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激甚化する風水害と巨大地震に備える

12面記事

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防災ハザードマップに沿った改修や避難訓練を

 近年の気候変動によって豪雨災害が激甚化・頻発化している中、学校施設では切迫する巨大地震に加え、予期せぬ大雨による浸水や土砂災害への備えにも対策を講じる必要が生まれている。そこで、このような災害が増える要因とともに、学校施設の防災機能強化を実現する具体的な対策や最新の事例を紹介する。

公立校の3割が浸水想定区域・土砂災害警戒区域内

南海トラフなど巨大地震に備えた防災・減災対策を
 今年に入って政府の地震調査委員会は、国内で発生する可能性のある地震の最新の発生確率を公表。南海トラフで今後40年以内にマグニチュード8~9級の地震が発生する確率を、前年予測を上回る「90%程度」に引き上げた。確率論の是非はさておき、同地帯で大地震が起きてからすでに70年近くが経過しており、次の大規模地震の可能性が高まってきているのは否定できない。地震国である日本では、いつどこで巨大地震が起きても不思議ではないことを踏まえ、できる限りの備えを講じる必要があるのは確かだ。
 こうした中、学校施設は児童生徒が一日の大半を生活する場所であり、災害時は地域の避難所としての役割も担うことから、国の重要インフラとして位置づけられている。
 そのため、政府が打ち出した15兆円規模となる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策(25年度まで)」では防災機能を強化する重点箇所となっており、文科省も老朽化改修と併せて、防災・減災対策を講じるための予算を拡充しているところだ。
 併せて、国土交通省をはじめとした他省でも学校施設の防災に通じる補助金を創出しているほか、全国の自治体も地域防災計画の観点から、独自の財源を設けて学校施設の防災機能強化に充てるケースが増えている。

避難所となる体育館の防災機能強化を急げ
 だが、現時点では避難場所となる体育館は断熱性に乏しいうえ、多くは空調設備が未整備であり、寒暖差のある季節に災害が発生した場合に被災者が生活する環境としては厳しい条件になっている。それゆえ、代替えとして業務用ヒーターや大型扇風機、スポットクーラーの整備が進んでいるところだ。
 また、高齢者や障がい者を受け入れるための昇降口や玄関の段差解消、通路のスロープ等の設置は約6割、多目的トイレの整備は約4割に留まりバリアフリー化も遅れているほか、ライフラインが途絶えたときに代替えとなる自家発電設備や災害バルク、複数の通信手段の設備、マンホールトイレ等の整備、防災部局と学校との具体的な連携、民間事業者とのエネルギー供給体制の提携なども不十分であることが課題になっている。
 しかも、引き続き新型コロナへの警戒が続く中では、消毒、検温、ソーシャルディスタンスを確保するパーティション等の充実に加え、換気・衛生設備機器のさらなる導入や、教室棟などを利用した発熱や咳等のある者の専用の避難所(体調不良者用避難所)の準備も進める必要が出てきている。

浸水や土砂崩れなどの危険性が増している
 一方、近年の学校施設における災害でもう一つの心配事が、気候変動に伴い激甚化・頻発化する豪雨災害だ。なぜなら、公立学校の3割が浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地しているからである。
 豪雨災害が多くなっている理由としては、地球温暖化の影響による平均気温の上昇や都市化による治水の脆弱化が指摘されている。特に気温は高くなるほど雨量が増える。実際に1時間の降水量が50ミリを超えた発生率は、統計を開始した1976年からの10年間に比べて、直近10年間は約1・4倍に増加。1日の降水量が200ミリを超えることによって、土砂災害の発生回数も増加している。
 2020年7月豪雨では、熊本を中心に九州や中部地方から日本各地に至るまで被害に見舞われた。194河川で決壊等による氾濫が発生して住居の全半壊等は約5千件、土砂災害は約900件に上る大規模災害になったが、その総降水量は2018年7月豪雨を超える過去最多を記録した。
 中でも、近年の大雨で最も警戒しなければならないのは、狭い範囲に短時間で猛烈に降る雨が多くなっていることだ。降雨範囲があまりに局所的すぎるため、どこで発生するかといった予測が困難で浸水対策に対応する時間が少ない。舗装された道路が水路のようになり、一気に低床地に水が流れ込むといった特徴があるため、これまで被害がなかった地域でも水害や土砂崩れなどの危険性が増している。
 したがって、浸水想定区域・土砂災害警戒区域に立地する学校はもちろん、周辺に山や崖、河川を抱える学校は気象変動に対応した豪雨対策への備えが極めて重要になっている。

