日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

カーボンニュートラルの実現に向けて 各省が連携して進める学校施設の脱炭素化

17面記事

施設特集

断熱性と高効率空調で光熱費を削減
 政府は「50年カーボンニュートラルの実現」に向けて、今後5年間に少なくとも100箇所の脱炭素先行地域を創出し、「脱炭素ドミノ」を全国に伝播させていく計画を立てている。なかでも優先的に進めていかなければならないのが、公共施設の脱炭素化だ。その意味でも、今後学校施設を改修するにあたっては、必ず省エネ化を図る対策や設備の設置を講じていくことが重要になる。
 学校施設の1次エネルギー消費量を正味ゼロにするZEB化に向けた一般的な改修方法としては、構造体の断熱性を高める、単板ガラスの窓を複層ガラス・二重サッシにする、高効率空調や全熱交換器を整備する、照明をLEDに切り替える、自家消費用の太陽光発電設備や蓄電池を設置するなどして省エネを進めることが考えられる。
 特に建物の断熱性を高めることは冬季の底冷えや室内の温度ムラをなくすことができるため、環境としての快適性の向上はもちろん、高効率な空調設備の機能を活かして、より光熱費を削減できるようになる。

自然素材や通風・採光の力を併せて活用する
 これらの対策とともに、内装の木質化や再生木材チップを使用したルーバーやウッドデッキ、しっくいやけい藻土などの自然素材、リサイクル素材の活用、自然通風・採光システム、雨水貯留槽による節水や節水型トイレ、太陽熱をプールの温水シャワーに利用、校庭・屋上緑化などを組み合わせていくことが脱炭素化に向けては必須といえる。
 たとえば学校施設に木材を利用する意義は、自然の素材ならではのあたたかみやぬくもりが感じられ、児童生徒の快適な生活・教育環境の向上につながることだ。しかも、材料製造時の炭素放出量が少ないことから、温暖化抑制に寄与することができるほか、地域材や地場職人を活用することで、地域経済や地場産業の振興に貢献するメリットがある。
 このような学校施設のZEB化を達成した先進事例としては、省エネで50%+創エネを含めて25%以下までエネルギー消費量を削減した益田市立桂平小学校(島根県)がある。断熱材と複層ガラスによって外皮性能を向上したほか、省エネとしてLED照明(人感・明るさセンサー)、ナイトバージ(夜間に外気を取り込むことで室内を冷やし、消費電力を抑える空調システム)、電気式ヒートポンプエアコン。創エネとして太陽光発電や蓄電池を整備した。
 ほかにも、省エネで50%以下までエネルギー消費量を削減した事例では、瀬戸市立小中一貫校校舎棟(愛知県)や、氷見市立西の杜学園(富山県)がある。

補助率アップのカギは「脱炭素化」へ
 もともと学校施設は環境負荷対策や環境教育の生きた教材として活用するため、約30年前からエコスクール化を推進してきた経緯がある。17年からは文科省、農林水産省、国土交通省、環境省が連携協力して、学校設置者である市町村等が整備する環境を考慮した学校を「エコスクール・プラス」として認定。その数は現在237校に達している。
 こうした「エネルギー消費を削減する事業」または「木材を利用する事業」で認定を受けた学校は、文科省による整備費の単価・面積の加算が受けられる利点がある。また、環境省は自立・分散型エネルギー設備の導入や先進的省エネルギー施設の支援、国土交通省はサステナブル建築物や省エネ改修工事の支援、農林水産省は地域材を利用した建物の内装木質化に対する支援として、それぞれ補助を設けている。
 すなわち、各自治体においては、老朽化が進む学校施設の改修負担を減らす意味でも、脱炭素化を図っていくことが重要になってくるのだ。

老朽化改修は省エネ転換の好機
 エネルギー資源のほとんどを輸入に頼っているわが国にとって、省エネの推進は今も昔も重要な課題だ。エネルギーの使用の合理化に関する法律=省エネ法では、エネルギーを使用して事業を行う者は省エネに努めることとされている。学校においても例外ではなく、教育委員会は学校のエネルギー管理を行う責任者であり、省エネ法の判断基準に基づいたエネルギー管理を行うとともに、エネルギー消費原単位を中長期的にみて年平均1%以上低減させることが目標として掲げられている。
 しかも、近年の学校施設は普通教室への空調設置、ICT機器の導入による高機能化や教室、体育館の地域開放等による多機能化(多目的利用)が進んでおり、ただでさえエネルギー使用量は増加する傾向にある。
 ただし、エネルギーの使用の合理化を進めるには、児童・生徒・教職員に我慢を強いるのではなく、適切な学習環境や作業環境を維持した上で、日常生活におけるエネルギーの無駄な使用をなくすことを念頭に入れなくてはならない。
 近年激しさを増す酷暑や季節を問わないゲリラ豪雨の頻発は、わたしたちに地球の環境問題の深刻さを目の当たりにさせる。だからこそ、学校施設の老朽化改修を省エネ施設へと転換させる好機ととらえ、実用的な改修や設備の整備に活かすこと。また、子どもたちの環境保護への意識を高めるため、生きた教材として教育にも活用できる施設に生まれ変えるよう、各自治体には知恵を絞って今後の改修に努めてほしい。

施設特集

連載