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新しい学びの姿に対応した教室環境~子ども主体の学びに転換するための学校家具の変革~

15面記事

施設特集

 これからの学校施設には、1人1台端末の活用や多様化・高度化する教育内容に応えるアクティブで創造的な教室環境づくりが求められている。同時に、教室面積や学校家具もまた子どもの成長段階に合わせて変えていく必要が生まれている。ここでは、そうした新しい学びの姿に対応した教室環境のあり方について紹介する。

新JIS規格の机・椅子は小中学校で半数に留まる

教室や机の面積が手狭になっている
 学校の教室寸法は、時代の経過につれて子どもの体格の伸びがあったにもかかわらず、その広さの基準は変わっていない。しかも、小学校から高校までほぼ同じスペースになっており、発達段階に考慮した設計にはなっていない。現在は従来の63平方mから74平方m以上の広さを確保した間取りの教室も採用されるようになっているが、高度成長期に建てられた校舎をそのまま使用している学校が大半なため、新設校や一部の改修校に限られている。
 文科省の20年度時点の調査によれば、公立小中学校の約7割の教室が65平方m未満で、75平方m以上の教室は3%しかない。
 また、子どもたちが使用する机・椅子も同様だったが、99年の規格改正で、机の面の縦横をそれぞれ5cmずつ拡大した新JIS規格が用いられることになった。それでも、いまだ公立小中学校の約半分が旧JIS規格のままなのが実態だ。

多くの学校が4個以上の教材を使用
 こうした中、近年の学校授業では教科書とノートがB判からA判に大判化されたのに加え、ICT活用や学習内容の多様化に伴ってワークシートや副教材を一緒に机の上に広げることが多くなっていた。そのため、旧JIS規格の机では「机の大きさが原因で、机の上で教材等を自由に広げることができない」「教材等が落ちてしまう」など約8割の学校が支障を感じていると答えている。
 そこに今回の「GIGAスクール構想」によってタブレット端末が追加され、机面積がさらに窮屈になってしまった。しかも、電子黒板や書画カメラ、プリンターといったすでに整備したものに加えて、新たに設置したタブレット充電庫やロッカーなどによって、教室自体もますます手狭な様相になっている。
 ちなみに、同調査では多くの学校で机の大きさにかかわらず4個以上の教材を使用していること。旧JIS規格の机に比べ、新JIS規格の机の方がより多くの教材等を同時に活用していることが分かっている。

少人数によるきめ細かな指導体制へ
 この結果から文科省は、旧JIS規格の机では、教科書、ノート、補助教材、筆記用具等で机上が埋まってタブレットを同時に活用することが難しいことを指摘。一方、新JIS規格の机では教材とタブレットを同時に活用できるが、通路幅が狭くなり、机間巡視がしにくいなどの課題があるとしている。   その上で、今後は新型コロナウイルス感染症への対応としての「身体的距離の確保」や、1人1台端末の下で効果的に個別最適化された学びを行うための「学級規模」として、学級編制の標準の引下げを含め、少人数によるきめ細かな指導体制の計画的な整備を進める必要があることを挙げている。したがって来年度の概算要求でも、25年度までに小学校の35人学級を計画的に整備するための整備や教員の加配における予算を計上しているところだ。

新JIS規格における机・椅子の特徴
 新JIS規格の教室机は、軽量かつ耐久性を実現するため、天板は木製(強化合板)で脚部はスチール製というデザインが主流になっている。寸法も、幅60cm×奥行き40cmから幅65cm×奥行き45cm以上へと改善されているが、より余裕をもった幅70cm×奥行き50cmのワイドタイプも商品化されている。
 また、机・椅子とも高さ調整が利くのが特徴。高さ調節方法には、上下にスライドする脚部を水平ボルトで留める方法と、高さ調節板を脚部下端に垂直ボルトで留める方法の2種類がある。小学校なら同じ机・椅子を6年間使い続けられることで愛着が持てるといった利点がある。
 ただし、座面を高くすると、背もたれが低くなりすぎて腰椎を支えきれないといった問題も見られる。適切な姿勢を保つ高さの机と椅子のセットを使用することは、児童生徒の健康面に配慮することになることから、今後の製品開発においてさらなる改善が求められているところだ。

地域産材の活用や「抗ウイルス仕様」の天板も
 あるいは、環境問題に配慮した地域産材などの木材利用の推進として、新JIS規格を採用する際にヒノキやスギなどの間伐材を使用した木製の机・椅子が導入されるケースも増えている。だが、木の温かみや落ち着きを感じる一方で、スチール製に比べるとどうしても重量が増えてしまうため、特に低学年の児童には持ち運びがしにくいといった指摘もあるようだ。
 また、木製の机・椅子は使い込まれたよさを感じられるのが長所だが、比較的傷つきやすく、木目に沿って割れやすい性質も持っている。そのため、天板を磨いて再生させるなど、メンテナンスの工夫も取り入れられるようになっている。
 最近ではコロナ禍における毎日の除菌作業などの教員の手間を防ぐため、「抗ウイルス仕様」の交換用天板も開発されている。これは天板のみ交換することにより、通常の半分の費用で抗ウイルス効果を持つ新品の机に変えることができるのがミソで、すでに埼玉県寄居町の小中学校などで採用されている。
 ほかにも、GIGAスクール端末の導入に伴い、机の面積を広げる工夫として、樹脂製やプラスチックの天板を今ある机に簡単に後付けできるアイデア商品も登場している。

子どもの主体的な学びに適した学校家具に
 一方、学校施設は7割以上が老朽化しており、令和時代にふさわしい施設に生まれ変わらせための継続的かつ計画的な長寿命化改修が進められている。その中では、多様化する教育内容に応えるアクティブ・ラーニング型授業に対応した特別教室や多目的スペースといった創造的空間づくり、少人数授業や幅広い学習シーンに合わせて容易にレイアウト変更が可能な教室机やファニチャーなど、豊かで快適な教育環境に向けた提案も始まっている。
 こうした背景には、新学習指導要領の主目的である「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業改善として、教員が一方的に教える授業から、子ども同士の協働や教員や地域の人との対話を通じて、自己の考えを広げ深める授業への転換が求められていることがある。すなわち、アクティブな学習スタイルが可能になる教室環境や学校用家具が、子ども主体の学びや教員の指導改善に寄与することが期待されている。
 したがって、老朽化改修時に教室面積を広げる、モチベーションを高める空間デザインを取り入れた多目的に利用できる教室や異学年が交流できるゾーニングをつくる、自然採光や内装に木材を活用して温かみのある学習・生活環境をつくるとともに、その環境を活かせる学校用家具を導入する学校が増えている。
 たとえば、グループ学習に向いた組み合わせもできる台形のテーブル、すぐに移動できるキャスター付きや、場所をとらずに水平にスタッキングができる机・椅子、ホワイトボード付きディスプレイスタンド、授業の準備・後片づけがスムーズなシステム収納庫などだ。

柔軟で創造的な学習空間の実現を
 このように、今後の学校施設は学習空間を均質で画一的なものから、柔軟で創造的なものに転換していくことが不可欠となっている。しかも、特別支援教育を受ける児童生徒や、日本語指導が必要な児童生徒の増加を踏まえた学校用家具や、新たな教室の整備も推進していく必要がある。
 さらには、読書・学習・情報のセンターとなる学校図書館の整備(ラーニングコモンズ)、教職員の教材製作空間(スタジオ)、コミュニケーション・リフレッシュの場(ラウンジ)の整備など、「知」と「生活」が共創できるような新しい空間づくりにもチャレンジしてほしい。

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