入試改革 今後はどうなる
10面記事高校、大学が合意しながら前へ
前田 幸宣 文科省大学入試室長
文科省が大学の令和7年度入試の出題科目を正式に発表した。大学入試のあり方に関する検討会議の提言を踏まえ、英語民間試験と記述式の導入は見送った。同省の前田幸宣・大学入試室長に、提言までの経緯と今後の入試を聞いた。
記述式の出題・英語4技能評価 個別試験の好事例を可視化
―1年半に及ぶ大学入試のあり方に関する検討会議を振り返っていかがですか。
「検討会議では28回の議論を重ね、高校生、大学生、現職教員を含む方たちへの意見聴取と大学入試の実態調査、全大学・学部へのアンケート調査をしました。その上で、大学入試に求められる原則とは何なのか、実現可能性を考え大学入試はどのように改善できるのか、といった点を提言にまとめていただきました。検討の過程では、今回の件が受験生などに与えた影響を真摯に受け止めるよう指摘もされました。文科省としては、そこで求められた議論の透明性の確保や、データやエビデンスの重視、多様な意見聴取を他の施策にも生かしたいと考えています」
―提言は、記述式の出題や英語4技能の評価について、各大学の個別試験の改革に期待する内容になっています。どう促しますか。
「今回行った実態調査の結果によると、一般選抜での記述式問題の充実に国立大学は約8割が肯定的でしたが、私立大学では約5割でした。そこには私立大学の入試の構造的な背景もあります。つまり一般選抜が2月1日から始まり、複数併願する学生も多いため、問題の作成や採点に伴う負担が大きいのです。そのため優れた事例を一覧可能な形で可視化したり、模範となる取り組みをピアレビュー等による評価を踏まえて認定・公表したりといった方法で促進していきます」
「英語4技能の評価についても優れた事例の可視化等を進めると同時に、低所得層への検定料減免やオンライン受検の推進、高校会場の拡充を試験団体に要請するといった地理的・経済的事情への配慮も進めていきます」
財政支援で改善後押し
―個別試験の改善を促すため、大学にインセンティブを与えることも提案されています。どのような仕組みが考えられますか。
「国立大学運営費交付金や私学助成を活用した仕組みの検討が提言されています。例えば、私立大学は私学助成の補助金の中に改革総合支援事業があり、入試改革も項目に含まれています。そうした財政支援の仕組みを通じて、改善を応援していきたいと考えています」
―大学の中には入試による選抜が機能しておらず、記述式を出題すること自体、難しい大学もあるのではないですか。
「記述式といっても、長文や小論文ばかりではなく、短答式もあれば、多肢選択に答えさせた上で選んだ理由を書かせたりする方法もあります。そこは大学の実情に応じて取り入れてもらえたら良いと思います」
―入試改革の見送り以前には、大学入試を民間事業者に依拠することへの不安の声も多くありました。今後は入試の中で民間事業者をどう位置付けますか。
「民間事業者への依拠という点で最も不安が多かったのは、英語成績提供システムだと思いますが、資格・検定試験は共通テストの枠組みで実施するのではなく、各大学がアドミッション・ポリシーに基づいて個別試験で活用することとしています。個別試験での活用に当たっても、今後、文科省のイニシアティブで試験団体と高校・大学関係者による協議体を設け、課題については、しっかり話し合っていきます。英語の資格・検定試験は、入学者選抜実施要綱にも記載があり、長年にわたって大学が入試に活用していることを考えれば、利用することまで一律に否定はできないと思います」
―大学入試センターによる英語4技能試験の開発の可能性はないのですか。
「4技能試験にはライティングやスピーキングを採点する人が必要です。記述式問題の採点では、採点業務の一部を委託する仕組みを採ろうとしましたが、さまざまな課題が指摘されました。AI(人工知能)による採点は、技術の発展や社会の理解を待たなければいけません」
CBT、実証研究重ね
―入試のオンライン化の現状と可能性をどう考えますか。
「共通テストの電子出願はできる限り早期の導入を検討しています。面接については昨年度、コロナ禍の影響で実施する学部がありました。回線がつながらないなど、さまざまな課題が生じましたが、コロナ禍の収束後も自然災害への対応や地理的・経済的事情への配慮から有効な手段だと考えています。一方、共通テストのCBT(コンピュータ型試験)の導入は、採点の効率化や複数回実施など利点は多くありますが、格段に高い水準が求められる共通テストで実施するには技術的な課題が多くあります。令和7年度入試での導入は困難ですが、小規模な試験での実証研究を重ねて実現可能性を検討していきます」
中長期的視野で検討
―大学入試の改善に向けた高校・大学関係者による協議会の位置付けと、今後の議論の見通しを教えてください。
「これまでも毎年度、入学者選抜実施要綱を策定するに当たって関係者による改善協議を開いていましたが、新たな協議体では、これに加え、中長期的な視野に立った検討を行うこととしています。提言では、雪害や感染症拡大期を避けるために共通テストを12月に前倒しすることについて、共通テストの高校会場を増やすことについて、また『高校生のための学びの基礎診断』の検証を踏まえた、大学入学希望者の基礎学力テストの可能性について―などが挙がっています。これらは期間を区切って結論を出すものではないと考えています」
―検討会議の提言では、総合型選抜・学校推薦型選抜の推進を求めていますが、学校の教育活動外の学習成果を評価することは格差が反映されることにならないか不安視する声もあります。
「社会的・経済的に恵まれた受験生を優遇することになってはいけませんが、総合型や学校推薦型には、逆に児童養護施設の入所者を対象にした選抜や、地方出身者・離島出身者を対象とした選抜、外国にルーツを持つ受験生を対象とした選抜など、入試の実質的公平性の追求や多様性の実現に資する面もあります。文科省としても、こうした選抜を促進していきたいと考えています」
前田・大学入試室長は「第8回夏の教育セミナー」基調講演で、共通テストの分析と質疑応答などを行います。(15日まで配信)
セミナーのご案内はこちら(https://www.kyoiku-press.com/2021_summerseminar/)から。