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リスクが高まる冬季の感染症対策

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 冬季は気温が低く、空気の乾燥によってウイルスが感染力をもつ時間が長くなるため、集団感染のリスクが高い学校現場では、インフルエンザやノロウイルスなどさまざまな感染症に注意が必要になる。とりわけ、新型コロナウイルスの勢いが長期化する中では「第6波」となる感染拡大が予想されるとともに、インフルエンザなどが同時に流行する可能性もあり、より一層予防の強化に努めることが求められている。そこで、各種感染症対策と教育活動の両立が求められる学校現場に向けて、参考となる情報を紹介する。

低温・乾燥でウイルスの感染力が持続

デルタ株によって子どもの感染が増加
 「第5波」となった新型コロナウイルスの猛威は、感染力の強いデルタ株の拡大によって子どもの感染者数が増えており、感染者に占める18歳以下の割合が4分の1に迫っている。子どもの感染者数は昨年6月から今年の8月までに累計5万人を超えているが、8月だけで、そのうちの3割を占めるまでになっている。感染者が拡大した神奈川県の小中高校でも、8月はいずれも千人以上の感染者数を出している。
 その中で、子どもの感染場所についても「家庭」に次いで「学校」が多くなっていることから、全国の学校では夏季休業の延長や分散登校などで感染リスクを避けるところが多くなった。多くの子どもが集まる学校ではクラスターが発生しやすく、家庭に持ち帰ることで、重症化しやすい親世代に広がるリスクも高まるからだ。
 文科省が新学期の対応について調査した結果(9月1日時点)によれば、「夏季休業の延長または臨時休業を実施している」小中学校は約13%で、高校は約19%。「短縮授業または分散登校を実施している」は小中学校で約23%、高校は約34%に達している。
 また、厚生労働省の調査でも、2学期が始まった9月6~12日に小学校でのクラスターの発生が32件に上り、前週の3倍超になったことが報告されている。しかも、この期間の感染場所でも学校が1割を超えており、新学期が始まって学校でも感染が広がっている実態が明らかになった。

教職員向けに「抗原簡易キット」を配布
 デルタ株による子どもへの感染は海外でも多くなっている。子どもは無症状感染者の率も高いため、実際の数はもっと多いことが予想されるほか、従来までと違って重症化するケースが増えているのが気がかりな点だ。
 そのため、政府は満12歳以上へのワクチン接種を急ぐとともに、対象年齢の引き下げの検討にも乗り出した。その中で、現状としては感染者が学校内に生じた場合には早期の発見・対応が求められることから、最大80万回分の「抗原簡易キット」を小中学校等に無償で配布することを決定した。
 今回配布する検査キットは教職員が対象で、出勤後に新型コロナウイルス感染症の初期症状として見られる症状(咳、咽頭痛、発熱等)を訴えた場合に検査を実施する。加えて、すぐに帰宅することが困難な場合の補完的な対応として、小4以上が使用するケースも想定している。こうした意図には、陽性者を発見するための保健所の負担の軽減を図りつつ、迅速かつ機動的にPCR検査を実施してクラスターを防ぐというねらいがある。
 ただし、微量のウイルスでも増幅できるPCR検査と違って、抗原検査は一定量のウイルスが存在しないと陽性とはならない。そのため、抗原検査では全員陰性だったが、数日後にクラスターが発生した学生寮のようなケースもあり、効果的な感染予防にはつながらないという指摘もある。それだけに、検査結果が陰性
だった教職員についても、医療機関の受診を促すことが求められる。

換気に加え、室内の湿度を40~60%に
 こうした中、冬季になって再び新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される理由は、気温の低い時期はウイルスが感染力をもつ時間がより長くなるためだ。通常の感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」で、感染者の飛沫を浴びたり、飛沫がついたものに触ったりして広がるが、デルタ株などの変異株では空気中に浮遊する粒子、いわゆるエアロゾルによる「空気感染」の可能性も高いことが指摘されている。
 そのエアロゾルは乾燥すると粒子の大きさが短時間で小さくなるため、体内に取り込まれやすくなる特徴を持つ。しかも、肺の奥まで入っていきやすいことから、重症化につながる可能性も高くなる。さらには冷たい空気によって鼻の中の温度が下がることで免疫力が低下するなど、わたしたち自身の防衛能力も下がってしまうのだ。
 したがって、マスクを着用して鼻や喉を保温・保湿するほか、喉などの乾燥を防ぐために冬でもこまめな水分補給が必要になる。同時に密になりやすい教室などでは定期的な換気はもちろん、室内の湿度を40~60%に保つことがより一層大切になる。

コロナ禍で導入が期待される最新技術
 換気の仕方としては、教室では2方向の窓を同時に開け、30分に1回以上、数分間程度窓を全開すること。また、エアコン使用時も室内の空気を循環させているだけなので、教室に換気設備があれば使用するほか、送風距離の長いサーキュレーターなどを利用する方法もある。加えて、体育館のような広く天井の高い部屋も換気に努めること。その際は熱中症対策として導入されている大型扇風機などが効果的といえる。
 また、教室など人が集まる場所のウイルスの除菌にはアルコールや塩素による薬剤の使用が一般的だが、最近では進化の著しい空気清浄機を始め、空気やモノを除菌してウイルスを不活化する紫外線照射装置も登場。すでに国内医療機関を中心に教育機関やスポーツ施設で採用されており、待合室やトイレなど不特定多数の人が共用する場所や、密になりがちな会議室や食堂などの衛生環境維持として活用されている。
 あるいは、感染予防の見える化としては、十分な換気ができているかの指標(学校環境衛生基準は1500ppm)をモニターできる二酸化炭素濃度計測装置、多人数を自動検温できるサーモグラフィーや体温センサーカメラ、感染者の肺炎の早期発見に有効なパルスオキシメーターなどの最新機器も学校に導入され始めている。このような機器は、災害時には避難所を担う学校施設にとっても欠かせない備えにもなる。
 冬季の乾燥する教室の湿度を保つためには、加湿器が有効だ。しかし、家庭用の加湿器では給水の手間がかかるとともに、教室全体をムラなく加湿することは難しい。そのため、新築・改修時にエアコン等空調機器と併せて天井に埋め込み式の加湿器を設置することが多くなっているが、新型コロナウイルスの感染予防の一環として、業務用の加湿器や加湿機能も備えた空気清浄機を導入するケースも増えている。
 だが、こうした教室の設備機器の操作については教員に任されていることが大半なため、意外と有効に活かされていないケースが散見される。それゆえ、教員には正しい知識を持つとともに、自分の体感だけで判断せず、より換気に気を付けたり、気温や湿度をチェックしたりする配慮が求められる。

