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大人になるってどういうこと?「18歳成人」から社会で生きる力を学ぶ

12面記事

企画特集

河口教諭を中心にディスカッションを行った

 2022年4月1日より成年年齢が18歳に引き下げられた。当事者である高校生は成人についてどう受け止め、何に戸惑っているのか。また、保護者や学校現場ではどのような対応が求められるのか―。日本教育新聞社は、成年年齢引き下げに伴い「成人」「大人」になることを考えるきっかけの一つとなるよう、10月1日から11月30日までの2カ月間にわたり「18歳成人オンラインフェア」を開催。高校教員、高校生、保護者が18歳で成人となることを正しく理解し、積極的な社会参加を促すための指導について有識者や高校教員、高校生のセッションを行った。ここでは、同オンラインフェアの様子をお届けする。

オープニング
学校現場で求められること

安彦 広斉 文部科学省大臣官房審議官 初等中等教育局担当

 オープニング動画では、安彦氏も携わった学習指導要領の成年年齢引き下げに関わる事項を例に取り上げながら、今後、学校現場で求められることについて話した。
 具体的な教科として、家庭科では消費者契約・保護の知識、公民科では主権者として良識ある公正な判断力を身に付けるためのメディアリテラシー教育、自治意識の指導、総合的な探究の時間では、生涯にわたって自ら学び続ける人に育てるための取り組みが重要になるとの見解を示した。
 最後に「高校生が政治や社会を身近に捉える姿勢を育むためには、主体的・対話的で深い学びを今後も進めるとともに自己肯定感や自己効力感を高める授業の取り組みも大事にしていただきたい」と述べた。

特別座談会
現場の教員は何をすべきか 学校や教員に期待することは
合田 哲雄 文化庁 次長(前内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局審議官)
神内 聡 弁護士兼兵庫教育大学大学院 准教授・
松本 祐也 岩倉高等学校社会科教諭


左から松本教諭、合田氏、神内氏

 特別座談会では、教員と弁護士と行政の三者から「成年年齢引き下げによる学校での問題」をテーマに話し合った。
 神内氏は「18歳成人で将来を考えるチャンスや可能性が増える」と期待をする一方で、「18歳成人の学びの到達点が教科によって異なるため、学校現場で戸惑いがある」と問題提起した。これについて合田氏は「18歳成人を『〇〇教育』というくくりで考えすぎないことも大事」と返した。2017年の学習指導要領担当課長であった観点から、消費者教育を例にあげると、家庭科ではクーリングオフなどで実生活に照らし合わせた学び、社会科では消費者被害を生む社会構造の問題を掘り下げるなど、テーマを俯瞰して教科を超えた密度の濃い学びを提案した。加えて、「総合的な探究の時間でも18歳成人に焦点を当ててほしい」「大人として社会にとどのように向き合っていけばよいかについて生徒と対話し、問い続け、自分ごとのように考える学びをしてもらいたい」と呼び掛けた。
 松本教諭は、外部の人とプロジェクトチームを組み、連携して研究活動を行ってきた取り組みを成人教育でも生かしたいと発想を広げた。また、「18歳成人は生徒だけではなく教員にとっても社会を考える一つのきっかけとなる」「特別座談会を経て、改めて知らないことを知るのは楽しく、今後も学びを深めていきたい」と締めくくった。

セッション・ディスカッション
コーディネーター
河口 竜行 渋谷教育学園渋谷中学高等学校教諭

参加校(50音順)
飛鳥未来きずな高等学校
筑波大学附属坂戸高等学校
武庫川女子大学附属中学校・高等学校

高校生セッション
18歳で大人になるのは早い?それとも遅い?

 「理想の大人像は?」という河口教諭の問いかけから高校生セッションがスタート。それぞれ「感謝を伝えられる人」(岡本さん)、「見て見ぬふりをしない人」(武藤さん)、「責任感を持って行動と発言ができる人」(田上さん)と答えた。18歳で成人になることについて「早い」と受け止めており、「社会に出るタイミングが個々に違う」(岡本さん)「大人の自覚は、既存の成人年齢にあわせて持ってしまう」(田上さん)などがその理由だ。
 「18歳選挙権についてはどう?」と問う河口教諭に「政治に関心を持つきっかけになったが、知識が浅く自信がない」と3人。自信をつけるには「選挙に行く意味を考え、正しい情報と信頼できる人を見分ける力をつけること。関心を傾け、調べる姿勢を持つことが大事」と考察した。

