未来社会へ当事者意識持つ 新科目 高校はいま 中
10面記事「データの活用」の単元でアンケートの集計結果を基に仮説設定の話し合いをする場面=埼玉県立川越南高校
情報I
今春から全ての高校生が履修することになった「情報I」では、プログラミングやデータの活用を扱う。専門的知識を持った教員が不足する中、各高校では指導の在り方を模索している。
「30歳の自分はどんな職業に就いているか考えてみよう」
4月、東京都立神代高校の稲垣俊介主任教諭は、情報Iの授業でそんな課題に取り組ませた。
情報技術の発展を紹介した動画を見せた後、15年後の世界や生徒自身がどうなっているのかを想像させ、1枚の「ビジョンボード」に描いて発表させた。生徒に自らの将来と情報技術との関連に気付かせることを狙ったという。
稲垣主任教諭が情報の授業づくりで重視しているのが、生徒たちの「当事者意識」。初めの授業で、未来の社会と自分たちの将来をイメージさせたのも、情報技術の問題を自発的に考えてもらいたいと考えたからだ。
2学期以降のデータ活用の学習では、生徒にスマートフォンの利用時間や使用場面などをアンケートし、生徒自身に結果を分析してもらう予定だ。架空のデータや政府の統計を使うよりも興味を持ちやすくなる。「自分たちのことなので関心を持ちやすく、議論が活発に行われる」と稲垣主任教諭は話す。
埼玉県立川越南高校の春日井優教諭は1学期、情報の特性や知的財産権などを理解させることに力を入れた。生徒たちが高校生活を送る中で関係してくることがあると考えたからだ。プログラミングや情報デザインの活動に入るのは2学期。春日井教諭は「まずは情報とは何かを理解してもらった上で、具体的な活動を通して確認できるようにしたい」と言う。
情報Iは必履修科目になったことに伴い、令和7年度入学者の共通テストから出題科目に加わる。国立大学協会では、一般選抜で必須とすることを決めている。
「受験科目」になることで、高校現場で今後懸念されるのが、担当教員の負担だ。首都圏など一部の自治体を除き、情報科教員は「副免許」で配置されることが多く、これまで採用数は抑えられてきた。大部分の教員が他教科と兼務している。
神代高校の稲垣主任教諭は「理科や数学の教員が情報を指導している場合、受験生への指導の負担が増加する。専科教員がいても配置数が少なく、1人で全学年を見なくてはいけない。教員一人にかかるプレッシャーは大きい」と指摘する。
教員の専門性を巡る自治体間の差も大きい。稲垣主任教諭は情報科の授業や教材の解説動画を作成し、個人のホームページで担当教員向けに公開している。
川越南高校の春日井教諭は「都道府県単位で採用している以上、どうしても地域で偏りが出てしまう。県を越えた情報科教員の人事交流などの取り組みが必要ではないか」と提案する。