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新しい時代の学びを支える学校施設

14面記事

施設特集

 これからの学校施設は、時代の変化や教育内容の多様化に対応した高度化・高機能化を図るとともに、ポストコロナの「新しい生活様式」を踏まえた豊かで快適な学習環境を整える必要がある。さらに、災害時は地域の避難所を担う重要なインフラとなることから、防災機能の強化やバリアフリー化をより一層推進することが求められている。そこで、これらを踏まえた学校施設のあり方や最新の導入事例などを紹介する。

多様化する教育や快適な環境を意識して

今後の学校施設づくりのヒントに
 現在、学校施設は約7割が老朽化しており、令和時代にふさわしい施設に生まれ変わらせるための継続的・計画的な長寿命化改修が進められている。同時に、小中一貫校による統廃合、他公共施設との複合化による学校再編といった施策も年々強化されており、学校施設を取り巻く環境は大きな転換期を迎えている。
 こうした中、文科省では中教審の答申などを踏まえ、検討部会を通じて来年3月までに新しい時代の学校施設のあり方について提言をまとめる予定だが、2019年にも「これからの小・中学校施設の在り方について~児童・生徒の成長を支える場にふさわしい環境づくりを目指して~」と題した報告書を公表している。そこでは今後の小・中学校施設整備において特に留意すべきことや充実を図るべきこととして、新学習指導要領やICTへの対応、施設の機能向上など7つの視点を示すとともに、それぞれの視点における小・中学校施設整備指針の改訂案を提示している。
 また、小・中学校施設における現状の課題把握や好事例の収集等を行うため、12 校に現地調査を実施。その内容からは、これからの学校施設づくりのヒントが見えてくる。

改修ごとに教育環境を向上
 千葉大学教育学部附属小学校は、過去3回にわたる校舎の改修にあたり、教員等の意見も取り入れながら、時代に沿った使い勝手の向上に取り組んでいる。たとえば図書館機能を多層化(1・2階)することで各室からのアクセスが改善されるとともに、図書館機能を「おはなしセンター」と「メディアセンター」に分化し、学齢ごとに利用しやすいよう改善。また、室内階段の高さを変えて座席にもなる部分をつくった。
 このような生活の場としての環境づくりでは、「年代ごとのスケール感に合わせた空間」「児童、教師が生活上のさまざまな場面と出会えるようなしかけ」を、学ぶ場としての環境づくりでは、「空間の連続性・多様性」「多目的スペースなどの導入」を取り入れている。
 茨城県土浦市立都和小学校は、居ながらの改築事業として従来の運動場の場所に新築校舎を建設した。改築後の校舎の北側となる新たなグラウンド(従来の校舎敷地)への日陰の影響を最小限にするなど、周辺環境に十分配慮した配置計画がなされている。建設過程(工事の様子など)を子ども向けに掲示し、「自分たちの校舎」といった意識の醸成を図った結果、建設中のクレームもほぼ無かったとのこと。なお、新設した校舎は3階まで吹き抜けの昇降口や教室や廊下の内装木質化により、開放感とやわらかい雰囲気を醸し出した。

都市部ならではの設計・ゾーニング
 都市型キャンパスを代表する豊島区立目白小学校は、改築にあたり保護者、学校、地域住民等による「建替え等を考える会」を組織して検討を重ね、区長への「提言書」を提出して施設計画に反映した。比較的狭小な敷地においてグラウンドの広さを確保するため、校舎、体育館、プールをコンパクトに配置。その中で、機能によるゾーニングや各室の連携など、よく配慮された設計になっているほか、自然光を取り入れるための窓が効果的に配置され、中庭や屋上庭園は緑地の少ない都市部において児童の憩いの場となっている。加えて、災害時に地域の避難所となる体育館には空調を整備し、上階に備えたプールはマンホールトイレの洗浄水としても利用可能だ。
 新潟県長岡市立東中学校は、建設計画の最中に中越地震が発生したため、防災拠点としての機能を高度に備えた計画がなされているのが特長だ。避難場所として備蓄倉庫、多目的トイレ、水、ガス等の供給についても対策がとられているのはもちろん、雨天時の運動の場、非常時には荷受け場として多目的に活用できる屋根付き広場や、災害時の利用も考慮して余裕をもたせた保健室は体育館との動線も確保している。しかも、外部と体育館アリーナの関係、学校専用空間と地域住民利用空間のゾーニングも明確になっている。

