複雑化の教育論
18面記事内田 樹 著
「成熟=複雑化」と捉え支援訴える
「学校は子どもたちの成熟を支援する場」であり、「成熟とは複雑化すること」「人間としての厚みが増すこと」である。だから、大人は子どもの複雑化に当惑したり否定したりすることなく、それを素直に喜び支援することが「職務」だと著者は述べる。
本書は、思想家・武道家である内田樹氏の3回にわたる講演のまとめであり、学校の管理職、現場で子どもと日々共に学びをつくる先生方に対して、「教育」というものを外側から見つめる新鮮な視点を与えてくれる。
思春期を迎え、心と身体にずれを感じ、それにいら立ち、「らしさ」や「キャラ」の呪縛から自己否定に陥り傷つきやすい子どもたち。それを教師は「複雑化」「成熟化」した好意的な状態であると認識し、「私はあなたを傷つけないし、あなたを傷つけようとするものからあなたを守るために最善を尽くす」と告げよという。また、学びの第一条件に、居心地の良い空間を挙げ、校舎の声の響きや探究を促す造りといったハード面の重要性を語る。さらに、「不登校というのは、学校の歪みに対する生物的な反応」という厳しい指摘をする。管理職として、「機嫌のいい教職員」と共に子どもを「歓待し」「承認する」学校の空気感をつくることが、ソフト面の改善として何より重要であると気付かせてくれる一冊である。
(1870円 東洋館出版社)
(重森 栄理・広島県教育委員会総括官(乳幼児教育)(兼)参与)