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日常的なICTの活用とよりよい教育環境を目指して

10面記事

ICT教育特集

オンラインでの座談会の様子

複線で子どもが主語になるような実践を心掛ける

参加者

高橋 純 東京学芸大学教育学部教授
高野 龍之介 新潟市立亀田小学校教諭
長谷川 勇伸 板橋区立中台中学校教諭

 ―はじめに現場の先生方の自己紹介からお願いします。

 高野 採用5年目で、今年度は持ち上がりで小学6年生を担任しています。校内では情報主任としてGIGAの担当もしています。使用端末はiPadで、授業支援アプリやGoogle系のツールを活用しています。よろしくお願いします。

 長谷川 採用3年目で中学2年の理科を担当しています。使用端末はChromebookで、Googleスライドやドキュメント、スプレッドシートのほか、さまざまな授業支援ツールを活用しています。校内にデジタルサイネージを設置し、生徒の作品や学校行事や委員会を表示しているのが本校の特色です。今日はよろしくお願いします。

Q 授業中に児童が端末で関係ない遊びをすることをやめさせるには?
A 1人1台端末に合った授業改善が必要

 高野 新潟市では端末の利用について「学びを深め、学校生活を豊かにするために活用します」「人が嫌がることや人を傷付けることはしません」という「新潟市GIGA宣言」が浸透し、子どもたちは自分たちで使い方を考えながら活用しています。しかし、やってはいけないと分かっていても授業中に不適切な使い方をなかなか止められないというパターンが多く、指導に悩みを感じています。子どもたちの使い方をどのように指導・支援していけばいいのでしょうか。

 高橋 具体的にはどのような不適切な使い方がみられるのですか。

 高野 端末を使うタイミングではないときに「端末をいじっている」「生徒同士で写真を送りあっている」といったことです。

 高橋 仮に端末がない時代に戻って、授業中の不適切な行動とは何かを考えてみましょう。手遊びをしたり、消しゴムを彫ったりするようなことですよね。子どもたちは同じことを今、端末でやっているのではないかと思います。
 コンピューターの良さは、ユーザーが同じ時間、同じ場所にいなくても「非同期分散型」で作業ができたり、クラウドでつながり一つのコンテンツをみんなが手を入れて作る「協働作業」ができたりすることです。
 高野先生のクラスの子どもたちが端末で関係のないことをしているのは、おそらく一斉指導をしているタイミングではないでしょうか。もし、子ども一人一人がやるべき課題を持って取り組んでいるなら、端末で遊んでいる時間はないはずです。一斉指導の授業スタイルを見直し、一人一人が課題に取り組むように変えていくことをおすすめします。
 生活科や図画工作をイメージしてもらうといいと思います。例えば「おもちゃづくり」というテーマがあったら、紙コップやペットボトル、ビー玉などをそれぞれ自分でとってきて、自分のテーマに沿って取り組みますよね。端末を使う授業が生かされるのは、そういうスタイルの授業です。あるいは、先生方の仕事のやり方と同じイメージをしてもいいです。学年の担当や校務分掌ごとにテーマがあり、1年かけて結果を出す。これも課題を設定して取り組むという点で共通しています。
 単線の一斉指導の実践から、複線で子どもが主語になるような実践を心掛けることにより、自分事として課題に取り組めるのではないかと思います。1人1台端末に合わせた授業の仕方に転換していく必要がある、ということです。
 これまでの日本の教育でも「個を大切にする」と言われてきましたが、それはクラスや学年といった集合がまずあって、その中で一人一人を大事にすることに重きを置いてきたのです。でもこれからの教育で必要なのは、まず個があって、つながりたい人同士が手をつないで、だんだんと集団が出来上がっていくイメージです。

Q ノートはアナログ? デジタル? 使い分けの基準は?
A 手書きでは追いつかない世界観で子どもたちは生きている

 長谷川 私はアナログとデジタルの両立の仕方や、両立しやすいツールは何かを知りたいです。理科の実験データを整理するときはデジタルでまとめたほうが効率的ですがノートに手で書く作業はさせたいと思っています。両方をどのように使い分けて効果的な授業を進めていけばいいでしょうか。

 高橋 私たちがスマートフォンを使っているときに「手書きのメモとどのように両立させようか」などと悩みながら操作することはないですよね。誰に決めてもらうでもなく、その人が必要に応じて判断していると思うのです。
 例えば、先日訪問したある学校では、中学1年の社会科・地理分野の単元「オセアニア」で、自分で「仮説」を立ててオンライン上に投稿していく課題に取り組んでいました。教科書や資料集を読んでポイントを拾い出し、Jamboardなどのアプリを使って関連付けやカテゴリー分けをします。仮説が決まったら自分で検索をしながら「検証」のスライドを作ります。
 さらに、スライドを使用し対面でディスカッションをした上で、フィードバックを基にスライドを修正、授業の最後3分間くらいで振り返りをしていました。
 この授業のように、最初のインプットの場面を頑張ろうと思うと、結果的には積極的に端末を使うことになっているのです。今の子どもたちは手書きでは扱えないほどの情報量・世界観の中で動いていて、子どもは必要に応じて使い分けているのです。

