小学生『夢をかなえる』作文コンクール「学校賞」受賞校に聞く
8面記事夢の実現を「ライフプランシート」で具体的に計画し、課題図書などを参考に作文にまとめる「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」(日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(以下、日本FP協会)日本教育新聞社主催)は今年度で15回目を迎える。昨年のコンクールで「個人賞」(高学年部門)で優秀賞1名、奨励賞1名に加え、優秀学校賞も受賞した新潟大学教育学部附属新潟小学校にコロナ禍というピンチをチャンスに変えた作文コンクールの活用法について話を聞いた。また「個人賞」(中・低学年部門)で2名の奨励賞と優秀学校賞を受賞した岐阜市立鷺山小学校、同じく優秀学校賞と「個人の部」(高学年部門)で奨励賞1名を受賞した松山市立垣生小学校の2校にも作文コンクールの意義について取材した。
逆転の発想でピンチをチャンスに変える!
新潟大学教育学部附属新潟小学校
新型コロナウイルス禍は子どもたちの学習スタイルを大きく変容させた。働く現場を実体験するキャリア教育でも同様である。
新潟大学教育学部附属新潟小学校(山田浩之校長、児童数449名)の5年生たちは市内の有名小売店で職場体験を行う予定だった。あるいはゲストティーチャーとして招かれた家族から職業講話を聞いたり、親の職場を見学する「子ども参観」など従来の活動が一切できなかった。
「何もできない状況だから、とにかくできることを探しました」と同校の椎井慎太郎教諭は1年前を振り返る。
校外学習に出られなかった1学期前半は<NHK ティーチャーズ・ライブラリー> という教育コンテンツに着目。キャリア教育に役立つ30枚ほどのDVDを利用して、さまざまな職業があることを伝えた。休校や分散登校で授業日数は削減され、自宅での学習を支援しようと興味がある子どもにはDVDを貸し出した。
またZoomアプリを利用して、オンライン職業講話を充実させた。東京にいる編集者や国連職員、海外青年協力隊員、テレビ局の社員など、知人たちのコネクションを使い、普段はつながれない人たちとつながった成果は非常に大きかった。
「オンライン講話やオンライン質問タイムを通しての活動は、対面での活動とほとんど遜色なく実施することができました。新型コロナウイルス禍の厳しい状況でなければ気づかなかった価値がありました」と椎井教諭。
子どもたちは数々のオンライン講話を受講した後、自分の夢を模索する一つのきっかけとして課題図書を手にした。「夢をかなえる作文コンクール」に向け、本格的に動き出した。
優れたアウトプットは充実したインプットから生まれる
椎井教諭は9月と10月の2カ月間かけ、コンクールの締め切りに向けてライフプランシートと作文を進めていた。DVDやオンライン講話などで子どもたちがインプットしたものをアウトプットする作業はいよいよ大詰めだ。
未来の自分を思い描くとき、子どもたちの多くは家族や親戚など身近な大人たちの職業がヒントになるという。
奨励賞(高学年部門)を受賞した5年生(当時)の朝日藤(あさひとう)寿樹さんの夢は小学校の先生。小学校教師である母親のいとこから、物事を分かりやすく教えられると勉強が楽しくなると実感し、自らも小学校教師へのライフプランを設計。「高校を卒業して一人暮らしを始める。小学生から貯金していたお金を使う。1年間は教育学部に合格するため勉強をひたすらやる」と、数年後に必要な費用を見据えて作文に記した。
一方、オンライン講話でインパクトのある大人たちとの出会いに感銘を受け、その人物の職業観に近づいていくケースもある。
優秀賞(高学年部門)を獲得した押見圭都さん(当時5年生)は3年生でも作文コンクールに応募して奨励賞を受賞した。助産師になる夢をさらに肉付けしたのは発展途上国で生活支援を続けている青年海外協力隊員のオンライン講話だった。「新生児で亡くなる赤ちゃんをひとりでも減らすため、発展途上国で助産師として働きたい」と夢がステップアップしたのだ。
同校は65名が応募し優秀学校賞も受賞。指導する椎井教諭は前任校でも優秀学校賞と個人賞の最優秀賞の受賞をバックアップした作文コンクールのオーソリティ。
