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GIGAスクールのその先へ オンラインセミナー開催レポート

9面記事

企画特集

主催=日本教育新聞社、インテル株式会社
後援=文部科学省

 グローバル、多様化、Withコロナなど複雑化する社会で、AIやロボット、データなど、テクノロジーを活用して社会的課題の解決を図っていく「Society5・0」が到来しようとしている。これからの社会に求められる人材に必要な資質、能力とは? 今日のさまざまなテーマを語り合うオンラインセミナー「GIGAスクールのその先へ」(主催・日本教育新聞社、インテル株式会社、後援・文部科学省)が、10月23日から開催されている(配信は11月27日まで)。GIGA端末活用を加速させるために必要な心構えや実践例、座談会の模様をお届けする。

【基調講演】
「社会の急速なデジタル化に対応した学校教育とは」
クラウド活用を進め 個別最適な学びへ


高橋 純 東京学芸大学教育学部准教授

気づけば大きな変化
 デジタルの進化は「最初は無自覚でも、振り返れば大きな変化だと気づく」のが特徴だ。
 かつて駅に設置されていた「伝言板」も、携帯電話の登場で消えた。それを予測できた人は少なかっただろう。携帯電話を皆が少しずつ使ううちに、わかってきたことだからだ。そこから考えると、「黒板とチョークの授業」は、今は想像していない「デジタル」ツールによって自然と変化する可能性もある。
 こうした変化は、便利に使っていたら変わってきた、ということが多い。だから、学校も「ICTは大したことはないから必要ない」ではなく、日頃の積み重ねが急速なデジタル化への重要な心がまえになる。

GIGA初期段階の考え方
 持続可能なICT活用は、

 (1) 試しにやってみる
 (2) よかったら続けてみる
 (3) だめならやめてみる

 それで残ったことが本質であることが多い。
 春日井市立高森台中学校では、まず先生が日常的に教員研修や会議にGIGA環境を活用し、1人1台整備後は、生徒が生徒会などでの意見交換に活用をはじめ、その後授業への活用へと進んでいった。教員がICTに慣れて自信を持ち、子どもたちも授業以外の周辺の活動から活用を始めたのが成功のポイントだ。
 まだICTを用いた学習体験や慣れが必要な先生も多い。「楽にする」「簡単にする」ことから始めるのが良い。最初から調べ学習やプレゼンをさせるのではなく、学習目標や手順などの情報の共有や、資料の共有から始めるのがよいだろう。
 その際、GIGA端末で使うソフトは、児童生徒用ではなく大人と同じにすべきだ。学習指導要領では、電子メールなど社会人が日常的に使うツールの活用が盛り込まれている。
 もとより、GIGAスクール構想はクラウド活用を前提に設計された。ブラウザベースで動く協働作業が可能なクラウドが、活用段階での最善の環境になる。これからは「情報」共有するのではなく、活動そのものを共有する考え方が必要だ。うまく設計すれば、子どもたちの活動が共有される。その喜びをぜひ、味わってほしい。

未来の学びに向けて
 ICTを日常的に使いこなし教育方法が改善される、加えて教育内容の充実が議論されるようになるだろう。情報モラルを含む情報活用能力の育成、映像制作、STEAM教育などだ。
 文部科学省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り方について」(中間報告)によれば、高スペックの端末整備や、協働に適した学校施設の創造も視野に入る。そうした準備も徐々に進める必要があろう。
 新学習指導要領が示すコンピテンシーベースの資質・能力観と、クラウドベースのICT活用の往還が盛んになったとき、子ども一人ひとりが主役になる学習への変化が起こりはじめている。協働編集や振り返りにより、一人ひとりが学びの状況を把握し、自分で学習目標や課題の設定ができるからだ。授業は「複線化」し、多様な協働が教室内で自在に起こるのが、令和の学びの未来像となるだろう。
 それを支えるには人力だけでは無理で、ICT活用は不可欠だ。よりよい授業・学びを目指すために、まずは「楽にする」「簡単にする」「慣れる」チャレンジから始めてほしい。

