トランスジェンダーを生きる 語り合いから描く体験の「質感」
18面記事町田 奈緒士 著
当事者が抱く思いを追体験
最近、LGBTやトランスジェンダーという言葉を聞く機会が多い。同性カップルなどの性的マイノリティーのパートナーシップ関係を公的に認めるパートナーシップ条例を制定した地方自治体も増えてきている。
このように、「男性」「女性」という性の在り方に対する人々の意識は、少しずつ変化している。その一方で、男女二元論的な旧来の考え方に立つ人々もいる。
こうした社会状況の下で、出生時に割り当てられた性とは異なる性を生きようとするトランスジェンダーは、いかなる体験をしているのか。周囲の人々との日々の活動におけるトランスジェンダーの不安や恐れ、喜びや楽しみは、どのようなものなのか。本書は、調査者(トランスジェンダー男性である著者)と研究協力者の語り合いの内容とその分析を通じて、そうした体験の「質感」を追体験しようとするものである。
トランスジェンダーの概念的理解にとどまる限り、彼らの性と生き方の本質に迫ることはできない。本書は、それを教えてくれる。トランスジェンダーの声を自らの身体で感じ取り、その声に響き合う自己の声に耳を傾ける。そのことの重要性も、本書は教えてくれる。
読後には、トランスジェンダーへの理解が深まり、目の前にいる児童・生徒の性と生き方が、以前とは違って見えてくるに違いない。
(3850円 ミネルヴァ書房)
(都筑 学・中央大学名誉教授)