地元密着の修学旅行で本物の体験を
12面記事和菓子づくり体験をする様子
企画からスケジュール管理まで子どもが参加し、市内各所を巡り地域の人と交流・連携する「新しい修学旅行」について熊谷市立石原小学校の関根達郎校長と淺野千恵教諭にお話を聞いた。(以下敬称略)
―一昨年、昨年と熊谷市内各所を巡る「新しい修学旅行」を行った経緯をお聞かせください。
関根 コロナ禍で安全に修学旅行を行おうとした時ヒントになったのは、以前他校で行った「調べて行こう修学旅行」でした。行き先は鎌倉でしたが、衣食住や歴史、風土などからさまざまなテーマが子どもから出され、地元の人と交流しながら学ぶ姿を思い出し、今回は総合的な学習の時間を使いながら「調べて行く地元密着の修学旅行」を行うことにしました。市内に国宝建造物があることを知らなかったり、駅前の銅像の人物をよく知らなかったりする子どもも多く、故郷のよさを発見し、誇りを持って外に発信していくふるさと学習も修学旅行の大事な役割だと思います。
―銀行でお金の仕組みを学ぶ、裁判所で模擬裁判をするといった体験は学校教育だから実現できる内容ですね。映画館やスーパーマーケットのバックヤード、和菓子屋など…30余りの行き先はどのように決めたのですか。
淺野 行きたい場所のアンケート結果を元に、ガイドブックやインターネットで調べ学習をして子どもたちが選びました。知らなかった熊谷がたくさんある!と探究心が高まり、子どもたちの目が輝きました。できるだけ子どもの希望に沿うように教員が行き先を絞り込み、9月から緊急事態宣言で分散登校になったこともありアポイントメントも教員が取りました。先方との時間の調整が必要で一仕事でした。
今回は4~5人で班を作り、当日はいつも通りの時間に学校へ登校、15時50分に学校帰着というスケジュールでした。うまく回れるように、紙の地図とGoogleマップを使ってシミュレーションしながらルートを考えることは、子どものスケジュール管理能力、企画力を育てました。
関根 キャリア教育として、どの班にもコースに市内の中学校、高校を必ず組み込ませるようにしました。今年は大学とも連携ができました。どの学校も子どもを低年齢から迎え入れ、学校をアピールしたい思いが強く、各校も協力の申し出をとても積極的に受け入れてくれました。
―保護者の反応はいかがでしたか。
淺野 遠くの観光地へ行って宿泊するのが従来の修学旅行でしたので、市内の修学旅行になったことを残念に思った保護者の方はいたようです。ただ、「和菓子職人になりたいと思った」「化学の授業で高校の実験に参加し、入学を希望する気持ちが芽生えた」「大学の建物の美しさに感動。建築士に興味を持った」といった子どもたちの感想を聞き、捉え方が変化したようです。
関根 実際に見て触れて体験したからこそ感動があったし、自分の未来をイメージできた。私は、学校行事で一番大事なことは、子どもの将来にどう働きかけられるかということだと思っています。
コロナが収束しても不測の世の中は続くでしょう。これからの時代は自分の成長に必要なことを考え、それを自ら組み立てて実行する力が大事になります。地元密着の手作りの修学旅行はそのためのよい経験になると思います。
淺野 今回、航空自衛隊熊谷基地、グライダー場などの5カ所は路線バスを使ったのですが、立ち寄り先のお土産屋が混んでいて乗車時間がギリギリになるなどのハプニングもありましたが、子どもたちは問題解決能力を発揮することができました。コース旅行では得難い体験です。
―この経験を経て、今後の石原小学校の修学旅行への取り組みをどのように生かすのかお聞かせください。
関根 「地元を知る」は熊谷市の教育方針にも掲げられているので、6年生以外でも生活科や総合的な学習の時間で、ふるさと学習を継続したいと思います。
淺野 コロナ禍で子ども同士の交流が不足していたのですが、「友達と協力することの大切さを学んだ」「学年の絆が深まった」という声はとてもうれしかったです。子どもたちの自主性を育てる修学旅行のあり方を今後も追求していきたいと思います。
関根 地域の人と触れ合う地元密着の修学旅行は「本物の体験」ですよね。コロナ前の形式に修学旅行が戻ったとしても、今回の修学旅行のエッセンスは入れていきたい。
淺野 卒業文集を作るにあたって、小学校生活で一番楽しかったことは?と尋ねると、「新しい修学旅行」が一番でした。「訪問先へのお礼の手紙で交流が続いていることがうれしい」という感想を聞き、やってよかったと実感しました。教員も夢中になって取り組み、一体感を持つことができました。この経験は自分の引き出しの一つになりました。
関根 本校の先生たちには苦労をかけたけれど、チャレンジすればいい結果が生まれると、私は信じています。