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令和時代の教育を担う教師へ 次のステップへ、現職教員の複数免許取得を後押し

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 社会の変化に比べて、教育現場の変化は遅れているといわれて久しい。社会に出たときに求められる能力が変わっているなら、それに向けて教員も変革に向けて動き出し、幅広い知識や専門性を持つ必要がある。ここでは、そうした教員の次のステップへと押し上げるために期待されている、多様な教科・校種の免許を働きながら取得できる「大学通信教育」を取り上げる。

キャリアステージを高める大学通信教育

ティーチングからコーチングへ 変わる教員の役割
 これからの予測不可能な時代を生き抜く人材を育成するため、教員には指導書の通り計画を立てて教える授業「知識伝達型」から、「子どもの主体的な学びの伴走者」へとシフトし、一人ひとりの可能性を最大限に引き出す指導力が求められるようになっている。同時に、皆同じことを一斉にやり、皆と同じことができることを評価してきた教育の価値観を、抜本的に変えていく必要も生まれている。
 文科省は、このようなティーチングをコーチングへと変える「令和の日本型学校教育」の実現に向けて、教員免許制度や教育課程の見直しを行うとともに、特定分野に強みのある教員の養成や、理数やICT・プログラミングなどの専門家など、多様な人材・社会人が学校教育に参画し、協働できる教員組織へと転換することを示唆している。
 現在進められている小学校高学年の教科担任制導入もその一環だが、中学校の免許状を持っていても、対象となる英語、理科、算数、体育の4教科を保有する小学校教員は意外と少ない。そのため、採用時にこうした教科の免許状を保有していたり、小・中両免許を取得していたりする教員の優遇が起きているなど、教員自身のキャリア形成にも影響するようになっている。
 こうした中、「大学通信教育」は独自のガイドラインを設けてメディア授業による質保証を担保し、現職教員が働きながら多様な教科・校種の免許を取得できる機会を提供している。事実、近年でも免許状更新講習の導入、認定こども園のための保育資格・幼稚園教諭免許の併用の推進などに大きく寄与してきた。
 さらに、今後に向けても、不足する高校の情報科、外国語など教科の専門性を持った教員の確保を視野に、大学通信教育の果たす役割がますます重要になっている。

実務経験を生かして働きながら複数免許の取得を
 現在、大学通信教育では、幼稚園、小学校、中学校12教科、高等学校18教科、特別支援学校、養護教諭の一種・二種免許状、大学院での専修免許状を取得する機会を提供している。その中で、社会人が受講するニーズとして増えているのが、現職教員が免許状の上進や異なる校種・教科の免許状を取得することである。なぜなら、教員としての実務経験があれば、通信教育課程で新しい単位を取得して教員免許を増やすことができるからだ。
 たとえば、高校の免許(専修または一種)のみ取得している人が中学の免許も取得する場合は、高校の実務経験3年+新たな単位習得(9単位)によって、隣接する中学校の同一教科、または関連教科の二種免許が取得できる。これは中学校の教員が高校の免許を取得する場合も同様で、取得しなければならない単位数は増えるが、隣接する高等学校の同一教科、または関連教科の一種免許が取得できる。また、中学校の教科の免許を取得している教員が他教科の免許を取得する場合は、実家経験がなくても大学で単位を取得すれば、他教科の教員免許が取得できる。
 教員が働きながら学ぶためには、今やオンライン受講は必須といえる。大学通信教育でもこうした時代の変化に対応し、従来のテキストによる添削指導・評価から、インターネットなどメディア授業を活用した講座の比重を高め、学び続ける機会を後押ししている

「情報」の2割が免許外教員 深刻化する教員不足
 大学通信教育による複数免許取得が期待されている理由には、団塊の世代にあたる教員が大量に退職する時期を迎えていることや、教員のなり手が少なくなっていることなどを背景に、全国の学校で教員不足が深刻化していることもある。
 文科省が昨年、67都道府県・指定都市教育委員会等に行った実態調査でも、全国で2056人の教師が不足している実態が明らかになっている。これは、多くの自治体が臨時的任用教員等の講師の確保ができず、実際に学校に配置されている教員の数が、学校に配置することとしている数(配当数)を満たしていないことを指す。
 中でも深刻なのは、25年の「大学入学共通テスト」から、教科「情報」が出題科目に加わることが決定したにも関わらず、中学・高等学校の技術科や情報科の免許状を保有する教師が不足していることだ。NHKが全国の都道府県の教育委員会に調査した結果によれば、公立高校で免許を持たずに「情報」を教えている教員は全国で1100人を超えており、これは「情報」教員全体の2割に及ぶ。
 折しも高校では、今年度から始まった新学習指導要領で、新教科「情報Ⅰ」がスタート。そこではすべての新1年生がプログラミングを学ぶようになるほか、統計データの分析など情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育むことが求められおり、これまで以上に内容が高度化している。
 つまり、情報技術を教えるスキルが上がっているのに、それを教えられる教員がいない。むしろ、積極的に「情報」科教員の加配を進めている神奈川のような県と、そうではない県とでの地域格差が広がっている。

時代の要請に応えて、次のステップへチャレンジする意識を
 中央教育審議会は、グローバル社会を見据え、20年代中に実現を目指す「令和の日本型学校教育」のあり方を「すべての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」と定義した。
 学校教育が、その成果を十分にあげることができるかどうかは、教員の力に大きく依存していることはいうまでもない。今後「令和の日本型学校教育」を実現できるかどうかも、時代の変化に応じた高い資質能力を身に付けた教員を確保し、教員が生き生きと活躍できる環境を整備することができるかどうかにかかっている。
 したがって、文科省ではICTの活用と少人数学級を両輪に、それを担う質の高い教員を確保するための養成・採用・研修等の在り方について検討を進めているところだ。その一つが現職教員による複数免許状取得の促進(専門性向上のための免許法認定講習の受講・活用)である。
 そして、教員の負担を減らし、働きながら学べるという前提に立って免許を取得するには、メディア授業による資格取得に対する豊富な実績とノウハウで質保証を実現してきた大学通信教育が、もっとも適しているといえる。GIGAスクール&コロナ禍のオンライン授業で大きく進展した教育環境・情報活用スキルであれば、それはなおのこと有効な方法となる。
 多様化する教育内容や個別最適化など、教員にとっては自らに課す課題が多くなり、厳しい時代を迎えている。しかし、それは現在の多くのビジネスマンにとっても同様に求められているスキルに違いない。彼らが社会の最前線で日々切磋琢磨してアップデートしているように、教員も時代の要請に応えて、次のステップにチャレンジしていく姿勢が必要になっている。

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