日本人はなぜ科学より感情で動くのか 世界を確率で理解するサイエンスコミュニケーション入門
16面記事石浦 章一 著
科学リテラシー向上の必要性を強調
本書で解説した「サイエンスコミュニケーション」とは、一般の人の科学リテラシー向上に向けた取り組みのことだ。日本は欧米に比べその担い手が不足しているという。著者は東京大学で担い手の養成に携わった経験を持つ。
表題の問いに関し、日本で過去に血液型診断が流行したことと、その背景に集団への同調意識があったことなどを紹介している。そこで、科学的に正しいかを自分で考えるために科学リテラシーの必要性を説く。その中には、科学の意味と役割を知り自分と社会のために使う方法を含むが、従来の教育では身に付きにくいと明かす。
皆が正しい科学を「理解」「納得」し、「承知」することが重要である証拠に、サイエンスコミュニケーションが不十分だったことで新型コロナのワクチン接種に対する認識が科学的でなかった例を挙げる。著者はワクチン忌避への反駁や、ワクチン効果が95%超とする実験の解説を通じて「理解」を促す。多くの人のワクチン接種によって、感染拡大を防止するという公共の福祉のためにも、接種の意義を、皆が「承知」する必要があったと振り返る。
本書は、日本の現状と課題を示しながら事例紹介を行い、最後に確率論に基づき客観的事実を把握することの重要性を強調する。ここでは、科学的な判断に必要な視点を学ぶことができる。子どもたちの判断力養成に影響を与える立場にある教職員に薦めたい。
(2090円 朝日新聞出版)
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