【寄稿】大人社会の感染予防策や規則で子ども社会を強く縛らないで
NEWSオランダ・デンハーグ在住のフリーランスライター、島崎由美子さん(薬剤師)から、日本の対コロナ政策に関する論考が届いた。学校閉鎖とマスク着用に関する疑問と課題を提示。「新型コロナウイルス感染症は、子どもたちの身体へのリスクとして、他の風邪と同様にまれに重症化することはある。感染対策をどんなに強化しても、いずれ、その効果は頭打ちになり、感染リスクはゼロにならない」などと訴えている。
大人社会の感染予防策や規則で子ども社会を強く縛らないで
「子どもたちへのコロナ対策はいったい誰のため?」と考えると、私の中にいくつかの疑問が生まれます。そもそも、子供たちの健康を守るためであれば、新型コロナウィルスよりもっと怖いRSウイルスやインフルエンザの流行時は、どうして大騒ぎしないのでしょう。
RSウイルスが流行しても、保育園の閉鎖を求めることはなかったけれど、新型コロナウイルスとなると一人二人の感染が見つかれば休園にしています。インフルエンザが流行しても黙食を要求されたことは過去に記憶がありません。
欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、学校閉鎖が子どもたちの心身の健康と教育に対し多大で有害なインパクトを与え、より弱い立場にある子どもたち、家族、保育者、そして地域には不相応なインパクトを持つため、社会においてもともと存在する不平等を助長すると指摘しています。さらに、COVID-19流行下での学校閉鎖による経済的な損失が大きいと見積もっています(European CDC Stockholm 23 December 2020)。
学校閉鎖でコロナ流行が抑えられないことは、日本からの報告があります(nature medicine No causal effect of school closures in Japan on the spread of COVID-19 in spring 2020)。休校にした市町村と開校した市町村との両群間で、直近1週間の住民10万人あたりの新規感染者の割合に有意な差はありませんでした。
学校閉鎖が繰り返されれば、直接的な学習喪失や就労している親の労働喪失の機会となり、さらに、将来的には労働力を失い、技術力が低下し、社会の生産力が乏しくなることが考えられます。
マスクを着け、距離を保ち、さらに友だちの顔が見えなくなるシールドを装着し、給食の時もシールドに閉ざされ、私語が厳禁となり、音楽の授業や吹奏楽では声や音を出して合わせることが出来ず、こんな学校生活でストレスをため込まずに済むはずがありません。
このような事態下に大人はどう対応していたでしょうか。政治家は、支援者との大事なパーティを開き、マスク越しに大声を挙げて乾杯していたことが報道されていましたね。
学校閉鎖が子どもたちや地域に好ましからぬ影響をもたらすことを踏まえると、このような対策は疾病コントロールにおける最終手段として用いるべきなのかもしれません。
さらに、子どもたちの教育現場では、閉鎖せざるを得ない流行下でも、閉鎖が子どもたちに及ぼすインパクトを和らげるように細心の注意を払いつつ、期限を区切って行ってほしいと、私は考えています。
生徒も教職員も、全員が常にマスクを着用すると、感染が23%ほど減らせるという報告があります。しかし、低学年になる程、マスクによる感染予防効果は減弱していたそうです(MWR 2022;71(10):384-9)。
公益財団法人日本小児科医会から、2歳未満の子どもにマスクを着用させるのを止めましょうという警告が発せられています。その理由は、マスクで呼吸がしにくくなったり、熱中症になりやすかったり、顔色・表情・呼吸の変化などに気づきにくくなるからだそうです。
重度障がい児・者のマスク着用については、注意喚起が発出されています(大坂小児科医会ISOP 300号 2020)
中国の3省では、マスクを着用していた中学生計3人が体育参加中に突然死したと報じられています(北京共同)。そのうち2人は、感染を防ぐ効果が高い医療用のN95マスクを着けていたそうです。
私は、N95マスクを着けての激しい運動は酸欠状態になる恐れがあることは容易に予測可能ではないかと思います。健康な人でも運動中のマスク着用は危険なはずです。
また、幼児は、表情を読み取るのが児童より苦手だと言われています。そして、マスクの影響は幼児において児童より大きいそうです。
例えば、マスクをしていると、幸せな表情を悲しみや怒りの表情と捉える幼児が多くなる傾向があるようです(Front Phychol 2021:12:669432)。
厚生労働省・文部科学省の発表による児童生徒の自殺数は、10-14歳と15-19歳のいずれも2020年に激増しました。副作用はワクチンや薬だけに起こるわけではありません。
科学的な根拠に乏しい感染予防策や大人の規則によって、子どもたちに副作用が起こると考えられているのです。
新型コロナウイルス感染症は、子どもたちの身体へのリスクとして、他の風邪と同様にまれに重症化することはあります。しかし、感染対策をどんなに強化しても、いずれ、その効果は頭打ちになり、感染リスクはゼロになりません。
その状況において、大人の感染予防策が子ども社会で強化されていくほど、子どもたちの心へのリスク、すなわち、COVID-19関連の心の健康が蝕まれていくのです。
特に、脆弱な子どもたちは、心身ともにその副作用が強く、長期間に及ぶ影響を受ける可能性が示唆されています。マスクにも効果と副作用があるのです。
大人社会が考える感染予防策や強い規則で子ども社会を強く束縛することを、子どもたちが犠牲となるリスクだと大人たちは自覚しなければいけません。大人たちが子どもたちに協力をお願いする気持ちを持つことこそ、私は何よりも大切ではないかと思っています。
筆者紹介
薬剤師(日本)。1989年渡米。1997年帰国。三井記念病院勤務などを経て2015年にオランダ移住。自身の鬱と向き合う。ALS女性の在宅介護を経験。現在、フリーライターとしても活動中。言語学者(エスペラント語)の祖父、高等学校英語教師の父を持ち、言語学・教育・医療・介護に造詣が深い。アクセス先:yoomee.0126@gmail.com