【導入事例(1)】
戸田市立戸田東小学校・中学校


小高 美惠子 戸田市立戸田東小学校校長

 小学校、6中学校を擁する戸田市は、産官学民との連携強化のもと「AIでは代替できない能力、AIを使いこなす能力」の育成を目指す。現在、1人1台端末とアカウント、教育クラウドを整備。端末持ち帰りも始まり、子ども・教師ともにICTは必須の文房具だ。
 施設一体型小中一貫校である戸田東小学校・中学校では、課題発見力、論理的思考力、実践への行動力を育むため、基礎学力の習得の効率化と、課題発見・解決力や創造力を伸ばすプログラムの充実を図っている。
 特にPBLとSTEAM教育には力を入れる。6年生のPBLでは、食品ロス解消を目指すチームが、商店の売れ残りを市民に紹介するウェブサイトを立ち上げた。戸田産蜂蜜を使ったラスクを提案し、地元のパン工房の協力で販売にこぎつけたチームもある。購入者からGoogleフォームでフィードバックを得るなど、ICTを活用して学びを磨くことができた。ほかにも「ハンカチマスクプロジェクト」「自学自習プロジェクト」など、コロナ禍でPBLが加速し、子どもが自分たちの課題を自ら解決する姿が見られた。
 今年度はPBLを進化させるため、STEAM教育に挑戦している。PBLの単元をSTEAMの視点から見直し、意識化した実践へと高める試みだ。
 基盤となる環境整備として、インテルほかの支援・パートナー企業の協力のもと、最先端のICT環境を導入したPCルーム「STEAM lab」を校舎1階に立ち上げた。高性能なPC20台とプロ仕様のソフト、3Dプリンターなど、実社会で用いられる機器で、質の高い学習の個性化が可能になる。すでに小学校低・中学年ではロボット操作のプログラミング、高学年・中学生は3Dプリンターを用いたワッペンの試作や、映像編集ソフトを用いた部活動紹介の動画制作などに取り組んだ。
 未来を切り拓くイノベーターを育てるには、PBLは不可欠な学びだと実感する。「STEAM lab」で探究の質を高め、子どもたちの無限の力を伸ばす実践を深めたい。

【導入事例(2)】
東京都立三鷹中等教育学校


能城 茂雄 東京都立三鷹中等教育学校主幹教諭

 本校は東京都教育委員会指定のパイロット校として、2016年から1人1台PCの実証研究に取り組んだ。その経験から

 ・低スペックで重いPCは、生徒の利用率は上がらない
 ・高スペック端末でも一定数は故障するので、保守契約は重要

 ―などの教訓を得た。

 現在、本校は「Society 5・0に向けた学習方法研究校」として研究を継続中だ。文房具として使えるPCをと要望し、Surface Go 2 LTEモデルが導入された。GIGA前までは2つのコンピューター教室「CALL教室」の「予約合戦」が起きていたが、1人1台の端末配備で解消した。生徒は「いつでも・どこでも」PCを道具として利用できるようになったからだ。
 しかし、より高い処理性能が求められる動画制作や、協働作業をする場合は、タブレットだけでは間に合わないことに生徒は気づいた。また、端末は生徒に貸与しているので、教員側が各端末に対して教材準備を一斉に行えない不便さもあった。高校新学習指導要領の「情報Ⅰ」に対応するには、生徒用「中間モニター」を備えた新たな学習環境の必要性も予見された。
 そこで、アドビ、インテルとの共同研究で、理想的なコンピューター教室「メディアラボ」の実践に着手した。動画制作ソフトなどのクリエイティブツールにも対応可能な機器を備え、高校生の創造性の育成と発揮を支えることを目的に作られた教室だ。高性能のメモリとストレージ、グラフィックカードを搭載したPCに、31・5インチの4Kモニターを設置。大容量データをスムーズに共有できる10G対応の高速ネットワークを用意した。
 「メディアラボ」の効果として、生徒に「学校に行けばクリエイティブなことができる」というモチベーションが生まれた。文化祭などの行事を映像で記録して編集し、後日配信する自主活動も盛んになり、生徒はやりたいことを具現化するツールとして、ハイスペックPCに憧れていることも分かった。
 学びの環境を整えれば、生徒たちの自由な発想や学習、学校活動は素晴らしいものになる。「メディアラボ」の成果が、今後のすべての高校の学習環境のモデルとなるよう、今後も実証実験を推進していきたい。

