日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

来たるべき時代の教育と教育学のために 能力開発から能力制御への重点移動

16面記事

書評

安彦 忠彦 著
地球的危機を前に根本から捉え直す

 「原子爆弾の登場」以後、人類は危機的状況に直面した。SDGsはその延長にある地球的危機への対応であり、新たな「教育」と「教育学」を実行しなければならないというのが著者の問題意識である。危機は能力開発を突き詰めた結果であり、今後は能力制御も併せた「教育」が必要だと主張する。
 「教育」とは何を指すのか、教育と環境、「教育の目的」は何か、「教育の領域」にはどんなものがあるか、「教育の内容」は何か、「教育の方法」は何か、「教育の効果」は何か、国の教育行政の在り方、未来に向けての教育の提案―の各章で構成。ともすれば自明視される考え方や概念についての著者独自の捉え直しから、教育の本質があぶり出されていく。
 例えば「性善説」に依拠した教育でよいか、子どもの「無限の可能性」という表現は正しいか、「公教育」に「人材(財)養成」はなじむのか、なぜ「非認知領域」を過度に、一面的に強調し過ぎることは正しくないのか、義務教育で「必修・必須」となるものは何か、「基礎」と「基本」はどう違うのか、「資質能力」ではなく「資質・能力」とするのはなぜか…。
 日本カリキュラム学会設立に尽力し、中央教育審議会委員などを務め、日本の教育課程に影響を与えてきた著者の「終活の一つ」という本書は「あなたならどう考える?」との問い掛けに満ちている。差し出されたバトンをわれわれは上手に受け取れるだろうか。
(2200円 教育出版)
(矢)

書評

連載