学校でのクラスター発生を防ぐ
14面記事感染力の強いオミクロン株による新型コロナウイルスの感染拡大では、10代以下の感染や学校でクラスターが発生するケースが多くなっており、教育活動を継続する上で、感染予防対策がより一層重要となっている。そこで、学校の室内環境における感染リスクを低減する対策や、新たに備えるべき衛生関連機器について紹介する。
新たな衛生関連機器を導入する必要性
これまで以上に子どもへの感染が拡大
新型コロナウイルスの流行は集団感染リスクが高い学校にとっては脅威であり、毎日の手洗い、咳エチケット、換気といった3密回避の徹底や、消毒作業に追われる教職員の負担や心労が増えたことから、文科省や各自治体は感染症を予防するための人的・物的な支援に対して予算を拡充してきた。
だが、今年に入って急速に流行したオミクロン株による「第6波」では、これまで以上に10代以下の感染が増加しており、全体の3割近くまでを占めるようになっている。また、これに伴って学級閉鎖や臨時休校を余儀なくされる学校が多くなっていることから、引き続き「新しい生活様式」による感染症対策を徹底するとともに、新たな衛生関連機器を導入する必要性も高まっている。
オミクロン株は、デルタ株の3倍程度の高い伝播性と3日間という短い潜伏期間が特徴のウイルスだ。さらに、日本では12歳以下のワクチン接種が承認されていないことや、3回目ワクチン接種の遅れによるブレークスルー感染などの要因が重なり、全国的な感染拡大を生んでいる。
小学校でのクラスター発生が増加
しかも、内閣官房がまとめた資料によれば、場所別のクラスター発生件数(1月)では、「学校・教育施設」が703件と最多。「児童福祉施設」も330件となっており、これは従来、発生件数が多かった「飲食店」(202件)や「医療機関」(162件)を超えている。特に小学校でのクラスターは174件と多く、年齢が低い子どもでのクラスター発生が目立っているのが特徴だ。
こうした状況について感染症の専門家は、「1人から2人、2人から4人という形で面的に広がる傾向がある季節性インフルエンザに近い」と指摘し、ワクチン以外にも子どもへの感染を防ぐ方策を考えていかなければならないとしている。
文科省の1月26日時点の調査によれば、新型コロナウイルスによって臨時休業した公立幼・小・中・高校は1114校(全体の3・1%)、学年・学級閉鎖は4727校(13・3%)に上り、学校全体の6分の1が何らかの休業措置をとったことになる。その内訳は、休校が小学校653校、中学校219校、高校127校。学年・学級閉鎖が小学校3044校、中学校1038校、高校510校だ。
なお、直近の2月9日時点の調査になると休校数は717校と減ったが、学年閉鎖・学級閉鎖数は4895校と依然として増えている。また、新型コロナウイルスの影響で全面休園している保育所や認定こども園は、2月3日時点で43都道府県の777カ所に上っている。
感染リスクが高い教育活動を控えるよう通達~オミクロン株に対応した感染症予防対策~
こうした状況から文科省は2月4日、各教育委員会等に対し、現時点までに得られた知見をもとに、学校における感染症予防で取り組むべき対策について通知した。
その中では「基本的な感染症対策の強化・徹底」として、普段と体調が少しでも異なる場合には、児童生徒・教職員ともに自宅での休養を徹底すること。地域の感染レベルが3および2の地域では、家族に症状が見られる場合も登校・出勤を控えること。登校時に健康観察表等を活用し、検温結果・健康状態を把握することを求めた。
「換気の徹底」では、エアコン使用時も含めて常時換気に努めることや、CO2モニターによる二酸化炭素濃度の計測も考えられること、給食時におけるマスクの着用などの対応をとることを周知した。
その上で、特に感染リスクが高いとされる教育活動については、基本的には実施を控えるか、慎重に実施を検討することを求めている。教科でいえば、グループワークや一斉に大きな声で話す活動、音楽における合唱や楽器の演奏、技術・家庭における調理実習、体育での密集や組み合う運動といった活動。部活動では、密集する活動や大きな発声や激しい呼気を伴う活動、練習試合、合宿のほか、集団での飲食や部室等の共有エリアの一斉利用を控えるなど、部活動に付随する場面での対策の徹底も呼び掛けた。
また、「分散登校・オンライン学習等の実施」では、学校全体の臨時休業とする前に、地方自治体や学校設置者の判断により、時差登校や分散登校、オンライン学習を組み合わせたハイブリッドな学習形態を実施することが求められること。加えて、学校で感染者が発生していない学校全体の臨時休業については、児童生徒の学びの保障や心身への影響等を踏まえ、慎重に検討する必要があると示した。
さらに、2月7日には岸田総理の要請を受け、希望する教職員に対して可能な限り速やかにワクチンの3回目接種を行うよう、教育委員会・学校に通達した。なお、3月から各自治体において5~11歳のワクチン接種が始まったが、学校での集団接種については「現時点で推奨するものではない」としている。
感染症対策の強化に331億円を投入
一方で、文科省は昨年末に閣議決定した令和3年度補正予算で331億円を確保。全国の学校が消毒液、不織布マスク、CO2モニターなどの保健衛生用品等を購入する費用や、教室等の消毒作業を外注する経費に充てられるようにした。学校における感染症対策が長期化している中、各学校において感染および拡大リスクをできる限り低減させながら、教育活動を継続させることが目的となる。
また、幼稚園の感染症対策としても、保健衛生用品(消耗品・備品)の購入費を1園あたり30~50万円、ポストコロナを見据えたICT環境整備に1園あたり100万円を支援する。