【座談会】
「Society5・0社会を構築するグローバルな人材育成に必要なこれからの教育の在り方」
GIGA端末活用促進のカギは「愛用」

学びの質的転換を模索
 高橋(司会) GIGAスクール構想により教育の情報化が進展する中、それぞれの立場から現在の取り組みの紹介を。

 戸ヶ崎 戸田市では、2016年から1人1台PCを見越した教育改革に取り組んできた。
 第1フェーズとして、快適なネットワーク環境の構築やハード・ソフトの整備、PBLをICT活用に紐づけ端末の文房具化を推進してきた。
 第2フェーズは、教育データの利活用やSTEAM教育の基盤づくりなどに取り組み学びの質の向上を目指す。特別支援教育や家庭とのシームレスな学びにも大きな可能性を感じており、ICT活用はこれからも教育行政の中心課題であり続けるだろう。

 能城 高校の情報科が目指すのは文系・理系を問わず、すべての高校生がICTを問題解決に使えるようになること。三鷹中等教育学校ではコンピューター室を生徒に開放し、ICTを道具として使う感覚を養っている。全ての教科、教育活動でICTを活用し、中学からの1人1台環境による学びの変化と、高校の情報教育への接続を研究中だ。来年度から始まる「情報Ⅰ」では、プログラミングやデータ活用など、情報の科学的理解に基づいた活用能力の育成が授業改善の視点となる。

 前田 大学では、第6期科学技術・イノベーション基本計画に基づき、人文科学と自然科学の知を融合した新たな価値創造と、それを担う人材への投資が始まっている。他分野が融合したSTEAM人材育成などがそうだ。
 また、「AI戦略2019」では、デジタル社会の基盤である「数理・データサイエンス・AIの基礎力」は文系・理系を問わず求められるとし、その育成を小学校から大学までが担うこととしている。大学ではモデルカリキュラムの認定や、教育プログラムの認定制度が開始されているところだ。

「文鎮化」どう防ぐ
 鈴木 昨年度のGIGAスクール構想による1人1台PCの整備は、文科省が中心となり一気に実現した。しかし、せっかくのPCが有効活用されていない現状もあるといい、危惧している。我々は子どもたちに21世紀型スキルを育成するための無償の教員向けプログラム「Intel Teach」を提供しているが、全国には及ばない。GIGA端末が広く活用されるために、何が必要だろうか。

 戸ヶ崎 「困った学校・教育委員会は、困っていない学校・教育委員会」とはよく言ったもので、ICTを活用せず従来の授業で何も困っていないと感じている自治体こそ、教育観の変革が必要だ。正解を自ら求め、社会とつながる学びをするならICT活用は必然で、紙と鉛筆、黒板とチョークだけで足りるはずがない。

 高橋 知識の理解の「質」を向上させるには、コンピューターを使わざるを得ないし、知識の「質」を子ども自身に気づかせるべき。学びの質は重要な着目ポイントだ。戸ヶ崎教育長はPC活用のカギは「学びと愛用」と表現する。その意図は。

 戸ヶ崎 「学びと愛用」は、教師主導の「指導と管理」と対義となるもの。PCを好きになり、自分のものだという意識が高まれば、子どもたちは教師に言われなくても大事に扱い学びに使う。締め付けるような使い方をさせるのではなく、愛着が持てる日常使いを目指そうと言いたかった。