高校教員セッション
生徒に何を教える必要があるのか

 18歳成人の自覚を持たせ、大人として生きていく力をつけるために授業や学校活動でできることを話し合った。橋本教諭は「社会の力になれる実感を持ってもらうことが大事。総合的な探究の時間で社会問題にアクションを起こすためにセミナーを開いたり、活動団体の方と行動したりしている」。柴田教諭は普段から「わからないことを知ろうとする姿勢を育てたい」と話した。18歳選挙権について河口教諭は、高校生セッションでの話も踏まえ「高校生は、大人なら候補者について完璧に知っていると勘違いしているよう。わからなくてもいいよと伝えることも大事だと思う」と言及した。
 「大人が守ってしまって子どもの成長を抑え込んでいる側面がある。変わるべきは教員と保護者なのかも」との河口教諭の投げかけに対し、中原教諭は「生徒会活動では、企画書作りを生徒が担当。自分たちでやれば失敗もよい学びになる。生徒に任せる姿勢を持ちたい」と話した。

高校生×教員ディスカッション
社会参加への意識のきっかけは?卒業までに学びたいことは?

 ディスカッションでは、高校生と教員が互いに質問し、話し合いを行った。
 冒頭、武藤さんは「18歳成人で最低限身につけるべきことは?」と教員に質問。「リスク回避については必須」と橋本教諭。柴田教諭は「挨拶ができ、感謝を伝えられること」、中原教諭は「責任感と決断力」と答えた。田上さんは「先生たちが社会参加に意識を持ったきっかけ」を質問。柴田教諭は、自身が高校3年次に選挙権を持ち、少しずつ意識が芽生えたそう。「教員になって公民科の授業づくりをするようになってから、このままではいけないと目覚めた」と振り返ったのは橋本教諭。中原教諭は「就職活動を始めたとき」。社会にどのように貢献できるかを考え「自分は社会の一員としての存在を自覚した」と思い返した。
 中原教諭からは「卒業までに学校で教えてほしいこと」について高校生へ質問。岡本さんは「アルバイトで収入を得る側になるので、投資や株式などのお金の仕組みを知りたい」田上さんは「社会常識、礼儀作法、マナー」を挙げた。武藤さんは「リスク回避の基準が知りたい」と質問。「価値観を押しつけてくる人、答えを決めつけてくる人には気をつけて。信用できるメリット・デメリットを説明し、選択肢をあたえてくれる人」と教諭たちが答えた。
 最後に河口教諭は「大人になるって不安いっぱいだよね」と共感し「『自立しすぎないで』と言いたい。大人になっても知らないことはたくさんある。一人で考えず、周りの大人に頼ってほしい」と語りかけた。

セッション参加校インタビュー
18歳成人を通して考えて感じたこと

 筑波大学附属坂戸高等学校の武藤さんは、教育に興味を持っており、橋本教諭からの声掛けで参加を決めた。「まさか、こんなにも大きなイベントだと知らずに受けたので、とても緊張しましたが勉強になることが多く、すごく楽しかった」と武藤さん。橋本教諭は、大学時代に教職課程で成年年齢引き下げに関連する教え方や伝え方の指導を受けたことも踏まえ「知識として習ったことを生徒に伝えるのは難しい。ただ、大学時に学んできたことを活かせていると思う」と話した。
 飛鳥未来きずな高等学校の田上さんは「初めて同世代の人と成年年齢引き下げについて話して刺激を受けたことはもちろん、大人の意見も聞けて良かった」「オンラインフェアを経て『自分らしさ』も大事にしたい」と振り返った。柴田教諭は、今後の授業でも取り入れられることがあると手応え感じた上で「生徒にわからないことがあっても挑戦をしてみるよう声掛けをしたい」「もっと生徒自身に考えさせる授業づくりをしたい」と来年度に向けた抱負を話してくれた。
 武庫川女子大学附属中学校・高等学校の中原教諭は「大人が思っている以上に当事者の生徒は『成年年齢』について考えを持っていて、もっと生徒に考える場を提供したい」と話し、岡本さんの知らない一面を知ることができたという。岡本さんは「7月に選挙があったから、耳にすることが多かったけど、少し他人ごとだった。今回オンラインフェアに参加して考えるきっかけになった」と話した。


筑波大学附属坂戸高等学校
(左)武藤 ゆか さん、(右)橋本 大輝 教諭


飛鳥未来きずな高等学校
(左)田上 樹里 さん、(右)柴田 大輔 教諭


武庫川女子大学附属中学校・高等学校
(左)岡本 茜 さん、(右)中原 知子 教諭

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