感染症対策は精神論でどうにかなるものではない。学校が必要なハード・ソフトを備えることは、教職員の負担軽減や集団感染のリスクを下げることに直結するのだ。
換気・乾燥対策で集団感染を防ぐ
冬を迎えて再び新型コロナウイルスが流行した理由の一つは、気温の低い時期はウイルスが感染力を持つ時間がより長くなることが挙げられる。もともと学校ではインフルエンザやノロウイルスを始めとする感染症の流行が頻発する時期となっているが、オミクロン株では空気中を浮遊する粒子によるエアロゾル感染のリスクが増しており、それが集団感染を引き起こす要因ともいわれている。
なお、厚労省の新型コロナウイルス感染対策専門会議でも、集団感染によるクラスターの発生が確認された場所の共通項として、
(1) 換気の悪い密閉空間
(2) 多くの人の密集
(3) 近距離での会話
―の3つの条件が同時に重なった場合を挙げている。
したがって、子どもの生活空間となる教室等の学習空間では、可能であれば常時、無理な場合はこまめな換気に努めることが必要になる。また、冬期はエアコンや暖房機を使用することで室内の乾燥が進むため、加湿器などを使って室内の湿度を40~60%に保つことが大切になる。
空気清浄機やCO2測定器などの導入も
換気の仕方としては、熱中症対策として導入した学校も多いサーキュレーターにより室内の風通しを良くすることが有効で、体育館のような広い空間でも大型扇風機を使って風を巡回させることが望ましい。
ただし、寒暖差の大きい時期は、それによって室内環境の快適性が損なわれ、学習の低下や体調不良につながることが懸念されることから、効率よく部屋全体を希釈できる空気清浄機や、空気やモノを除菌してウイルスを不活化する紫外線照射装置を導入するケースが増えている。
あるいは感染予防の見える化としては、十分な換気ができているかの指標をモニターできるCO2測定器、多人数を自動検温できるサーモグラフィーや体温センサーカメラ、感染者の肺炎の早期発見に有効なパルスオキシメーターなどを活用することも有効だ。すでにCO2測定器やサーキュレーターを学校に導入した東京都では、これらの機器を効果的に使用し、教室等の換気を徹底するよう呼び掛けている。
抗ウイルス・抗菌コーティングの有効性を証明
こうした中、東京大学では新型コロナウイルス感染症などの感染リスク低減対策として企業と共同研究した成果をもとに、学校などの教育施設の室内環境整備への早期導入を見据えた具体的な対策案をまとめた参考ガイドを策定した。
それによると、空気感染・エアロゾル感染対策となる教室の換気では、熱交換型換気機器を使用すれば、室内の温度や湿度の変動を抑えながらの換気が可能となること。また、空気清浄機1台を教室の後方に設置することで、約12人分相当の換気量が得られることも確認できたという。ただし、いずれもフィルターの定期的な清掃や交換が重要となる。
また、接触感染リスク低減対策では、実際の教育現場において、教室壁・扉、トイレ扉・床など接触機会が多い物質表面に抗ウイルス・抗菌コーティングを施工し検証したところ、抗ウイルス化・抗菌化効果を確認することができたとしている。
その上で、ウイルスを含む唾液等は家具、建物表面、床に付着した場合、空気中のように拡散により希釈されることは期待できないため、物質表面を抗ウイルス・抗菌化し、物質表面からの移動・拡散を低減することが有効であるとした。
接触感染リスクを低減するトイレ改修を
衛生対策としては、現在、公立学校施設の5割程度にとどまっているトイレの洋式化をより一層推進していくことが必要になる。また、その際には便器に加えて扉や手洗い場・壁等の抗菌化を行うとともに、床のドライ化、扉の自動化などにも着手していくことが接触感染リスクを低減する対策となる。
中でも、新型コロナウイルスの流行に伴って緊急的に設置するケースが増えているのが、非接触で使える手洗いの「自動水栓」化だ。いまだ7割以上の学校がハンドル水栓であることから、東京都内を始め、神戸市、大分市の学校で改修が進められている。たとえば港区は小中学校、幼稚園の手洗い場の水栓を自動水栓化。大阪府堺市でも学校など200カ所以上におけるトイレ等の手洗い器を自動水栓化した。佐賀県も昨年度の補正予算で2億を超える予算を計上し、学校や保育施設など約9千カ所以上の蛇口を自動水栓化する計画だ。
7割超の子どもがストレスを抱えている
今回で「第6波」となった新型コロナウイルスの長期化は、短縮授業による学力の低下の懸念はもとより、日々の生活・活動に制約がある子どものメンタルケアの心配も避けて通れない。長時間、家にいることで生活リズムが崩れ、イライラして学習に集中できなかったり友達や先生と話す時間が減って対人関係が希薄になったりすることで、孤独を感じる、無気力になるなど、7割超の子どもが何らかのストレス症状を抱えているといわれている。
だからこそ、学校は子どものよりどころとなるよう、地域の感染状況を踏まえ、分散登校やオンラインによるコミュニケーション活動を取り入れてでも、教育活動を継続していくことが重要になる。
そこには学校関係者を支える人的なサポートの強化とともに、これまで得た知見に基づいた新たな衛生関連機器を導入し、集団感染リスクの低減を図っていくことが必要といえる。まして、オミクロン株の一種で感染力がさらに高いと指摘されている「BA.2」の市中感染が確認されるなど、今後も新型コロナウイルスの先行きが見通せない中では、こうしたできる限りの努力が安心材料となり、教育活動を継続させる助けになるからだ。
感染症予防の難しいところは、どれだけ人的・物的な手当てをしたとしても感染リスクをゼロにすることができないことにある。しかし、感染症における正しい知識を持って可能な限りの対策をすれば、感染リスクを低減できるのも事実である。その意味でも、教職員や子どもの努力以外に、打ち出せる手段はまだまだあるはずだ。