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共通テスト必修の新科目、現場の授業づくりは

10面記事

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 9月18日から視聴可能になる後半の「夏の教育セミナー」(日本教育新聞社、ナガセ共催)は、高校の新学習指導要領での授業づくりがテーマ。来年度からの新科目の実施に向けてどんな準備が進んでいるのか。必履修科目が導入され、大きく変わる二つの教科は今どうか。

まず実践の積み重ね課題解決目標定めて
地理歴史科

 地理で必履修科目になる「地理総合」は、

 ・地図や地理情報システム(GIS)
 ・国際理解と国際協力
 ・持続可能な地域づくり

 ―を学習する新科目。深刻化する環境問題や自然災害を背景に、GISなどを活用して情報を調べ、まとめる技能を身に付けたり、課題解決のための力を養うことを目標としている。
 8月にオンラインで開かれた全国地理教育研究会の研究大会では、地理総合の三つの内容に関する授業実践の発表があった。
 東京都の武蔵野大学中学校・高校の糟谷武志教諭はGISを使った衛星画像を読み取り、森林破壊について考察する授業を紹介。JAXA宇宙教育センターが開発した教材を使い、森林破壊の要因や解決策などを生徒たちに考えさせた。
 また茨城県立日立第一高校の川久保典昭教諭は、日本のカップラーメンの海外展開を題材に取り上げ、食文化や宗教の違いで使用する材料を変えていることを紹介。国際理解の学習につなげた。地理総合では、身近な地域の課題からグローバルな課題までを扱った解決型の授業が求められることになる。
 空間認識を学習の軸とする地理総合と対になるのが歴史科の「歴史総合」。近現代史を中心とした世界史・日本史の融合科目だ。その題材はもちろんのこと、それぞれに専門科目が分かれている歴史科教員がどうやって教えるのか。実施までに解決しなければいけない課題だ。
 全国歴史教育研究協議会が7月に開いた研究大会では、世界史を専門としている千葉県の高校教諭が「フランス革命と明治維新との比較探究学習」の授業実践を報告した。日本史の教員から助言を得て計画した。幕府が世界情勢をどのように把握していたのか分かるように、基本資料として「オランダ風説書」を紹介してもらったという。分科会で司会を務めた大阪府立桜塚高校の田上浩教諭は「地理歴史科の教員が連携し、課題解決目標を決めていくことが大切。実践例は豊富ではないが、まずは積み重ねが重要だ」と語った。

担当教員の負担軽減を指導力向上が急務
情報科

 「生徒の出身中学によって情報の学習経験に差がある。これを埋めるために、どうしたらいいのかを紹介したい」
 8月にオンラインで開かれた全国高等学校情報教育研究会の全国大会。発表した千葉県の高校教諭はそう話すと、新科目の内容に入る前に取り組ませたいプログラミング教材を紹介した。
 ブロックの操作で学べる小・中学校向けのプログラミング学習を1学期に取り組ませたという。教諭は「ビジュアルコーディングの体験をそろえた後で、テキストコーディングの活用へ移行すると、プログラミングへの抵抗感を和らげられる」と振り返る。
 現行の学習指導要領までは選択必履修科目だけだった情報科に、来年度から共通必履修科目が置かれる。プログラミングやデータ処理を扱う「情報I」だ。現行の情報科の履修率は「情報の科学」が2割、「社会と情報」が8割と、プログラミングを扱わない科目の方が圧倒的に高い。そんな中で来年度から、全ての授業がより専門的な内容へと変わることになる。
 担当教員の指導力向上も急務だ。文科省の調査によると、情報のみを担当している教員は全国で2割、別の教科との兼任が8割だった。また情報担当教員に占める臨時免許・免許外も24%に上っている。
 必履修教科になって18年、教育委員会が情報科教員の採用試験を見送ってきたため、プロパー(生え抜き)教師がいないことが現在も尾を引く。
 それでも7月、文科省は令和7年度入試から大学入学共通テストで情報を出題教科・科目に加えることを決めた。国立大学協会が加盟大学にどのような活用方針を示すか注目が集まる。
 全国高等学校情報教育研究会の福原利信会長(東京都立田園調布高校校長)は「課題はいろいろと指摘されるが、来年度から『情報I』が始まることは、もう決まっている。情報を担当する教師の負担を減らすために、授業の持ち時数を減らすなど、教育委員会がこれからでもできることはある」と学校の指導体制の改善に期待する。

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