 高橋 大切なグローブを磨くようなイメージに近いのでは。GIGA端末に対しても、そんな感覚が広がることが普及への近道と言えそうだ。

グローバル人材育成につながる情報教育とは

24年度新テストに「情報Ⅰ」
 高橋 グローバル人材育成の観点から見た、情報教育について意見交換したい。大学入試改革はどうか。

 前田 2024年度実施の大学入学共通テストに「情報Ⅰ」が導入される。2022年4月に高校に入学する生徒が、改訂高校学習指導要領の下で「情報Ⅰ」を必履修科目として学ぶのに合わせ、高大接続の観点から大学入試でも問うこととなった。試験時間は60分でプログラミングやデータ活用、処理・分析などを出題する。

 能城 高校で学んだ資質・能力を大学入試で測るのは必然だと考える。Society5・0へと社会が変革する中、国民の素養として「情報」は不可欠だからだ。
 義務教育段階で積み上げた情報活用能力の総まとめとして、また、小中学校の学びだけではできないことを可能にするために高校1年の「情報Ⅰ」がある。

 高橋 STEAM教育との関連は。

 能城 理系の進路でなくても、ICTの仕事に就かなくてもSTEAM教育で本物にふれることは有意義だろう。

 戸ヶ崎 本市は小学生から本物にふれる体験をさせるべく、インテル社をはじめとした企業より支援をいただき、次世代のコンピューター室「STEAM lab」を設けた。子どもたちがワクワク感を持ちながら活動している。国際調査を見ると、日本の子どもたちは成績はよいのに「勉強が楽しくない」と感じている。学ぶことが「楽しい」と思える子を育てたい。

人材育成の基盤は好奇心を磨くこと
 鈴木 今の日本のグローバル人材育成に足りないのは、「好奇心を磨く」ことだ。子どもはもともと好奇心の塊なのに、学年が上がるにつれてしぼんでしまう。インテルがパートナー企業とともに支援する「STEAM lab」は、最先端のICTテクノロジーにふれ、子どもの好奇心を引き出し、人との関わりが提供できる場所と捉えてほしい。当社では今後も同様の取り組みを続けていきたい。

 高橋 学校関係者は、好奇心を「持つ」「育てる」とは言うが、「磨く」とは言わない。そこに学校教育の反省点があるのではないか。最後に、これからの教育への提言をいただきたい。

 能城 学校でも社会に出ても、問題解決にICTを使うのは当たり前の社会が到来している。今まで我々が培ってきた経験と融合する社会を目指して、教育を行っていきたい。

 戸ヶ崎 紙をデジタルにする「デジタイゼーション」から、デジタル化で新たな価値を創造する「デジタライゼーション」、そしてデジタルによる生活の変革「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のプロセスを積み重ねていくことが、社会や産業をリードする人材育成につながる。学校の当たり前を大胆に変え、脱正解、脱自前、脱予定調和の実践にまい進したい。

 前田 個別最適な学びができるよう、そして、子どもが自分の可能性を広げる手段としてオプションを提供するのが大人の役割。情報教育はそのひとつとして今後も重要な役割を果たすだろう。

 鈴木 情報活用能力のディバイド解消は個人レベルに留まらず、企業や自治体、国にも当てはまる。分水嶺となるのは、データに好奇心を持って行動するかしないかだ。社会全体が「データってなに?」と、関心を寄せることから、新たな価値創造の道筋が見てくるのではないだろうか。

 高橋 我が国の情報教育への激励となるメッセージをいただき、改めて子ども一人ひとりが主役になる教育が求められていると感じた。GIGAスクール構想の実現で、子どもたちは主張や大事なものを伝えるチャンネルが一つ増えた。大人が子どもの可能性に気づき、好奇心を磨く方向に導くことが求められている。本日はありがとうございました。


高橋 純 東京学芸大学教育学部准教授


前田 幸宣 文部科学省高等教育局大学振興課大学入試室室長


戸ヶ崎 勤 埼玉県戸田市教育委員会教育長


鈴木 国正 インテル株式会社代表取締役社長


能城 茂雄 東京都立三鷹中等教育学校主幹教諭

 配信方法=日本教育新聞公式サイトで配信
 配信期間=2021年11月27日(土)まで

STEAM lab 実証研究校募集
 下記URLよりアクセス
 https://plan.seek.intel.com/steamlabpoc

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