教員の働き方が便利で楽になるICT環境を
10面記事GIGAスクール構想の標準仕様によるビジネスチャットで授業にコメントする教頭先生(春日井市立出川小学校)
学校の仕事の質を高める1人1台端末の活用法
高橋 純 東京学芸大学教授
学校現場では、教職員の職務が複雑になり、勤務時間の増加が問題視され、働き方改革が急がれている。そんな中、学校のICT化は進み、教員の日々の業務の効率化が期待されている。ICT活用の現状や今後の在り方について東京学芸大学・高橋純教授に聞いた。
学校のデジタル化を推し進める基盤は、まずは教員が便利で楽になったと心から思えるICT環境にある。
しかし、教員個人にはメールアドレスも付与されず、ビジネスチャットも使えず、電子掲示板を使うことが求められている地域も多くある。校務パソコンのある自席でしか使えず、朝に一回電子掲示板を見るのが精一杯の教員も多いだろう。制限されたコミュニケーションで、教員が便利さを感じるはずもない。電話をした方が早いと思うことも多いだろう。
また、いまだにUSBメモリが必要な地域もある。不便で使いたくなくても使うしかなく、教員が紛失等で処分された報道もしばしば耳にする。しかし、このような不便な環境を作った者が責任を問われたとはあまり聞かない。結局、担当者は、セキュリティー対策の名の下に、利用者に不便な環境を作ってでも、できるだけ情報を保護した方が自らの利益にかなう。ここにシステム担当者と利用者との相反がある。両者の利益が一致するような組織作りが必要だ。
こうした環境を敬遠して、教員間の連絡に、個人スマートフォンによるメッセージアプリを非公式に多用している学校もあるだろう。その方が便利で楽で、世の中の一般だからである。せっかく校務システムに大きな予算を割いたのに残念である。
今後は、GIGAスクール構想の標準仕様で整備された最新のクラウド環境を、授業だけではなく、日常の校務でも上手に活用していきたい。これらはビジネス界の一般的なシステムであり、つまりは使い勝手も良い。ビジネス向けにできているので、全ての作業が記録されるなど、情報セキュリティーの機能も充実している。もちろん通知表などは従来通り専用の校務システムを活用する。
しかし、例えば、クラウド上に、共有フォルダがあり、自分のコンピューターにファイルをコピーするなど、約30年前から続く活用法をしていないだろうか。こうした昔と同じ活用法でも使えるが、今はファイルそのものではなく、ファイルの置き場所を共有、つまりURLを共有するのである。URLの共有にはチャットが欠かせない。結果、校務の流れも大きく変わり、校務がはかどる嬉しい感覚を覚える。授業でも同じように活用できる。このように活用法も最新の状態にアップデートしないと真価を発揮できない。しかし、ここでも昔の活用法しかできないように規制をかける自治体がある。せっかくの最新環境は、最新の活用法に合わせた情報セキュリティー対策が必要になる。
私が座長代理を務める文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議」では、校務の会議にもかかわらず、GIGAスクール構想と会議名にある。授業と校務の情報化を一体的に捉えているからである。こうした一体的な取り組みが基盤となって、授業での一人一台端末の活用も豊かになるのである。年度末に公表される見込みの報告書もご参照いただきたい。