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企業のサステナビリティー活動から学ぶ~明日の社会に向けて行動できる人づくりを~

8面記事

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 持続可能な社会の実現を目指す「SDGs」の中でも、環境・エネルギー問題は世界が共通して抱える課題だ。だが、脱炭素化など環境保全への取り組みは実社会の経済活動と切り離せないため、企業の貢献が不可欠となる。そのため、リアルな環境教育を実践するには、こうした企業のサステナビリティー活動を通じ、「自分たちができること」へと考えを深めることが重要となっている。

複雑な環境問題から探究する力を育てる
 新学習指導要領では、持続可能な未来や社会の構築のために行動できる人材の育成が目的になっており、それに向けてESD(持続可能な開発のための教育)の実践を促進するよう求めている。
 こうした中、ESDにつながる環境・エネルギー教育の視点として重要となるのは、環境問題と社会経済システムのあり方や生活との関わりから、環境保全について理解を深めることにある。すなわち、社会全体のエネルギー問題を一気に解決する方法がない中でも、科学的に正しい認識のもと、さまざまな考察を加えようとする態度を身に付けること。併せて、学びの過程で生じる疑問や新たな考えを通じ、自分自身の生き方や社会参画と関連付ける作業が重要になる。
 そして、こうした深い学びや自己の変容を起こす指導法として期待されているのが、探究型の学習といえる。探究型学習は、課題の設定から情報の収集、整理・分析、まとめ・表現といった探究の過程を通して資質・能力を育成する。知識や技能の習得ではなく、自分で課題を見つけ、学び、考え、行動へとつなげられる、その力を磨いていくことがねらいになっている。

未来社会を切り開くための資質・能力
 探究型学習は、今年度から新学習指導要領の完全実施を迎えた高等学校においても重視されている。その一つが「総合的な学習の時間」を「総合的な探究の時間」に改めたことで、「生徒が未来社会を切り開くための資質や能力を確実に育成する」ことを基本方針に、自ら探究する点により重きを置いたカリキュラムになっている。
 社会に出て必要になるのは、知識はもちろんだが、思考力・表現力・行動力・判断力といったものがより要求される。しかも、今年度から成年年齢が18歳に引き下げられたことで、高等学校では「主権育」にも力を入れなければならない。これらも加味して考えると、同教科が社会やキャリア形成についてこれまで以上にコミットする切り口になりそうだ。

実社会とつながる教育に欠かせない
 このような探究をベースとしたESDの実践を行う上で、現実社会が抱えるさまざまな課題に対して深い知識を得るためには、実際に社会やビジネスの最前線で「SDGs」の目標に向けて取り組んでいる企業の活動が参考になる。
 持続可能な社会の実現を目指す「SDGs」に貢献することは、今や企業の生存戦略や新たな事業を創出する上でも欠かせなくなっている。中でも「持続可能な社会の創り手の育成」に向けてSDGs教育が重視される学校現場を支援することは、最も身近な社会への貢献になり、地域への信頼性の獲得など企業イメージの向上に直結する。
 また、企業においても将来を左右するイノベーション人材の育成がカギになっており、社会・経済のルールから人々の価値観・行動に至るまで大きな変革をもたらすSDGsは、社員教育における重要なテーマになっている。それゆえ、情報発信や出前授業、体験プログラム・教材の提供などを通じて、積極的に関わりを持つ企業が多くなっているのだ。
 実際に、文科省が19年度から実施している「SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業」では、(株)タカラトミーがSDGs達成の視点を組み込んだ授業ツールを開発し、授業で活用されている。また、内閣府でもSDGsの国内実施を促進し、地方創生につなげることを目的に官民連携プラットフォームを設置しており、5千以上の民間団体等が会員になっている。
 福井県では企業・団体と教育機関とが連携した職業体験、出前講座、共同研究を促進するため「ふくいSDGsパートナー」事業を進めているが、今年4月末時点で企業や金融機関、NPOなどを含めて619団体が登録している。その中には、太陽光発電所や太陽光を搭載したモデルハウスの見学、食品ロス削減の取り組み、古紙をトイレットペーパーに再生する循環型リサイクルや、サステナビリティーに対応した繊維製品の開発、衛星画像システムを利用した自然環境保全活動の紹介など、環境・エネルギー教育につながるテーマも多い。

資源の循環への取り組みを教材に
 さらに、企業が独自でSDGsへの貢献を打ち出すプロジェクトも始まっている。埼玉県で建築系産廃処理を手がける石坂産業(株)は、独自に開発・改良したプラントで廃棄物の減量化・再資源化率98%を達成するなど、あらゆるゴミを資源として循環させることに取り組んでいる。また、不法投棄先だった場所を里山に生まれ変わらせ、そのフィールドや自社プラントを活用し、地域の小中学校の児童生徒に環境教育を行っている。
 北海道電力(株)では、小学校においてSDGs学習の出前授業を行っている。教材では同社が製造する「液体たい肥」など、廃棄される資源・そのままでは役に立たない資源を「原料」と捉え、付加価値を付けてアップサイクルし、使用して地球に戻すことで循環させていくというサイクルを描いている。
 ソフトバンクロボティクス(株)では、企業が自社で契約したロボットのペッパーを学校に無償提供し、地域の教育を支援できる「ペッパーふるさと教育支援」の提供を昨年12月から開始した。「プログラミング教育の予算不足」「企業と連携した教育活動の実現」という課題の解決と、企業側の「SDGsの取り組み推進」「地域社会貢献」というニーズをつなげる役割を果たすことが目的になる。

次世代が担うエネルギー問題
 エネルギー問題は、地球の温暖化に与える影響だけでなく、経済成長、産業、健康、貧困など、SDGsの多くの目標について考えるテーマになる。特にエネルギー源を海外からの輸入に依存している日本は、エネルギー自給率が他のOECD諸国と比べても低い水準にあり、国内で生産できる再生可能エネルギーの比率を高めたり、省エネ技術を投入したりすることによって、安定的な電力供給を実現することが急務になっている。
 しかも、そこにはクリーンで安全という使命がある中で、電力のバランスを図っていかなければならない。将来そうした決断に立ち会う子どもたちが、エネルギー問題を社会と環境を踏まえて考えることは大きな意義がある。そして、その学びを深めるためには実社会での取り組みを知ることが欠かせないため、企業による教育支援が一層広がることを期待したい。

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