日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

室内温水プールの吊り天井を「不燃膜天井」に改修

15面記事

施設特集

不燃膜天井に改修した室内温水プール

練馬区立中村南スポーツ交流センター

 全国の公共スポーツ施設や学校体育館では、地震によって人的危害を招くおそれのある既存の吊り天井を撤去し、軽量で安全な「膜天井」に改修する工事が進んでいる。とりわけ常に湿気にさらされる室内プールの天井は腐食によって経年劣化が進むことで、落下のリスクが高まることが指摘されている。そこで、昨年9月に改修工事を終えた練馬区立中村南スポーツ交流センターの室内温水プールによる事例を紹介する。

軽量・安全、多湿環境に適し、明るく気持ちよく泳げるプールに

「特定天井」の耐震対策として
 練馬区立中村南スポーツ交流センターは、区立体育館7館構想における7番目の施設として2009年1月にオープン。従来までの体育館機能に加え、多目的アリーナに収納式ステージと観客席を備えることで、講演会などのイベントを通じて区民の交流が図れる施設となっている。また、室内温水プール(25m×6コース)も、区立体育館初となる可動床、歩行専用プール、ジャグジーといった充実した設備を備え、幼児から高齢者まで幅広い年齢層に対応しているのが特徴だ。
 こうした中、今回、多目的アリーナと温水プール双方の吊り天井を改修することになったのは、建築基準法の改正によって、高さ6m超、面積200平方m超、質量2kg/平方m超の「特定天井」(脱落によって重大な危害を生ずる恐れがある天井)を有する施設は、耐震補強が義務付けられているからにほかならない。

軽量で高い安全性が決め手に
 改修にあたっては、ともに「特定天井」の基準を下回る軽量性を実現した軽量ボード天井や膜天井システムなどの複数の工法が検討された。その中で、練馬区の区立体育施設としては初めてとなる膜天井についてスポーツ振興課の星野明久課長は、「より軽量であり、安全性が高い点が良かった」と説明する。
 加えて、通年稼働している人気の施設として休館期間を6カ月と限定する中で、今回の工事においては、膜天井システムは他の工法より工期を短縮できるのも理由の一つだった。「工期が短いことはコストの削減や早期の再開を望む区民の声に応えることにもなりますから、重要な要素でした」と強調する。

落下しても衝撃が少ない素材を
 室内温水プールの天井改修にはリフォジュール(株)の「不燃膜天井システム」が採用された。特殊ストレッチの「膜」と軽量フレームで構成された超軽量の天井システムで、地震時の振動を吸収しやすく落下しにくいとともに、万一落下したとしても素材が柔軟で衝撃が少ないことが最大の特徴だ。また、膜天井の施工により天井に空気層を形成するため、熱抵抗で断熱性が向上する。そのため、天井の耐震対策として学校の体育館や武道場、室内プール等でも導入が進んでいる。
 設計を担当した南俊允氏(南俊允建築設計事務所・三愛設計)は、膜天井を提案した3つのポイントを挙げる。「これまでの震災で得た教訓は、建物の倒壊というよりも吊り天井など二次部材の落下によって多数の死傷者が発生していることでした。したがって、まずは利用者の安全を第一に軽量で安全性の高い天井材にしようと考えました」


南 俊允氏(南俊允建築設計事務所・三愛設計)

湿気を通さないシートでカビや錆を防ぐ
 2つ目は、室内温水プールのような多湿環境に適した素材であることだ。改修前の天井裏に上がってみると、カビや錆などで経年劣化が思った以上に進んでおり、衛生面を考えても、いかに天井の空間に湿気を上げないかが一番の課題だった。「従来のシステム天井のボードだと、どうしても湿気が天井裏まで上がってしまう。その点、膜天井のシートは防湿材と同レベルの透湿抵抗があって湿気を通さないため、天井内の衛生環境を健全に保つという意味でもよい素材だと思いました」と振り返る。
 また、膜材ならではの柔軟性で、勾配のある天井も美観性を損ねることなくシャープな造形を表現できるほか、既存の空調ダクトや照明の位置を変えずに設営できる融通性も持ち合わせている。
 さらに、室内プールや体育館のような施設では、天井面が全体の印象を決定づけると指摘。「その意味で、利用者が明るい空間で気持ちよく泳げる施設にする上でも、外光を柔らかく反射する膜材ならではの特性が生きてくるからです」と長所を挙げた。

数値では計れない空間としての心地よさ
 10月1日からは施設の利用も再開している。改修後の感想を聞くと、「当初は素材が膜なので、もう少し天井から垂れ下がっているイメージを持っていましたが、システム天井と見間違うフラットな天井に仕上がって満足しています。さらに、以前に増して明るい印象に生まれ変わり、心待ちにしていた利用者にも喜ばれています」と星野課長。
 これに加え、「数値では計れない空間としての柔らかさや、心地よさを感じられるのが膜天井のよさだと感じました」と答えたのが南氏だ。設計者としては自分の子どもが利用することを考えて、どういった施工にするのがベストなのかに気を配ったという。そこには安全性や快適性といったキーワードのほか、耐久性や色褪せしにくいなどランニングコストを抑えることも視野に入っている。
 「たとえば学校建築も少子化によって統廃合が進む中で、この先学校がなくなったときにどうするかをあらかじめ考えて設計することが大事になってきます。それを踏まえると、膜天井のように撤去しやすく、自然にリサイクルしやすい素材がより重宝されるようになっていくのではないでしようか。私自身も膜天井を扱ったのは今回が初めてでしたが、今回得られた手ごたえと設計のノウハウ・経験は大きく、今回のみで終わらせるのではなく、次に同じような機会があれば、より良いかたちで活かしたいと思います。公(役所)と民(設計事務所)が一体となって成功例を継続して発展できるようになればと思っています」と今後の天井改修などの設計にも今回の経験を活かしていく意向だ。


改修前の室内温水プールの天井

施設特集

連載