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多様性時代に求められる「学生服」とは

16面記事

企画特集

LGBTQに配慮したジェンダーレス制服

品質にこだわり、誰もが楽しく、快適に着られる制服に

 今、「学生服」は教育アイテムとしてふさわしいデザイン&高品質なモノづくりを追求するだけでなく、一人ひとりの個性を尊重する多様性への配慮や、着やすさや手入れのしやすさなどを取り入れた付加価値の高い商品を開発していくことが求められている。そこで、制服のモデルチェンジを計画する全国の学校関係者に向けて、100年の歴史で育まれた「学生服」の魅力や、時代性を取り入れて進化する制服づくりの最新動向を紹介する。

国内生産にこだわったモノづくり
 わが国の高品質なモノづくりとサービスの結晶である「学生服」。少子化による市場の縮小や生産・物通コストが増加する中でも、各制服メーカーが切磋琢磨して次々と魅力ある商品を生み出している。なかでも大きな特徴といえるのが、アパレル業界が軒並み海外生産に移行した現在も、できる限り国内生産にこだわったモノづくりを続けている点にある。
 その理由の一つが高品質な商品を提供することだ。学生が毎日身につける制服は一般衣服よりも厳しい基準のもと、3年間またはそれ以上の着用に耐えうる丈夫な素材や縫製が欠かせないこと。染色も含めた出来上がりや、サイズにばらつきがない商品づくりを徹底しなければならないことが挙げられる。また、既製品と違って特別な体型や身体に障害を持つ学生にも着られる制服も用意しなければならない。

小ロット&短サイクルで納品
 もう一つの重要なポイントが、学生服は納品までの期間が短いことだ。4月の入学式に間に合うように合格発表後の短期間で採寸・発注し、一人ひとりのサイズに合わせた制服を納品しなければならないといった制約がある。加えて夏服も、いぜんなら衣替えの時期までに納品すればよかったが、年々前倒しされる傾向にあるという。
 したがって、海外の工場でこうした品質を安定的に担保し、しかも小ロットかつ短いサイクルで生産することはむずかしいのが実態だ。その意味では、国内生産にこだわらざるを得ない事情があるといってもよく、製造工場の連携・協力や独自の配送センターを設けるなど、いかに生産・物通体制を効率化していくかといった経営努力も従来に増して必要になっている。

教育文化の一つとしての誇り
 さらに忘れてはならないのが、学生服は100年以上続く教育文化の一つであり、学校と共に歩んできた歴史があることだ。時代が移り変わっても変わらない学校制服のよさは、自分たちがこの学校の学生であることに誇りを持ち、仲間との連帯意識を高めながら学生生活を謳歌できることにある。それは個々の行動の責任感に通じるとともに、大切な思い出として心に残るものにもなるのだ。
 また、毎日着用できるため経済的であり、各家庭での格差が見えにくくなるメリットもある。だからこそ、制服メーカーは現在の低価格・大量消費時代とは一線を画すいつまでも美しい制服にこだわり、成長後も身体に合うようサイズアップに手を尽くし、お下がりやお譲りまでを視野に入れた制服づくりの伝統を継承しているのだ。

ブレザー化の浸透や機能性商品の開発も
 こうした中、近年に入って「学生服」の主流は詰襟・セーラー服からブレザータイプへと移り変わっている。そこではデザインの個性化や季節に合わせた着せ替えなど学校からの要望が増えているとともに、今の学生のファッション感覚に合ったTPOごとの着こなし方も提案するようになっている。
 加えて、セーターやソックス、カバンなどの制服まわりの商品構成も多彩になっているほか、ウォッシャブルや抗菌防臭、撥水加工、ストレッチ加工といった機能性商品の開発にも力を注ぐ必要が出てきている。
 また、スポーツメーカーとタイアップしたデザイン性に優れた体操服も近年のトレンドになっている。どこかやぼったい印象のあった体操服が「かっこよく」なることで、着ていることが楽しくなり、所作や着こなし方にも良い影響を与えられるという。しかも、伸縮性や通気性がよく、汚れも落としやすい、UVカット、白色でも下着が透けにくいなど、スポーツウェアとしての機能性を取り入れたアイテムが次々と登場している。

「女子スラックス」など制服も選択可能に
 なかでも現在、制服づくり自体の大きな変革となっているのが、LGBTQに配慮したジェンダーレス制服だ。多様性を理解して認め合うという社会の動きが広がる中で、制服も性別に関係なく、自分に合ったものを選べるようにする見直しが始まっている。
 文科省も15年に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細やかな対応等の実施について」とする通知を発出。学校・教職員への認知が進んだことで、性別に関係なく制服を選択できるようにしたり、検討を始めたりする学校が年々増えている。実際に「学校総選挙プロジェクト」が昨年6~9月にかけて調査した結果によれば、制服を採用している高校の44%が「女子スラックス制服」を採用していることがわかった。
 こうした学校のニーズを受けて制服メーカーも、女子スラックスを始め、男女共通デザインブレザー、スカート・スラックス・リボン・ネクタイなどを自由に選べるようにする、シルエットなど男女の違いを出さないように工夫をするなど、性別でアイテムを絞らず、選択の幅を広げる制服づくりに着手しはじめている。

今日の学校課題に応える支援を強化
 一方、持続可能な社会の実現に向けた企業の貢献が求められる中で、制服メーカーも再資源化や制服のリサイクルに乗り出している。また、その社会の創り手となる学生に対する「SDGs教育」を始め、キャリア教育や服育、探究学習、防災教育など学校が抱える今日的課題をサポートする事業にも積極的に関わるようになっている。そこには「チーム学校」の一員として場と機会を提供し、日本の将来を担う人づくりとなる教育を支えていこうという思いがある。
 さらにはコロナ禍における対応としても、モデルチェンジを検討する学校に向けたオンライン展示会やWEB受注システムの強化。採用校においては家庭でも可能な「AI自動採寸」をより正確・スムーズに実施できるよう、サービスの向上に取り組んでいる。

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