科学はこのままでいいのかな 進歩? いえ進化でしょ
15面記事中村 桂子 著
効率・便利さ重視を問い直す
この本の書名を改めて見てほしい。文末が「いいのかな」となっている。「いけない」とは言っていない。「いい」とも言っていない。そもそも、この「ちくまQブックス」というシリーズのコンセプトが、「クエスチョン(Q)から、クエスト(Q)へ」つまり、「疑問から探究へ」ということにあるのだ。
現代の科学、あるいは科学技術の進歩は目を見張るばかりであることは言うまでもあるまい。だが、現代社会が抱えている問題はあまたある。異常気象、パンデミック、戦乱、いじめ、虐待、差別、貧困等々山積みである。目を見張る科学の進歩の中にあってなおである。
そこで、JT生命誌研究館名誉館長、理学博士の著者は問う。「科学はこのままでいいのかな」と。重い問いだ。難問である。だから、著者は「考えてみよう」と訴えるのだ。そして、考えていく上での重要なヒントを明示する。
「人々の価値観が『機械論』になっていったのです。それは、全体を見なければわからない生きもの、こころを持っている人間まで機械のように見ることにつながっています」「『生命論』をもとにした社会づくりをすること。これが、今世界中で起きているさまざまな課題を解決する方法だと私は信じています」―効率と便利と快適を求めてきた機械論的科学観に生命論的科学観の視座の導入をと説く。警世の一書に注目し、著者の警告に深く思いを致したい。
(1210円 筑摩書房)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)