死にたかった発達障がい児の僕が「自己変革」できた理由 麹町中学校で工藤勇一先生から学んだこと
12面記事西川 幹之佑 著
「最上位目標」定め、もがきながら成長
東京・千代田区立麹町中の工藤校長(当時)のもと、受容の中で、もがきながらも著者の西川さんが本来持っている才能や可能性が引き出されていく過程が浮き彫りにされる。印象深いのは、「自分の特技は挨拶です! 一緒に挨拶にチャレンジしてみませんか?」と、読者に投げ掛けている箇所である。
自己覚醒を図るチャンスの場を校長は多様に設けている。その中で「僕のような発達障がい者ほど、自分のためだけでなく、他者のためにもなるような大きな夢と最上位目標を定めることによって、生きる力がわくと思うのです」という西川さんの宣言にも似た言葉には圧倒される。忘れ得ぬ工藤校長のメッセージも紹介する。「9月1日の始業式は何も心配することはありません。…いつでも校長室にきてください。君たち一人ひとりを麹中は待っています」。誰もが胸を熱くするだろう。
構成は、少し長めの自己紹介から始まり、「発達障がい児にとっての学校生活はこんな感じ」「僕を成長させてくれた工藤先生の教え」「死のうと思っている発達障がい児に伝えたい『未来』を手にするための心構え」等と、多くの逸話を通して、その時その場での思いを丁寧につづっている。読み進めると発達障がい者に対する既成概念が打ち砕かれる。また、当事者がここまで赤裸々に書き表した本は、見たことがない。教育関係者に何としても読んでほしい、意識改革を図ることのできる「覚醒本」と言えよう。
(1760円 時事通信出版局)
(大久保俊輝・麗澤大学教職センター長)