9年間の学びに適した学校施設
 新たな学校種として創設された義務教育学校は、近年の教育内容の量的・質的充実への対応や、児童生徒の発達の早期化等に関わる現象、中学校進学時の不登校、いじめの急増など「中1ギャップ」への対応を背景に、一人の校長と一つの教職員組織が9年間の学校教育目標を決め、一貫した教育を行う学校になる。
 2018年に開校したつくば市立学園の森義務教育学校では、1~9学年まで41学級が一つの敷地の中で学ぶ工夫がこらされている。校舎南棟、北棟、中央連結部の3要素で校舎を構成し、図書・メディア室を学校の中心に配置してすべての箇所からアクセスしやすいよう設計。
 また、外側にはガラスを多用し、お互いに見る・見られるの関係性を重視するとともに、多目的室・体育館の建具は全面開放が可能で、広場と一緒に活用することで多様な活動に対応できる、カウンセリング室へは通用玄関とは異なる玄関からアプローチができるなどに配慮。そのほかにも義務教育学校の特色を生かしたゾーニングや異学年交流の空間、ユニバーサル計画や自然エネルギー及び省エネルギーの観点を盛り込んでいる。

地域コミュニティーとしての施設づくり
 自治体の厳しい財政状況の中で、老朽化が著しい公共施設全体の効果的・効率的な改修へとつなげるため、学校施設の複合化も進められている。そこでは子どもの多様な学習機会を創出するとともに、地域コミュニティーの強化や地域の振興・再生にも資することもねらいになっている。
 生涯学習施設と複合化した千葉県八千代市立萱田南小学校は、総合生涯学習プラザに併設された空調設備のある体育館(アリーナ)、屋内プールを使用することで、施設の充実度と教職員の管理負担の軽減を同時に実現。加えて、児童にとっても公共施設を使用しているとの意識醸成が図られる効果があるとしている。施設としては廊下面の壁をなくし、オープンスペースにしているのが大きな特徴だ。
 外壁に鉄道車庫を模した煉瓦を使用したデザインが印象的な新潟県糸魚川市立糸魚川小学校・ひすいの里総合学校は、小学校と特別支援学校の合築であり、双方の独立性を維持しながらも一体感のある設計になっている。同じ動線・出入口を使用することで自然な形で交流できるため、インクルーシブ教育が推進しやすい環境になっている。また、余裕のある敷地に各種ホール、図書館、外部大階段など多様に使える空間が設けられ、地域の活動も含めたさまざまな活動が展開できる。オープンスペースの教室や校務センターも、書棚スペースを分離することで、すっきりとした印象を形成することに成功している。
 生徒の自主的な学習や学力向上を目的に教科センター方式を採用した福井県坂井市立丸岡南中学校は、各教科2~3教室程度の専用室を有している。生徒はホームベースにロッカーがあり、ホームルーム等は指定の教科教室を兼用する。その際、意図的に異学年が隣同士となる配置にしており、教員も複数学年を縦持ちするスタイルになっている。また、地域との連携を意識し、校地には防球フェンス以外の塀はつくっていない。図書室が昇降口の近くにあり、朝読書に読む選書や室内の掲示も含めて、生徒が図書に触れやすい環境をつくっている。

防災機能の強化や新しい生活様式への対応も
 一方、学校施設は災害時に子どもの生命を守り、地域の避難所となる安全・安心な環境を実現することが求められている。政府が進める「国土強靭化5か年加速化対策」の中でも学校施設は重要インフラとして指定されており、構造体のさらなる耐震化とともに、空調や自家発電設備、多目的トイレやマンホールトイレ、非常時の通信手段の確保など、ライフラインを維持する設備の投入が急がれているところだ。
 また、コロナ禍の「新しい生活様式」に対応するため、空気清浄機、サーモグラフィー、非接触型体温計、紫外線照射装置、二酸化炭素濃度計測装置など感染拡大を抑止する機器の導入。あるいは、換気対策として体育館などの屋内運動場への大型扇風機の導入も急ピッチで進められている。

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