災害時の快適なトイレ環境の確保にマンホールトイレ整備を推進
13面記事岡山市が整備した災害用マンホールトイレ
導入事例
岡山市
地域の避難所に指定されている学校では、災害によって下水道の被害や断水が発生して水洗トイレが利用できなくなる場合に備え、マンホールトイレの整備が求められている。岡山市では総合地震対策計画に基づき、2019年から市内の小中学校に、避難所の環境整備のため、下水道を利用した災害用マンホールトイレを整備している。そこで、危機管理室で地域防災を担当する田村隆洋課長に話を聞いた。
田村 隆洋 危機管理室地域防災担当課長
臭気の発生を抑制し、衛生的な環境を保てるのが魅力
「本市では、避難所として指定された学校や防災拠点での災害用マンホールトイレの整備を推進。19年度より整備事業を開始し、まずモデル地区として小学校1校に整備、20年度より毎年4校ずつ整備を進めており、まずは、24年度までに小中学校22校に整備する計画です」と田村課長。設置場所はなるべく避難者が行きやすい避難所となる体育館付近に整備し、校舎敷地内に埋設してある下水管内への水の供給は手押しポンプによりプール水を利用することとしている。1校当たりの設置個数については、避難所の収容人数から、概ね1校あたり5基(一般用4基、車いす用1基)を想定している。また、設置に必要な便座・テント等の資材は専用の収納倉庫を設置。
導入しているのは、災害時に下水道のマンホールのふたを外して便座を置き、上部にテントを設置することで仮設トイレとして使用できる、積水化学工業の「防災貯留型トイレシステム」だ。専用配管が下水道に直結し、下水道管内に溜まった汚物をプールの水を利用して貯留・洗浄するため、マンホール内の弁を開けば汚水をそのまま流すことができるのが特徴で、「それゆえ、臭気の発生を抑制し、衛生的な環境を保てるのが魅力。設置する便座なども軽量で、地域の皆様にも簡易に組立でできると考えております。」
しかも、マンホールトイレは、建設現場などで利用する仮設トイレと比べ、備蓄が容易で、日常使用するトイレに近い環境を迅速に確保、また、地面と段差なく設置できることから、要配慮者の利用にも適している。
それでも避難所で使用するには、整備に時間を要することから、マンホールトイレを整備している自治体は約3割、整備基数の総数は約3万2千基(18年度末)であり、十分に整備が進んでいるとはいえない。そのため、国土交通省は17年に発生した熊本地震を教訓に、整備を促進させるため、20年に内閣府と連名で、各市町村に対して下水道部門と防災部門が連携して整備を検討するよう通知している。
普通のトイレと同じように使える
地域への周知や設置訓練の再開
一方、導入後に重要になるのが設置訓練だ。最初に整備した市立御南小学校では、地域住民ら約400人が参加した防災訓練で、自主防災組織のメンバーから組み立て方を学んだという。そこでは、「普通のトイレと同じように使える」「これなら臭いもしなさそうだ」「段差がないので、高齢者や車いす利用者でも使いやすい」と好印象だったと振り返る。ただし、「思ったより組み立てに時間がかかった」という声もあり、災害時に迅速に組み立てるには慣れが必要なことも分かった。
その意味で、コロナ禍で学校の設置訓練が中止を余儀なくされていることを残念がる。「学校といっても、避難者が生活するとなるとトイレ数が少ない。また、簡易トイレを使用することに抵抗感を持つ人も多い。その両面を補えるのが、災害用マンホールトイレです」と期待する。だからこそ、今後は学校での設置訓練の再開はもちろん、地域の人たちにその存在をもっと知ってもらえるよう、運動会などでの活用も含めて検討していきたいと語った。