今年「同時流行」が懸念される理由
集団免疫が形成されていない中での気になる兆候
 一方、新型コロナウイルスとインフルエンザの「同時流行」は昨年も懸念されたが、結果的にインフルエンザ受診者数の推計は、全国で約1万4千人と過去3年間の平均の1千分の1未満にとどまり、99年に記録を取り始めて以来、初めて流行しなかった。
 その理由としては、コロナ対策として普及した手指衛生やマスク着用、3密回避、国際的な人の移動の制限等の感染対策が、同じく飛沫感染と接触感染を主な伝播経路とするインフルエンザの予防につながったこと。もう一つは、双方とも呼吸器系の感染症であるため、他の似たタイプのウイルスには同時に感染しにくくなる「ウイルス干渉」が起きた可能性があるといわれている。
 だが、今年の冬は「同時流行」する可能性が高いと指摘する専門家の声が多くなってきた。というのもインフルエンザ同様、昨年は例外的に流行のなかったRSウイルス感染症が今年の夏に大流行したからだ。例年は秋から流行が始まり、年末頃にピークを迎えるが、今年は7月までに18~19年の年間累積患者数を上回ってしまった。
 しかも、2歳以上の患者数が増えているのがポイントで、昨年流行がなかったため、未感染の乳児が今年になって初感染していると推測されている。これは日本に限ったことではなく、同じ北半球の米国や英国などでも今年になって感染が増加している。
 こうした中、日本感染症学会は、今年の夏にインフルエンザがバングラデシュやインドなどアジアの亜熱帯地域で流行したことを指摘。その上で、わが国は前シーズンに罹患した人は極めて少数であったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられることから、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行を起こす可能性があると警鐘を鳴らしている。また、英国政府も例年の1・5倍の大きさの流行になる可能性があるとして、インフルエンザワクチン接種を呼びかけている。

未感染や未接種で免疫力が低下
 このような兆候を踏まえて考えると、インフルエンザに対しても警戒する必要がありそうだ。なぜなら、インフルエンザに対する抗体は時間経過とともに減弱するとともに、ワクチン接種による免疫も自然感染して得られる免疫よりも早く衰えるからで、未感染や未接種が多い子どもたちはインフルエンザに対する免疫力が低いとみられるからだ。
 となれば、今年はなるべく早い段階におけるインフルエンザのワクチン接種がより一層重要となるが、新型コロナワクチンの生産が優先されているため、昨年に比べると供給量が2割減となる見込みとなっている。さらにいうと、子どもへの新型コロナワクチン接種も遅れている中で、これからインフルエンザと両方のワクチンを接種するには、同時接種が認められていないわが国では敷居が高いといった現実もある。
 すなわち、もしも「同時流行」が起これば、この夏以上の医療崩壊を招くことにもなりかねない。しかもインフルエンザとは臨床症状も類似していることから、医療機関が新型コロナウイルスの患者を見落とす可能性も高まるとともに、子どもでも合併症によって重症化する可能性もある。
 だからこそ、感染の拡大がいったん収まったからといって油断することなく、今後も学校における感染症対策をゆるめずに、一人一人が自覚をもって予防に努めていくことが大切になるのだ。

今後も引き続き感染対策の徹底を
 文科省においても「緊急事態宣言」の終了を踏まえた学校の対応について、児童生徒や教職員に発熱等の風邪の症状がある場合には登校・出勤しない、屋外においても十分な感染症対策を講じるなど感染対策を引き続き徹底するよう要請している。併せて、教育委員会に対しても、学校給食センターなど学校の関連施設において複数の感染者が発生する事例があることから、学校施設に限らず教職員等の健康管理に配慮するよう指示している。
 部活動については、一部で練習や試合に付随する飲食等の行動が原因と思われるクラスターが発生していることから、感染リスクの高い活動等の制限や、部活動に付随する場面での対策の徹底を依頼。また、6月にスポーツ庁・文化庁が出した「中学生・高校生等を対象とした全国大会・コンクール等における感染拡大予防ガイドライン」に基づいて開催するよう求めている。
 さらに、修学旅行や体験活動などの校外で行う活動は有意義な教育活動であるため、その教育的意義や児童生徒の心情等を踏まえ、適切な感染防止策を十分に講じた上で、その実施について配慮するよう依頼した。

学校現場のストレスを鑑みた対策に期待
 学校現場ではコロナ禍の感染症対策が長期化することで、教職員のストレスや心労による健康問題が危惧されている。また、日々の生活・活動に制約があることによる子どものメンタルケア、短縮授業やグループ学習等の制限による学力の低下は受験や進学に向けての心配材料になっている。国や行政にはこうした現実を鑑み、サポート人員の加配やさらなる感染症対策整備の拡充、医療機関との連携などを強化することに努めてほしい。

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