観察・実験×ICT活用で探究する力を
8面記事より深く分析・考察するためのツールとして
新学習指導要領で目指す「主体的・対話的で深い学び」への授業改善に向けては、GIGAスクール構想で導入された1人1台端末を有効に活用することが求められている。理科教育においても、「観察・実験」と組み合わせた使い方に注目が集まる中で、新たな教材やデジタル機器の必要性が増している。そこで、「観察・実験」×「ICT活用」で探究する力を育む理科教育について特集する。
理科の特質に応じたICT活用
子どもの可能性を引き出す指導の充実や中1ギャップの解消などを目的に、今年度から小学校高学年への教科担任制がスタート。外国語、理科、算数及び体育について、今後4年間で3800人程度の専科教員を加配する計画だ。
中でも理科は、従来から指導を苦手とする教員が多いことや、教材研究にかける時間がないことが問題視されてきた経緯がある。小学校にも教科指導の専門性を持った教員が配置され、「観察・実験」の機会が増えるようになれば、子どもの興味・関心を高め、実感を伴った理解を後押しすることができる。同時に、授業の質の向上によって理科好きな子どもを増やせるかもしれない。
もう一つ、理科においては、課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究の過程を通じた学習活動を行い、それぞれの過程において、資質・能力が育成されるよう指導の改善を図っていく必要がある。
こうした中で期待されているのが、「観察・実験」と併せてICTを効果的に活用することだ。すなわち、ICTの特性を活かしたデータに基づいたアプローチにより、モノごとについて深く観察・考察する力を育むことにある。特にこうした科学的に探究する力を育む上では、理科専科教員ならではの学習内容の深まりに対応しての専門的な技術指導や、それらの理解を分かりやすく提示・検証できるICT活用が重要になるといえる。
理科の特質に応じたICT活用としては、観察、実験のデータ処理やグラフ作成によって、規則性や類似性を見いだすこと。ビデオカメラとコンピュータの組み合せによって、観察、実験の結果の分析や総合的な考察に活用すること。センサーを用いた計測によって、通常では計測しにくい量や変化を数値化・視覚化して捉えること。実体験することが困難な事象や観測しにくい現象をシミュレーションできること。観察、実験の過程での情報の検索や、学習を深めていく過程で、子どもが相互に情報を交換、説明する際の手段として活用することが挙げられる。中学・高校では、これらに加えてICTをより深く分析・考察するツールとして活用することで、自ら探究する力へと結びつけることができる。
タブレット端末で自分の考えをまとめる
このようなICTの活用は、小・中・高校の新学習指導要領でも「観察・実験」と併せて身に付ける力として明示されている。整理すると、小学校理科でのICT活用では、
(1) さまざまなサイトにアクセスし、必要な情報を集める
(2) 観察、実験などを行う際、事実を写真や動画で撮影することで、事実を捉える
(3) 学んだことをタブレットに蓄積していくことで、過去の学びを振り返りながら理解を深められる
―といった使い方がある。
中学・高校理科でのICT活用では、
(1) 生徒一人一人が自分でデータを取得し、考察・推論を主体的に行うことができる
(2) 観測しにくい現象などは、シミュレーション(動的)を利用する
(3) 自分では簡単に得ることができないデータや、最新の情報・最先端の知見を得る
(4) 生徒一人一人が観察や実験の結果に基づいて、自分の考えをまとめる
―など、より深く分析・考察するツールとして活用することで、自ら探究する力へと結びつけることができる。
たとえば(1)では、スーパースローモーション撮影と動画解析ソフトにより、物体の運動を解析し、運動量保存を見いだす。(2)では、学習した正弦波の式を平面に拡張してグラフで表す。(3)では、気象や天体に関する学習において、専門機関のHP等から最新の情報を入手する。(4)では、ワードでまとめた考察の原稿内に写真やグラフを挿入して、表現の幅を広げる事例などがある。
