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サクラ・サク 上岡中学校三年間の物語

16面記事

書評

笠原 昭男 著
荒れと向き合う教師、変わる生徒

 公立中学校の教師を38年間務めた著者が、実体験を基に、荒れと貧困の中にある中学校を舞台に、「一番指導の難しい子」を含む子どもたちや保護者、同僚との関わりの中で、皆が少しずつ変わっていく様子を描いた物語。
 こんなにうまくいくかな、と思うようなエピソードもあるが、そういうことがあるのも現実だし、教師の醍醐味の一つだろう。
 ストーリーの波間に表れる著者のまなざしは一貫して優しく、強い。レクやゲームなどの活動で元気になる子だけでなく、そうした活動に乗れない子、暗い表情の子たちに心を寄せる。合唱コンクールの教育効果を認めつつ、苦手な子を含め全員参加であることや、練習漬けになることには、はっきり異を唱える。事務的に子どもと関わり、一方的に教えるだけなら教師は「ティーチングマシーン」に堕する。だが、子どもの息遣いや秘められた思い、願い、葛藤などはAIには対処できない。だからこそ、自分は子どもや保護者と関わることを最優先にする。それも教師の矜恃だろう。
 主人公は、家庭訪問が生徒や保護者を理解する上でメリットが大きいとし、後輩にも勧める。共感するが、今は難しくなっている。学校が変わりゆく中で、失いつつあるものもある。本書に限らず、教育実践記録が今日なお光を放つのは、「教育は本来どうあるべきか」という問いを発し続けているからだと思う。
(2200円 高文研)
(浅田 和伸・長崎県立大学学長)

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