日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

一人ひとりを大切にする学校 生徒・教師・保護者・地域がつくる学びの場

16面記事

書評

デニス・リトキー 著
杉本 智昭・谷田 美尾・吉田 新一郎 訳
「令和の日本型学校教育」の指針に

 「誰一人取り残すことのない学校」。時代がようやく本書に追い付いた。原著は2004年に刊行されたが、今年8月に日本語訳が出版された。著者が米国北東部の小規模な公立高校(以下、MET)での、一人ひとりを大切にする(one student at a time)教育実践を語った本である。METは今や、全米および世界113校ものモデルとなっているビッグ・ピクチャー・ラーニングの基幹校である。
 これまで問題児と言われ続けた生徒、勉強が好きでない生徒、さまざまな課題を背負った生徒たちが、METに入学して変わり続けていくエピソードが多く紹介されている。METの文化は敬意と信頼に満ちており、それによってポジティブな行動が生まれているのだ。
 では、METでは、どのように一人ひとりを大切にしていくか。それは生徒個人の興味・関心に基づいた「個別カリキュラム」であり、少人数の生徒と一人の教師が強い絆でコミュニティーが形成される「アドバイザリー制度」である。また、地域に協力を求め「インターンシップ」を実現させることによって実社会での「リアル」を体験したり、学びのプロセスを重視する「エキシビション」、生徒の学びの状況をつづる「ナラティブ」等々である。
 多様な子どもたちの資質・能力を育成する「個別最適な学び」と、社会とつながる「協働的な学び」の実現を目指す「令和の日本型学校教育」への指針となる一冊である。
(2640円 築地書館)
 (青木 一・信州大学学術研究院准教授)

書評

連載