何より、ICTを活用する利点は、従来の紙の教科書や図資料ではできなかった音声や画像、データを蓄積できること。そして、クラス全体や仲間同士で情報のやり取りができることだ。これらを「観察、実験」と併せて組み込むことで、理科の見方・考え方を深めるとともに、個々の主体的な活動に発展させることが可能になる。
「全国学力・学習状況調査」の理科問題にも
タブレット端末を使った「観察・実験」は、今年度に行われた「全国学力・学習状況調査」で、4年ぶりの実施となった理科の問題においても取り上げられた。
小学6年生では、ナナホシテントウの飼育観察をタブレット端末で記録。追加された情報をもとに、より科学的な考えへの検討・改善ができるかを見る問題として出題された。中学3年生はタブレット端末のタッチパネルから、静電気に関する知識及び技能を活用できるかどうかをみる問題が出題された。
さらに、タブレット型端末で空の様子を撮影し、百葉箱の観測データと関連付ける気象問題も。ここでは、気圧・気温・湿度をセンサーで測定し、その観測データをクラウドに送信し、タブレット端末で天気図の数値と比較する授業が問題になっている。
「教材整備計画」で計画的な理科機器の整備を
理科のICT活用で忘れてはならないのが、インターネット上には無料のオンライン教材や学習用のリンク集が豊富にあることだ。しかも、近年ではクラウドで使える理科系の教材アプリも次々に登場している。図を描く、写真を撮り込む、付箋を貼る、比較するなど思考を視覚的に整理できることに長けた授業支援アプリを、シンキングツールとして活用するのも効果的だ。また、今後、児童生徒一人一人が試行錯誤できるコンテンツや、調べ学習に役立つ映像資料などを収録した「学習者用デジタル教科書」が導入されるようになると、授業とのリンクや効率的な使い方がもっとスムーズに行えるようになる。
加えて、実験用としての理科機器のデジタル化も進んでいる。タブレットに直接つなげたり、Wi-Fi経由でつなげられるデジタル顕微鏡なら、児童生徒が実験の様子を共有したり、画像を記録したりすることが容易になる。気圧・気温・湿度センサーや電圧・電流計測定器もワイヤレス化しており、離れた場所からタブレット端末でデータが見られるようになっている。
そのほか、国庫補助事業となる理科教育設備の整備では、小学校では充電器チャージャーや太陽光源装置、電子てんびんなど。中学校では放射線測定器や簡易霧箱、実験用オシロスコープ、遺伝モデル実験器などが取り上げられている。
新学習指導要領を踏まえて一部改訂された教材整備指針では、小学校で必修化されたプログラミング教育用ソフトウエア・ハードウエア、 中学校で3Dプリンター、特別支援学校で視線・音声入力装置などの教材が新たに追加されている。これらの整備に必要な経費については、20年度から10カ年の新たな「教材整備計画」によって、単年度約800億円・総額約8千億円が措置される見込みになっている。したがって文科省では、現場の実態を踏まえた計画的な整備、予算要求を進めてほしいとしている。
トライ&エラーが探究する力に
新学習指導要領では実感を伴った理解に向けて、「観察・実験」を重視している。だが、教員が限られた授業時間の中で、その機会を増やすことは容易ではない。ともすれば準備に時間がかかり、実験時間も長引いてしまいがちで、考察までたどり着かないケースが多かった。
だからこそ、学校で実施することが難しいものは、ICTを活用した動画やシミュレーションを取り入れるのが効果的だ。また、「観察・実験」と併せてICTを活用することによって一人一人の考察をより深めることができ、子どもの可能性を引き出すことが可能になる。探究する力へとつなげていくことが可能になる。
本来、理科教育の良さとは、失敗したり上手くいかなかったりすることを実体験として繰り返し、本当の力を身に付けることにある。アナログと違ってICTにはそうしたトライ&エラーを容易に行える魅力がある。その試行錯誤の積み重ねが、これからの時代に求められる探究する力へとつながっていくことに期待したい。