地域発 学生が主役の地方創生 自らの企画推進を通して地域の課題と未来を考える
11面記事世代や所属の垣根を超えさまざまな意見が飛び交った(ワークショップ)
学生主体で考える「地方創生」
いま、学生主体の「地方創生」の取り組みがにわかに活気を帯び始めている。e―ラーニングなど地方創生を学び理解する環境も整い始め、地域の他大学の学生を巻き込んで自らワークショップを主導する学生も出てきた。昨年12月から今年2月にかけて静岡を舞台に開かれたワークショップ、フォーラム「静岡発 学生が主役の地方創生」を取材し、地方創生をキーワードに学びを深めている学生たちの姿に迫った。
地域課題の解決に必要な人材育成
現在わが国では、少子高齢化や産業・社会の担い手不足といった地域課題の深刻さが増しており、それに対する社会的関心度も急速に高まっている。キーワードとなるのが、地方が持つ力や良さを伸ばすことで課題解決を目指す「地方創生」だ。
地方創生にはそれを担う人材、特に若年層の継続的な育成が欠かせない。地方それぞれの創生を実現できる若者へのアプローチが喫緊の課題となっている。
「学生にとって理想のまち」をワークショップで明らかに
「静岡発 学生が主役の地方創生」は昨年12月、今年1月にあった大学生による計4回のワークショップでのグループ討論で出された地方創生のアイデアを、社会人、高校生も交えた2月のフォーラムで掘り下げる形で開かれた。「学生にとって理想のまちとはどんな姿だろうか?」とテーマ設定されたワークショップには延べ約60人が参加。「地方創生カレッジ」のe―ラーニング講座で蓄えた知識を地方創生に生かし、自らの進路に役立てたいと願う学生たちが多く参加した。
そんな学生の一人が常葉大学造形学部1年の大浦美穂さん。大浦さんは静岡県浜松市の出身で、これまでも住民の交流促進やフリーペーパーの取材・執筆、科学館でのボランティアなどさまざまなかたちで地域貢献に汗を流してきた。今回は課外活動として所属している団体を通じて、ワークショップを裏方としてサポートするために参加したが、元々は地方創生というテーマに強く興味を持っていたわけではなかったという。
大浦さんは「ワークショップは学生が企画や運営をしていたので、とても参加しやすく内容も取り組みやすかった。当日は私も参加者として、地方創生に取り組む先輩や関心分野が違う人たちと交流できました」と語る。
大浦さんは、地方創生について関心を抱くきっかけとなった「地方創生カレッジ」のe―ラーニング講座についても、「最新の地方創生の事例を数多く学ぶことができた」と打ち明ける。とりわけ、多世代の人たちが交流できるまちづくりを紹介していた講座「生涯活躍のまち」では多世代間の交流の重要性が語られていたといい、大学で選択している授業のレポートのテーマに選んだこともあった。そうした経験が今回のワークショップでも生かされたわけだ。
地方創生との関わり方については、「自分ごととして考えていかないといけない課題。まだ1年生なので大学内だけでなく外の世界のさまざまな人と交流をして価値観を広げたい。「地方創生カレッジ」のe―ラーニング講座で知識を蓄え、自分の進路に役立てていきたい」と夢を語った。
地域のコミュニティーづくりを足掛かりに
また、静岡県牧之原市出身で高校時代から地域の茶生産に関心を持っていたという静岡県立大学経営情報学部3年の戸塚愛琳さんもワークショップに参加し、新たな学びや気づきを得て、ふるさとの地方創生に対する思いをより一層膨らませた。
戸塚さんは「まずチームで静岡の理想像を考えることから始め、どうすれば若者たちに魅力的なまちになるのかについて意見を出し合った。『Uターン・移住したくなるまち』という理想を実現させるため、小さいころからの教育環境を整えるとともに、人のつながりや誰もが生き生きと活躍できる場、子育てや仕事のしやすさも必要だと考えた」という。
こうした議論を経て、戸塚さんは「私たち学生ができることの一つとして、地域の高校生、大学生が子どもたちとつながることができる場所づくり」を提案。「学生が地域の子どもたちに勉強を教えたり、遊び相手になったりすることで、地域一体となって子育てをサポートできる。学生が地域の中でさまざまな経験ができ、心理的なよりどころとなるようなコミュニティーをつくることで、自分たちの理想のまちに近づいていける」と手応えを感じていた。
戸塚さんも事前に「地方創生カレッジ」のe―ラーニング講座を受講した。「これまでは地方創生という言葉はふわっとしたイメージでしか考えられていなかった。今回ワークショップへの参加や「地方創生カレッジ」の無料講座受講を通して、地方創生は『そこに住む人が豊かに過ごし、やりたいことを実現するために、みんなで協力してまちづくりをしていくことなのかな』とより具体的に考えられるようになった」と学びの効果を実感していた。
