理科や科学への好奇心を育むために より深く分析・考察する理科教育を
12面記事小学校教科担任制の本格化や1人1台端末で
2020年度の小学校を皮切りに今年度は中学校、来年度からは高等学校で新学習指導要領が全面実施される。加えて、GIGAスクール構想で導入された児童生徒1人1台端末での授業がスタートした中で、理科においては新たな学校教材の必要性がさらに増している。そこで、新しい理科教育で求められる資質・能力とともに、理科教育授業を効率的・効果的に行うために必要な最新の理科機器教材&ICTツールを紹介する。
理科専科教員の加配で高まる「観察・実験」の強化
新学習指導要領で目指す「主体的・対話的で深い学び」を実現するため、文科省は来年度より小学校高学年の理科、外国語、算数、体育に教科担任制を本格化に導入する計画だ。小規模校を除くすべての小学校への加配を目指し、4年間で8800人の教員を増やすとともに高学年の担任の持ちコマ数を減らすことで、授業の質向上と働き方改革を同時に図ることがねらいになっている。
加えて、小中9年間のつながりを強化する観点からも、いわゆる中1ギャップを解消する効果も期待されている。なお、来年度の概算要求では、そのうちの2千人分を要求している。
こうした中、理科では専科教員が増えることで、これまで以上に子どもの興味関心を引き出し、実感を伴った理解を育む「観察・実験」を重視した授業への機運が高まっている。
なぜなら、小学校の教員の中には理科を指導するのを苦手としていたり、実験・教材準備に手間がかかったりすることで「観察・実験」に消極的な傾向が見られること。反対に、理科が得意な教員が専科になることで、これまでは教科ごと均等にとっていた教材研究の時間を理科だけに充てられるようになったり、実験機会を増やしたりすることができるようになるからだ。
そのため、理科授業の質向上につながることはもちろん、子どもたちが理科好きになるという点でも効果が大きいと思われる。
科学的に探究する力を育むために期待されるICT活用
より深く分析・考察するためにICTを活用
理科においては、課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究過程を通じた学習活動を行い、それぞれの過程において資質・能力が育成されるよう指導の改善を図っていくことが必要とされている。そうした点でも、GIGAスクール構想で導入された1人1台端末を、理科学習の一層の充実を図るための有用な道具として活用することも求められている。
特に、学校では容易に行うことが難しい「観察・実験」や、分子や増水により土地の様子が大きく変化する動きなど実際には見られないものについては、インターネットやデジタル教材の映像を見せる方が授業時間を効率的に使え、教科書や図説だけではつかみきれないもののイメージを児童生徒に具体的に示すことができる。つまり、抽象的な概念や実体験が困難な事象の理解を助ける教材として活用できる魅力がある。
また、「観察・実験」の結果とICTを組み合わせることで、規則性や類似性を見いだしたり、通常では計測しにくい量や変化を数値化・視覚化したりすることができる。あるいは、クラウド上で実験結果などを共有することによって、班ごとの比較や児童生徒それぞれが行った考察を検証しあうといった、理科への理解をより深く分析・考察するための活用としても期待されている。同時に、それらのデータを格納できる場所を設けておけば、クラスや学年の垣根を越えて参考にする、学びを発展させるといったことも可能になる。
顕微鏡など理科機器のデジタル化も進む
さらには、理科機器自体もデジタル化が進んでいる。たとえばデジタル顕微鏡もタブレットに直接接続することで、児童生徒が実験の様子を共有したり、その画像を記録したりして学習に活かすことが可能になっている。
しかも、最近ではWi―Fi経由で複数台を同時接続できる機種も登場している。実験中の刻一刻と変化する過程を的確に把握し、記録することは難しい。その点、タブレットで実験の様子を録画し、繰り返し再生すれば、結果を明確にすることができるほか、学習の振り返りにも活用できる利点がある。
とりわけ、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)などの国際的な学力調査において、日本の子どもは「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」などの資質・能力に課題があることが指摘されている。その中で、こうした科学的に探究する力を育む上では、理科専科教員ならではの学習内容の深まりに対応しての専門的な技術や指導や、それらの理解を分かりやすく提示・検証できるICT活用が重要になっているのだ。
新しい「教材整備計画」を活用し、適切な教材の整備充実を
理科機器の充実も大切だ
一方、理科教育の質を向上させるためには、その他の教材・機器の充実も欠かせない。そこで、文部科学省では、20年4月から順次実施される新学習指導要領の趣旨等を踏まえ、「教材整備指針」の一部改訂を行った。教材整備指針は、義務教育諸学校に備える教材の例示品目、整備数量の目安を参考資料として取りまとめたものとなる。
これらの整備に必要な経費については、20年度から10カ年の新たな「教材整備計画」を策定し、単年度約800億円・総額8千億円(小学校約500億円、中学校約260億円、特別支援学校40億円)の地方交付税措置が講じられている。
ただし、各自治体の財政状況や考え方によって、その整備状況に格差が生じているのも事実。したがって、全国の義務教育諸学校では、この「教材整備計画」を新たに必要となる教材や更新が必要な教材のピックアップ、教育委員会等への要望資料として活用し、適切な教材の整備充実を実行することが求められているところだ。
プログラミング教材や3Dプリンターも
教材整備指針の主な改訂内容としては、
(1) 新学習指導要領関連では、小学校で必修化されたプログラミング教育用ソフトウェア・ハードウェアや、発表板などの教材
(2) 技術革新等関連では、進化の著しい3Dプリンター(中学校)、視線・音声入力装置(特別支援学校)などの教材
(3) 学校における働き方改革関連では、拡大プリンター、複合機(印刷、スキャナ、丁合、ステープラー等)など学校における教育環境改善に資する教材
―を例示している。
たとえば小学6年・理科の単元「電気の利用」で使うプログラミング教材なら、明るさセンサーや人感センサー、温度センサーなどを使って、スイッチを制御するプログラムの作成に取り組むことができる。3Dプリンターは、中学2年の単元「動物の体のつくりとはたらき」の中で、立体的な構造を捉える力を育むことに活用できたり、アイデアを自分の手で試作できることで、ものづくりへの興味関心を高められたりといった使い方ができる。
時代のニーズで必要とされる理科機器
また、時代の進化で一部見直しされた機器も含めると、ICT教材では、大型提示装置や実物投影装置、コンピュータ、学習ツール、キーボード入力練習教材、無線LAN機器、充電保管庫など。理科教材では、実験用コンロや音の学習用具、デジタル気体チェッカー、野外観察調査用の簡易プランクトンネット、双眼実体顕微鏡、提示用顕微鏡、電気測定用具、原子の構成の学習用具なども品目化されている。
さらに、国庫補助事業となる理科教育設備の整備では、新たに整備することが考えられる理科設備として、小学校では充電器チャージャーや太陽光源装置、電子てんびんなど。中学校では放射線測定器や簡易霧箱、実験用オシロスコープ、遺伝モデル実験器などが例として挙げられている。
「本物」の自然の事物・現象から得られる驚きや発見は好奇心の源泉であり、理科だからこそ得られる貴重な体験だ。これに加え、ICTの特性を活かしたデータに基づいたアプローチにより、モノごとについて深く観察・考察する力を育んでほしい。