水害への対策方法 4月に中間報告を予定
 豪雨災害というと台風をイメージしてしまいがちだが、発生数・接近数・上陸数は全体的に増えてはおらず、むしろ大型の台風が上陸するケースは昔の方が多かった。また、地震も近年増えているように感じるが、マグニチュード5以上の地震頻度は東日本大震災前の水準に戻っている。そうした状況や、今後より一層温暖化が進むことを考えても、局所的な集中豪雨による浸水や土砂崩れから学校を守る備えを講じていかなければならないといえる。
 これまで起きた水害では、教室や避難所である体育館が使えなくなったり、せっかく設置してあった自家発電設備が浸水によって機能しなくなったりするケースがあった。文科省の調査によれば、浸水想定区域に立地している学校のうち、施設内への浸水対策や受変電設備の浸水対策を実施しているのは、いずれも15%程度しかない。重要書類等の保管場所の浸水対策も約37%と、ハード面の対策が遅れている。
 そもそも防災ハザードマップで河川の氾濫などによる浸水が見込まれる学校は、非常用の設備は高所に設置するとともに、2階以上に普通教室と職員室を配置するべきといえる。たとえば校舎を高床構造にして高台側の道路と接続し、水害時には学校から高台側に避難できるようにした事例もある。
 また、校庭の高さを周囲から低くして貯水機能を持たせる、校舎や校庭の地下に雨水貯留槽を設置する、浸水の可能性が高い箇所に脱着式の「ステンレス製止水板」や防水扉を設置した学校もある。さらに土砂災害から学校施設を守るための対策としては、構造体の補強や防護壁を設置することも有効といえる。
 文科省もその重要性を鑑み、昨年6月には学校設置者が水害・土砂災害対策を実施するための参考となる「学校施設の水害・土砂災害対策事例集」を発行。

 (1) 学校設置者が主体となって水害・土砂災害から学校を守る
 (2) 防災担当部局等の要請に学校設置者が協力し、水害から地域を守ることに学校が貢献する

 ―の2つの視点で整理し、取り組み事例を紹介している。加えて、学校施設の水害対策検討部会を設置し、水災害リスク情報の把握方法、施設・設備面の対策方法を検討し、4月には中間報告を公表する予定だ。

局所的に大きな被害をもたらす竜巻や突風
 また、局所的に起きるという点では、竜巻等の突風による被害も気がかりだ。国内で確認される竜巻の発生数は1年で20回程度だが、近年は異常気象のせいか、以前に比べてより強力になっている印象を受ける。
 たとえば2013年9月に埼玉県越谷市で発生した竜巻では、市内を含む9校が大きな被害を受けた。その中には屋内運動場のフロートガラス 91 枚、網入りガラス35枚、合計126枚が破損し、屋根が壊れる等の被害に見舞われた学校もある。学校は天候不良に気づいたため、屋外で部活動中の生徒に対して屋内に避難するよう指示したが、屋内運動場で部活動中の生徒が飛散したガラスにより負傷したケースもあった。
 その他、電気・水道等のライフラインの停止、教室窓等の破損、体育館屋根3分の1損壊、天井穴、電柱倒壊、サッカーゴール破損、給食ホール天井破損、プールフェンス一部倒壊、防球ネット支柱8本倒壊などの被害が報告されており、県内過去最大級の竜巻による被害となっている。

教室窓の強化ガラス化や落下・飛散物対策を
 竜巻は、「発生予測が難しい」「移動速度が速い」「短時間で狭い範囲に集中して甚大な被害をもたらす」といった特徴があることから、竜巻や突風が発生しやすい環境にある学校では地震災害と同様に起こりうる事態を想定し、突風、飛散物から身を守るといった観点も含めて学校防災マニュアルの見直しを行い、教職員全員がその対応について理解しておく必要がある。
 雷の発生する日数が全国的にみて非常に多く、複数の竜巻被害が報告されている群馬県では、学校向けに独自の防災マニュアルを設けている。本マニュアルは安全な環境を整備し、自然災害による被害を未然に防ぐための対処である「事前の危機管理(備える)」「発生時の危機管理(命を守る)」「事後の危機管理(立て直す)」の3つで構成されている。中でも重要と思えるのが、日常の指導の中での防災教育だ。積乱雲の近づく兆しがある場合にとるべき行動、落雷や竜巻等突風の特性、安全な避難場所について十分理解させ、児童生徒が自分で判断し避難行動をとれるようにすることを挙げている。
 その上で、施設自体の竜巻対策としては老朽化を踏まえた屋根・外壁等の落下等を防ぐ改修や、教室窓等の強化ガラス化、校庭にあるサッカーゴール等の点検を図っていくことが重要といえる。また、被害を受けた地域では、学校そのものが情報を収集するための観測システムの導入も視野に入れるべきとの意見もあった。

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