の機能強化
 (2) 新たな時代に対応する学びの支援の充実
 (3) 学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備

 ―に焦点を当て、今後取り組むべき具体的方策を取りまとめたものだ。中でも、現状では大きく不足している、理系の学修を行うための大学の受け皿を抜本的に拡充することと、理系分野で女性が活躍できる社会を構築することが主眼になっている。
 その上で、本提言ではわが国の未来を支える人材像を「好きなことを追究して高い専門性や技術力を身に付け、自分自身で課題を設定して、考えを深く掘り下げられる人材多様な人とコミュニケーションをとりながら、新たな価値やビジョンを創造し、社会課題の解決を図っていく人材」と定義している。

理系分野への関心やキャリアにつなげる仕組みづくりを
 国際競争力が低下している大きな要因の1つが、大学に進むにつれて顕著になる理科離れで、2030年には先端IT人材が50万人以上不足するといわれている。しかし、わが国の初等中等教育における理数系の学力は依然として世界トップレベルを誇っており、高等教育への道筋で低下する理系分野への関心や、キャリアにつなげる仕組みを強化していくことが課題になっている。
 事実、デジタル人材の育成に向けて多くの諸外国が理工系の学生数を増やしている中で、日本は微減にとどまっているのが現状だ。したがって、本提言では今後5~10年程度の期間に集中的に意欲ある大学の主体性を生かした取り組みを推進。現在35%にとどまっている自然科学(理系)分野を専攻する学生の割合を5割程度までアップし、高専を含めて毎年約30万人程度を輩出することを目指すことを挙げ、学生が文系・理系の区別なく広く深く学び、その成果が適切に評価されるよう大学等の再編を進めるとしている。具体的には、大学設置に係る規制の大胆な緩和、文理横断の観点からの入試出題科目の見直し、全ての学生のデジタルリテラシー向上に向けた、データサイエンス教育の促進などだ。
 その中には、学生が大学での学修の中で専攻分野を決定したり、専攻分野の転換をより容易にしたりする等の複線的・多面的な学びの実現を図る。デジタル人材の育成・確保に向けて、「デジタル人材育成プラットフォーム」において、ポータルサイトを通じて産業界で求められるデジタルスキル標準に紐付く教育コンテンツの提示。地域の中小企業等との連携により、実践的なデジタル技術の実装方法を学ぶ「課題解決型現場研修プログラム」を実施する。デジタル・グリーン分野での需要の急拡大が見込まれる半導体・蓄電池に関して、関連企業等の集積地域において人材育成に関するコンソーシアムを産学官が連携して組成し、地域のニーズに合った人材育成を行うといった施策も盛り込まれている。

理系の素養があっても、理工系学部を選ぶ女性は少ない
 一方、理系の素養があっても、理工系学部を選ぶ女性は少ないのが、わが国の欠点となっている。高校1年生の時点では約4割の女子生徒が国際的にも比較的高い理数リテラシーを持つが、大学で理工系を専攻する女性はわずか7%(男子は28%)にとどまっている。
 それゆえ「女性は理工系に向かない」との偏見から脱却し、理工系や農学系の分野をはじめとした女性活躍を進め、女性があらゆる分野で自ら持つ能力を発揮できる社会をつくっていくための施策を打ち出している。
 具体的には、「理工チャレンジ(リコチャレ)~女子生徒等の理工系への進路選択を促進~」のイベントなど、幼少期からの保護者や学校、社会による理数への学びや性別役割分担にかかるジェンダーバイアスを排除し、社会的機運を醸成する。女子学生の占める割合の少ない分野の大学入学者選抜における女子学生枠の確保等に積極的に取り組む大学等に対して、運営費交付金や私学助成による支援を強化する。女性管理職の登用拡大に向けた大学ガバナンスコードの見直し、学部ごとの女子学生・女性教員の在籍・登用状況などの情報開示の促進を図ることなどを施策として進めていく。また、中学校や高等学校への出前講座など、女子中高生の理系分野への興味を高め、ロールモデルに出会う機会を充実させる。大学教員等の出産・育児等のライフイベントと研究活動の両立支援といった環境を、産学官一体となってつくっていく。

社会に出てからも学び続ける環境整備を進める
 さらに、勉学継続にあたり経済的不安を感じる者が、博士課程では2割以上を占めていることを踏まえ、対策も講じていく意向だ。例えば、現在、修学支援新制度の対象外となっている中間所得層について、負担軽減の必要性の高い多子世帯や理工系・農学系で学ぶ学生等への支援拡充。現行の貸与型奨学金について、無利子・有利子に関わらず、現在返還中の方も含め、より柔軟に返還できる仕組みに見直し。在学中は授業料を徴収せず、卒業後の所得に応じて返還・納付できる新たな制度を大学院生向けに導入なども視野に入れている。
 加えて、日本の企業は学ぶ機会を与えず、個人も社会に出てからの学び直しに消極的な中で、将来にわたって学び続ける社会を構築することは労働生産性の向上につながることから、わが国の今後の成長には欠かせないテーマとなっている。このため、学び直しの成果が適切に評価される仕組みを整え、誰もが生涯にわたって意欲を持って学び続けるための支援や環境整備を行っていくことを掲げている。

今から新しい価値を創造できる人材の育成を
 デジタル人材不足と一口にいっても、日本で嘱望されているのはテクノロジーを応用して、新しい価値を創造できる人材だ。何も、コンピューターや理系の知識がものすごく発達している人物を育てようとしているのではない。そこで求められるのは、予測が困難な未来に対しても情報収集・分析をもとに、自分の頭で考え、行動できる人物である。企業でいえば、プログラミングやデータ分析、デザインスキルなどの能力を持った上で、顧客の要望を解決する、コミュニケーション能力や課題解決能力を兼ね備えた人物ということになる。
 そうした素養を身に付けるためにも、初等中等教育段階における新しい理科には、答えありきではなく、答えを探そうとする力を育む場所にしてほしい。よく知られているが、STEAM教育の世界では「ワクワクする」ことが授業の重要なコンセプトになっている。理科を担当する先生方には、ぜひ、そんな子どもたちの目の輝きが変わるような授業アイデアを取り入れて欲しいと期待する。

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