2022年に注目の教育キーワード10選
トレンド家庭や学校をはじめ、児童・生徒を取り巻く環境は時代とともに変化し続けています。これらの変化に合わせ、学校での指導方法においても見直しや改善を行うことが重要です。
この記事では2022年に注目したい教育キーワードを概要とともに紹介します。それぞれのキーワードから児童・生徒へのアプローチ方法を振り返ってみてはいかがでしょうか。
(1)『令和の日本型学校教育』を担う教師の学び
2021年1月26日、中央教育審議会は、2020年代を通して実現を目指す『令和の日本型学校教育』のあり方を以下のように定義しました。
・全ての子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びの実現
・協働的な学びの実現
これらの実現には、環境設備を整えることはもちろん、教師が高い資質能力を身に付けていることが重要です。
文部科学大臣は2021年3月12日、「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等のあり方について」と題する諮問(しもん)を実施。中央教育審議会に対して、教師の養成・採用・研修等のあり方について以下の項目を検討することを求めました。
①教師に求められる資質能力の再定義
②多様な専門性を有する質の高い教職員集団のあり方
③教員免許のあり方・教員免許更新制の抜本的な見直し
④教員養成大学・学部、教職大学院の機能強化・高度化
⑤教師を支える環境整備
出典:中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師のあり方特別部会『「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて審議まとめ(案)』
(2)高校・新学習指導要領がスタート
2022年度から高等学校において新学習要領が年次進行で実施されます。新学習要領の目的は、以下の3つの柱から成る資質・能力を総合的に育むことです。
・知識および技能
・思考力・判断力・表現力 など
・学びに向かう力・人間性 など
また、新学習要領では、教育内容の改善事項も示されています。主な改善事項には以下が挙げられます。
・言語能力の確実な育成
・理数教育の充実
・伝統や文化に関する教育の充実
・道徳教育の充実
・外国語教育の充実
・職業教育の充実
出典:文部科学省『新学習指導要領について』
(3)新しい時代の学校施設
令和時代の日本型学校教育では、“個に応じた指導”と“協働的な学び”を一体的に充実させ、各学校の段階でそれぞれが目指す学びの姿を実現することを目指しています。
ICTを活用した教育・GIGAスクール構想の実現をはじめとした多様な教育方法や学習活動を自由に展開するためには、施設環境にも大きな変革が必要です。
2021年8月に行われた学校施設のあり方に関する調査研究協力者会議の中間報告では、『Schools for the Future:「未来思考」で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造する』ことが学校施設のビジョンを表すキーコンセプトとして示されました。
なお、新しい時代の学びに対応した学校施設の整備においては、教室空間の改善・充実を目指した創意工夫により、長寿命化改修を広げていく必要があります。
長寿命化改修の例
・3教室分を2学級分の学習空間として利用する
・改修と一部増築によって不足するスペースを確保する
・特別教室コンバージョン型で教科に捉われない創造的な学びの空間を確保する
関連記事:GIGAスクール構想の目的とは? 予算や環境整備、指導者に求められるポイントを解説/ICT支援員とは? 配置の必要性とポイント
出典:学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議『新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について』
(4)「生徒指導提要」改訂
生徒指導提要とは、学校・教職員向けに小学校段階から高等学校段階までの生徒指導の理論や考え方、実際の指導方法などをまとめた生徒指導の基本書です。
生徒指導の実践に際して、組織的・体系的な生徒指導の取り組みを進められるようになることを目的としています。2021年10月、文部科学省は生徒指導提要を改訂し、新たな目次構成案を示しました。
生徒指導の基本的な進め方
・第1章:積極的な生徒指導の基礎
・第2章:発達の支援に基づく教育課程と生徒指導
・第3章:チーム学校による生徒指導の体制
改訂版では、いじめや暴力行為など、個別の課題について独立して章立てされている点が特徴です。たとえば、第3章の“チーム学校による生徒指導の体制”では、教職員の研修による生徒指導体制の見直しのほか、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーを含む教育相談体制を充実させることなどの具体策が提示されています。
(5)特異な才能のある児童生徒
文部科学省は、2021年の7月から9月に特定分野に特異な才能のある児童・生徒に対する指導・支援のあり方についての有識者会議を実施しました。
米国をはじめとした世界各国で行われる“ギフテッド教育”では、特異な才能と学習困難を併せ持つ児童・生徒や領域依存的な才能を伸ばす教育も含めるという考え方に移行しています。一方で、日本ではこれまで十分な話し合いが行われて来ませんでした。
学校教育においては、ICTの活用やSTEAM教育(※1)のようなプロジェクト型の学びをはじめ、児童・生徒同士が互いの違いを認め合い、学び合いながら相乗効果を生み出す教育が求められます。
※1…STEAM教育とは、Science・Technology・Engineering・Art・Mathematics各教科・領域固有の知識や考え方を統合的に働かせて解決する学習のこと