サードプレイスの必要性を実感
2月19日に静岡県立大学で開かれたフォーラムには事前申し込みをした約40人が参加した。グループ討論では「小学校1年までさかのぼって、『これまで地域のために取り組んだ』活動を考えよう」をテーマに意見交換。高校生、社会人を含めた参加者が、自らの体験をカラフルな付箋に書き込み、テーブルに置かれた模造紙に貼り付けながら、地域の祭り、イベントに参加した体験や、学校単位で廃品回収やベルマーク集めに関わった体験を語り合った。
次いで「高校生・大学生の視点で地域のためにできる活動を考えよう」にテーマを移し、討論を進めた。討論の締めくくりでは、「地域の人や学校の先輩にしてもらったことを引き継ぎ、地域に恩返ししていく」「SNSを通じて、地域活動の参加者が勝手に発信していく」「高校の『総合』の授業を生かして、フィールドワークを通じて地域と交流する」などの意見が見られた。
ワークショップ、フォーラムで中心的役割を担った静岡県立大学経営情報学部3年の山本茉由さんも、「地方創生カレッジ」のe―ラーニング講座を受講したことが、今回のプロジェクトの内容を決めていく上で大きな参考になったという。「受講した講座『生涯活躍のまち』は多世代交流をテーマにしており、お年寄りや子どもたちが支え合うまちづくりのケース。とても良かったが、私たち学生の存在が抜けていることに気付いた」と振り返る。
これがヒントになって、地域のために学生は何ができるか、というスタート地点に立つことができた。「大学生や社会人は家と会社や学校の往復だけでサードプレイス(第三の居場所)を作れない人が多いと見聞きしていたので、若い世代が積極的に地域に入って、サードプレイスとしての居場所をつくることで、住み続ける動機になると思った。学生や社会人の居場所があれば地域もより活気付くはず」と確信した。
山本さんは今回のプロジェクト全体を振り返り、「街づくりや地方創生に関わっていく中で、地域の課題が自分ごとになり、視野が広がることで自分の成長にもつながる。皆がそれぞれに強い思いを持っていて、その思いをわだかまりなく話せる場を設けることが、地域社会を形作っていく上で必要だと改めて気付いた」と前を向いた。
山本さん(左端)の主導でグループごとに討論が行われた(フォーラム)
参加者それぞれの体験を基にして話し合いが進んだ(フォーラム)
参加者の声
小林直央さん
(静岡市立清水桜が丘高2年)
もともと地域の活動に参加したいと思っていた。なかなか踏み込めずにいたが、今回担任の先生に勧められて参加した。頭の中で考えていることを実現していくのは難しいことだが、少し上の世代の大学生と交流してみると、自分が将来地域社会に向けて何がしたいか、という選択肢につながってくる。大きなヒントをもらえた。
青木康輔さん
(静岡サレジオ高2年)
これまで地域の祭りの運営を手伝うなどしたが、普段の高校生活の中では地域のことは知っているようで何も知らない。大人の人たちが考える静岡の姿は大変興味深かった。大学進学で静岡を離れることがあっても、育った場所との関係は切っても切り離せない。地方創生は人と人のつながりが基本。いずれは戻ってきて地域づくりに参加したいと思った。
井出雄大さん
(静岡銀行地方創生部地方創生グループ課長)
若い人たちからたくさんの宿題をもらった。社会人の立場では気付けない発想やアイデアであふれていて、地域の企業として実際の仕事につなげていかなければならないと感じた。若い人たちの視点を生かし、取り入れていくのは地域の企業としてもちろんのことだが、個人の立場でも地域社会そのものに関わっていくことが大切だと気付いた。
学生が学んだ「地方創生カレッジ」とは
今回取材した学生たちの活動指標になっているプラットフォームが、地方創生の本格的な事業展開に必要な人材を育成・確保するために創設された「地方創生カレッジ」だ。地方創生を進めていく上で役立つスキルや全国の優れた事例を学べる場で、地方創生を実践する人と相互に交流できるメリットがある。
第一線で活躍する専門家が講師を務めるe―ラーニング講座の受講者は全国で約4万人(今年2月末時点)。受講は無料で、「脱炭素」「SDGs(持続可能な発展目標)」「デジタル」など現在注目を集めるテーマを取り扱う。高校生や大学生にとっては日ごろの学習活動や将来目指すキャリアを確認する場となるとともに、地域を良くするためのアイデアを生み出す手助けにもなる。
本記事で取り上げた「静岡発 学生が主役の地方創生」のダイジェスト動画も公開中。今回の取り組みの詳細はホームページ(https://chihousousei-college.jp/e-learning/school.html)で。