文科省、令和5年度概算要求を発表 教育環境の向上と長寿命化を推進
11面記事新しい時代の学校施設づくりを目指す
今回の概算要求では、子どもたちの多様なニーズに応じた教育環境の向上と老朽化対策の一体的整備を図るため、公立学校施設整備に2104億円、国立⼤学・⾼専等施設整備に1000億円、私立学校施設等整備に329億円を計上した。
このうち、公立学校施設整備では約8割の建物が老朽化する中で、トータルコストの縮減につながる計画的・効率的な施設整備を実施して長寿命化を図ることが主目的になる。また、その中では遅れているバリアフリー化、特別支援学校の整備、少子化や義務教育連携に伴う統廃合に対応した、他施設との複合化・共用化・集約化を推進することが盛り込まれている。
もう一つのポイントになるのが、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、脱炭素社会の実現に貢献する持続可能な教育環境の整備を推進することだ。ここでは、学校施設のZEB化を念頭に、高断熱化、LED照明、高効率空調、太陽光発電といった整備を進めるとともに、人や環境にやさしい内装木質化などの木材利用を促進すること。すなわち、高効率空調などの「省エネ」と太陽光発電などの「創エネ」によってエネルギー収支ゼロの建築物を目指すことを求めている。
防災機能の強化はプラス事項要求で
さらに、激甚化・頻発化する災害への対応に向けた防災機能の強化については、例年通り、プラス事項要求となっている。こうした背景には、政府の国土強靭化計画では学校施設が国の重要インフラとして指定されているのにもかかわらず、対策が遅れていることがある。
特に、体育館は災害時には地域の避難所として使用されることから防災機能をより一層強化しなければならないが、スペースが広く、自治体の負担が大きくなることから、非構造部材の耐震化をはじめ、高断熱化改修、エアコンなどの空調や多機能トイレの整備の遅れが指摘されている。
しかも、近年では豪雨災害の頻発化によって浸水や土砂災害への危険性も高まっている。その中で、公立学校の3割が浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地している実態もあり、早期の対策を図るためには文教予算を超えた財源の確保が重要となっている。
なお、こうした地域住民の避難所としての防災機能を強化する設備としては、非常用発電機・蓄電気、LPガス備蓄による災害用バルク、マンホールトイレ、公衆Wi―Fiなどの整備。加えて、浸水対策としては受変電設備の高台化や止水版の設置などが望まれている。
建築費用の補助率や単価アップを拡充
一方、文科省ではこうした学校施設の整備を行うための具体的な支援策として、補助率を引き上げている。制度改正としては、特別支援学校の教室不足解消に向けた取り組みを含む学びの環境整備等のための改修等の補助率を、3分の1から2分の1に引き上げ。断熱性が確保されている体育館への空調設置(新設)についても同様に補助率を引き上げた。
加えて、物価変動や標準仕様の見直しに伴う建築費の高騰に対応し、対前年度比プラス18・7%の単価改定を実施する。たとえば、小中学校校舎(鉄筋コンクリート造)の場合は平米あたりの単価が5万円弱アップすることになる。加えて、新時代の学びを実現する学校施設を整備するための新たな単価加算として、上記改定単価に加えてプラス4%を上乗せするという。
建築費用の補助率や私立校や国立大学施設の予算も上乗せ
また、私立学校の施設・設備整備についても、前年から230億円プラスとなる329億円を計上した。公立学校施設に比べて、私立は幼稚園から大学まで総じて校舎等の耐震改築・補強事業や非構造部材の落下防止対策など、防災機能の強化が遅れているからだ。
同様に、施設・設備の老朽化が著しい国立大学・高専にも前年度を大幅に超える1000億円のプラス事項要求を計上。そこではグローバル人材の育成に向けて、耐震対策、防災機能強化、⽼朽改善、ライフラインの計画的な更新と合わせた機能強化を行い、キャンパス全体が有機的に連携し、あらゆる分野・場面・プレーヤーが共創できる拠点となる「イノベーション・コモンズ」の実現を目指すとしている。
また、わが国のものづくりを⽀える高専の高度化・国際化を推進するため、728億円を計上。高専生の「ものづくり」×「AI」×「課題解決」によるチャレンジを後押しする教育環境を整備し、スタートアップ人材の育成を加速するほか、金属3Dプリンターシステム、精密旋盤、オシロスコープといった具体的な名を挙げて老朽設備を更新するよう求めている。
学校の感染症対策支援を継続
さらに、引き続き新型コロナウイルスへの対策が求められる中で、各学校が消毒液や保健衛生⽤品の整備等に必要な経費を補助する感染症対策⽀援として、7億円プラス事項要求を計上した。
集団生活の場となる学校で感染を予防し、不安を感じることなく学習活動を継続していくためには、衛生環境を守り、チェックする機材がまだまだ不足している。そのため、今後も紫外線照射装置、二酸化炭素濃度計測装置、加湿器・換気装置、自動水栓などの導入を進めていくことを期待したい。