関連記事:特異な才能のある児童・生徒に対する支援・指導について
(6)幼児教育と小学校教育の「架け橋」
日本の幼児教育は、以下の項目で国際的にも高い評価を受けています。
・先生方の研修意欲の高さ
・社会的・情動的な発達を重視する実践
・子どもの生活や学びの質を高めるための先生同士の協働
一方、幼児教育の質に関する認識については社会的に共有されているとはいえません。文部科学省が“幼児期の終わりまでに育ってほしい姿”を示したことにより、幼稚園(認定こども園を含む)・保育園・小学校(幼・保・小)間の連携への意識は高まっていますが、現時点では地域によって連携・接続の深まりに差がある状況です。
今後は、一人ひとりの多様性に配慮しながら、全ての幼児に学びや生活の基盤を育む『幼・保・小の架け橋プログラム』の開発・実践を進める必要があります。
出典:文部科学省『中央教育審議会 初等中等教育分科会幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会―論点整理のたたき台(案)―』
(7)多様な背景を持つ児童・生徒への対応
児童・生徒のいじめや不登校等の生徒指導上の課題には、以下のようなさまざまな背景が複雑に関連している可能性が考えられます。
・学校的背景
・児童・生徒が抱える障害や健康問題などの個人的背景
・家庭的背景を含む児童・生徒の置かれている環境
児童・生徒の個人的背景や家庭的背景などは、学校だけで対応することは困難なため、学校と関係機関が協働して対応することが重要です。
2021年8月25日、文部科学省は2021年3年9月8日から2022年3月31日まで、生徒指導提要の改訂に関する協力者会議の下、有識者から構成されるワーキンググループを設置すると示しました。これは、児童・生徒が安心して学べる環境を整備するうえで必要な留意事項について検討を行うためです。
ワーキンググループの実施では、学識経験者等の協力を得るほか、各分野に係る委員等にヒアリングを実施したのち、整理した検討事項を“生徒指導提要の改訂に関する協力者会議”に報告します。
出典:文部科学省『多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導に関するワーキンググループの進め方』
(8)特別支援教育を担う教師の養成
近年、特別支援教育を必要とする子どもたちの数は増加の一途をたどっています。その理由には下記が挙げられます。
・医療の進歩
・特別支援教育への理解の広がり
・障害の概念の変化や多様化
特別な配慮を要する子どもたちが自らの可能性を最大限に伸ばしながら、自立と社会参加に必要な力を培うためには、適切な指導・必要な支援を受けることが重要です。そのため、特別支援教育を担う教師には、以下のような専門性の向上が求められます。
・特別な教育課程の編成
・個別の指導計画の作成
・障害の特性等に応じた指導
・各教科等で目標が異なる児童・生徒を同時に指導する実践力 など
なお、特別支援学級・通級による指導を担当する教師の専門性を向上させるために行う施策には、以下のような例が挙げられます。
・特別支援学校の教師として押さえておきたい内容の精選と再検討
・共通的に修得したほうがよい資質・能力を示したコアカリキュラムの策定
出典:文部科学省『特別支援教育を担う教師の養成・採用・研修等のり方等に係る最近の動向 主な提言及び今後の検討事項について』
(9)高校での日本語指導
近年、高等学校に在籍する日本語指導が必要な生徒が増加傾向にあります。2018年度時点で4千人を超え、10年前の2.7倍に達しています。高等学校段階では、義務教育段階と異なり、日本語の特別指導を実施する制度は導入されていません。
一方、日本語指導が必要な生徒の在籍数が多い高等学校では、学校設定教科や科目を設置したうえで指導が行われています。ただし、生徒の日本語能力には個人差があるため、一人ひとりに応じた指導が求められます。
生徒の日本語能力等に応じた個別の指導を行うことを可能にするために、高等学校教諭免許状を有する教師のほか、日本語指導の専門知識を有する外部人材を積極的に活用することも一つの方法です。教育委員会やNPO等と連携し、組織的な指導体制づくりを行ったうえで取り組む必要があります。
出典:文部科学省『高等学校等における日本語指導の制度化及び充実方策について(報告)概要』
(10)学校安全推進計画
学校保健安全法第3条では、各学校における安全に係る取組みの総合的かつ計画的な推進のために学校安全の推進に関する計画を策定することが規定されています。
現行の『第2次学校安全の推進に関する計画』は、2017年度から2021年度までの5年間にわたり、各学校において安全に係る取り組みを確実かつ効果的に実施するための重要な指針として策定されました。
第3次学校安全の推進に関する計画においては、現行の取り組み状況の検証や、社会の変化に基づいた改善策など、以下のような項目が論点となっています。
・東日本大震災の教訓および近年の災害の激甚化を踏まえた防災教育の充実
・学校・家庭・地域関係機関、団体との連携
・SNSの普及や新たな危機事象などの課題への対応
・新型コロナウイルス感染症対策と安全対策の両立
出典:文部科学省『第3次学校安全の推進に関する計画の策定について』
子どもたちにとってベストな指導方法の模索と変化への対応
健康面や家庭環境、使用言語など、さまざまな背景や問題を抱える子どもたちが集まる学校では、いかに一人ひとりの児童・生徒に合わせた指導を行えるかがカギです。
今回紹介したキーワードからも分かるように、今後はさらに教員の資質・能力の向上や関係機関との連携が重視されます。教育関係者には、時代の変化や指導方法の変化に適応しながら、児童・生徒にとってベストとなる学校教育を展開していくことが求められます。