 高野 私のクラスでは紙のノートを使う子もいれば、キーボードで入力する子もいます。分数や図は手書きのほうがいいと、アナログと行ったり来たりしながら使い分けているようです。発達段階や教科の特性も影響してくるのでしょうか。

 高橋 発達段階や、求められる資質・能力に応じたコンピューターの使い分けは主に3つの領域に分かれると私は考えています。
 1つ目は、小学校低学年の体験活動や基礎基本の部分。ここではコンピューターを使いこなす発達段階ではないので、体験活動や基礎基本をしっかりと指導するフェーズかと思います。
 2つ目は正解が一つに決まっているような知識・技能の習得の部分です。今までの授業や入試はここに当たりますので、多くの先生方がイメージするICT活用は、まだこの領域止まりなのが課題です。しかし、この知識・技能は今後、AIドリルや学習動画が台頭してきて、子どもは一人で知識・技能を身に付けることが可能になるでしょう。
 では、教員が今後取り組むべきICT活用はどこになるのか。それは3つ目の領域である、思考力や判断力、表現力などの高次の資質・能力を育成する部分です。決まった正解がなく、深く掘り下げるほど学びになる、そんな授業をするには、AIドリル活用とは異なるICT活用観や授業観が必要です。算数や数学は答えが決まっているから、AIドリル型の端末活用だけでいいかというと、そうでもありません。答えに至るまでのプロセスは一人一人違う。それを追究していけば新たなICT活用観に基づいた授業ができると思います。
 ChatGPTなど人工知能を活用したツールが進化する時代です。コンピューターではできない見方・考え方を働かせるような勉強をすることが、これからの学びの意味になります。そういう点では先生方に求められている力もハードルも上がってきています。

Q 端末に向き合ってばかりで人間関係が希薄にならないか
A パーソナライズされた学びが子どもを楽にする面も

 高野 私も子どもたちには学校でしかできないことを経験してほしいと思っています。でも休み時間もタブレットで遊んでいる子も多くて……。みんなで遊べばいいのになと思う気持ちもあり、人間関係が希薄にならないかと寂しさを覚えます。

 高橋 ここ10年間で不登校は約2倍、特別支援学級で学ぶ子や、外国にルーツを持つ子どもも増えています。もはや「普通」とか「こうあるべき」という、子どもの姿は一つに決められなくなっていると思うのです。端末で遊ぶのが好きな子はそうするし、みんなで遊びたい子はそうする、という方向しかないのではないでしょうか。
 例えば有名なラーメン店は、麵の太さやゆで加減をオーダーできて自分好みに味を調整できます。ネットフリックスのような動画配信サービスも、視聴傾向に合わせておすすめの動画が一人一人違うように表示されます。自分の好みに合ったやりとりをする「パーソナライズ」が社会の潮流なのです。
 そうした中で、みんなとかかわり一致団結して取り組むことの価値は伝えていくとしても、それを子どもに強いるのは難しいのではないでしょうか。授業でも同じです。複線型の授業を始めたら、ひとりごとを言う子どもは「うるさい子」ではなく、課題に一生懸命「集中している子」と捉えることができます。一斉指導では見えなかった、その子なりのやり方を教員が認められるようになるかもしれません。

Q 特別活動に協働を取り入れるためのポイントは?
A 協働ありきではなく、課題感やミッション感を大切に

 長谷川 授業以外の、委員会活動や行事にも協働の部分を増やしていきたいと思っています。どのような実践例がありますか。

 高橋 協働がどのように生まれてくるのか、という角度から考えてみるとヒントがあるかもしれません。
 先日、インターネットである講演を聞いていて、興味深い話を知りました。その講演によると「人類が地球上、どこでも生活できるのは言語を駆使して知識を伝達し、蓄えることができるからだ」と聞きました。
 それを聞いて、協働とは人類が生き残るために行う必然的な行為なのだと理解しました。だから、協働には課題感、ミッション感が伴うのです。そこから見ると委員会活動はそもそも、先輩から後輩にノウハウを伝えるミッションであり協働です。「ICTを使って協働をさせなければ」と力まずに、どんなところでコンピューターを使うとより協働が活性化するかを考えていけるといいですね。

 高野 高橋先生のお話を聞きながら、子どもの協働は、我々の仕事と似ているのではないかと思いました。私たちも1クラスを担任して個別に動いているような感じはするけれども、協働するところはして、1つの授業を検討するときも多面的に意見を出します。協働することの良さを働きながら感じているので、子どもの学び方にもそうした視点を取り入れることが大切だと思いました。

 高橋 変化の激しい時代に新しいことを生み出さなければいけないときに、根本的な原理・原則から発想することが必要です。子ども一人一人に力を付けていくという教員のミッションは絶対に変わりません。先輩の話は謙虚に聞くとしても、それをそのまま真似するのではなく、原理・原則に照らし合わせて解釈し実行していってください。

 ―本日はありがとうございました。

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