子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む
15面記事工藤 勇一・苫野 一徳 著
対話による社会づくりを学ぶ場に
学校改革の実践者である工藤勇一氏が、哲学者・教育学者の苫野一徳氏を相手に、ライフワークと宣言する「日本の学校を民主主義の土台にする」ことについて語り合う対談本である。
工藤氏が目指す民主的な社会は「誰一人置き去りにしない社会」だ。民主主義では、より良い社会を目指し、対話を重ねながら社会やルールをつくっていくことに意義があるが、日本では国民が「自分たちで社会をつくる」という当事者意識を持てていない。
多様性の中で生きていく力を育むのが「民主主義教育」であり、学校改革の全ては「学校を民主主義を学ぶ場所に変える」ことにつながる。
「民主主義」が誤解を生みやすい言葉でもあるために、これまで意識的に使わないできた工藤氏が、封印を解き、日本の学校に民主主義教育を広めるために旗を振るとの強い覚悟を感じる。その戦う姿勢を支持したい。
また、これまで民主主義の成熟を妨げてきたものに、一見美しいが、できもしないことをゴールに設定する「心の教育」があるとの指摘は、文部科学省初等中等教育局の人たちにも、かみ締めてもらいたいものだ。
工藤氏が強調する通り、学校の改革を主導するのは、文科省でも教育委員会でもなく、教育の現場にいる教員だ。その現場で苦闘する教員への力強いメッセージとなっている。
(1980円 発行 あさま社、発売 英治出版)
(浅田 和伸・前国立教育政策研究所長)