「子どもたちが作文やライフプランシートを書く過程で、自分自身に関心をもち、自らと真剣に向き合う。将来のキャリアを考えるアウトプットを通して自分自身を見つめる状況が生まれる。数年後の未来を徹底的に考え、一つの区切りを出し、これからの生活に『こんなことを頑張りたい』が芽生える。そこに作文コンクールの意義がある」と椎井教諭は力説。
ともすればキャリア教育は職場体験や職業講話など、イベント的な活動に陥りやすい。将来の夢を作文に書いて終わりという単純なものではなく、自分の将来にどうつなげていくかが重要なポイントである。
「今と未来をつなぐ、その橋渡しになるのが作文コンクール。子どもにとって価値のある活動とセットで行い、5年後、10年後につながる活動になれば素敵だと思う」と椎井教諭は思いを馳せている。
新潟大学教育学部附属新潟小学校・椎井教諭
「なりたい自分」を考えるきっかけ作りに
岐阜市立鷺山小学校
「本校は4年生を中心にキャリア教育を行っており、その学習の流れの中でライフプランについても考えてほしいと応募しました」と語るのは岐阜市立鷺山小学校(大野裕子校長、児童数490名)の桑原真弓教諭だ。
同校は昨年の「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」で82点の作品を応募し、「学校賞」優秀学校賞を受賞。当時4年生だった伊藤雅陽(まさはる)さんは「将棋のプロになって岐阜県にタイトルを持ち帰りたい」と夢を描き、プロ棋士を養成する奨励会に入るために毎日1時間以上将棋の勉強をしていると作文につづった。
同学年の梅田弥侑(みゅう)さんは「大好きなイルカとショーをしたい」との思いをかなえようと水産学を学んで飼育員になる目標を立てた。そのためには苦手な算数を克服する、と直近の課題をライフプランシートに記入した。
将来への夢や到達するためのプランを明確に描いた2人は「奨励賞」(中・低学年部門)に輝いた。
彼らのようにはっきりした目標を持つ子どもたちにとって、ライフプランシートの作成は容易だったかもしれない。しかし、多くの児童はライフプランシートの作成に苦労していたと言う。コロナ禍で出張授業を受けられなかったり、外部との接触が難しい時期でもあった。図書館にある職業体験の本などを読んで自分の夢を考え、そのための道筋を調べるにあたり、職員たちはもちろん保護者たちの尽力も大きかった。
さらに「ステップ5(ライフプランを作ろう)」という鷺山小独自のシートを使い、夢やなりたい理由、調べ学習でわかったことや心に残ったことなどを細かく記録して可視化した。
同校では「2分の1成人式」を作文コンクール後の活動として位置づけており、「コンクールへの応募はなりたい自分をイメージするひとつのきっかけになる」と桑原教諭は分析する。
ライフプランの作成を通して、自分の夢を実現させるためにはどんな準備が必要で、今、努力すべきことは何かを考え、将来の姿は現在の自分からつながっていると実感する。その気づきは子どもたちに大きな影響を与える。
受賞を機に、伊藤さんも梅田さんも「夢を実現させたいとあらためて思ったようです」と桑原教諭は結んだ。
『ゆめをかなえる』学習の流れ
受賞の原動力は学年全員の努力
松山市立垣生小学校
昨年は年度当初に多くの学校が感染防止のために長期間休校し、年間計画を組み直さなければならなかった。
愛媛・松山市立垣生小学校(玉井啓二校長、児童数862名)も6年生の3学期に行うキャリア教育を1学期の総合的な学習の時間で取り上げることに変更した。
折しも「夢をかなえる作文コンクール」のパンフレットが学校へ届き、コンクール参加を学習のゴールとして位置づけたと田丸久恵教諭は語る。
ゲストティーチャーを招聘できない状況なのでインターネットなどでさまざまな職業を調べ、友だちと意見交換して将来の夢を明確化していった。なりたい職業を漠然と書くのではなく、理由や根拠も具体的に記すという条件のもと、6年生5クラス全員が作文やライフプランシートに取り組み、一校としては最多規模の140点を応募。優秀学校賞に選ばれたほか、6年生(当時)の相原瑠維さんが奨励賞(高学年部門)を受賞した。
「当時の担任によれば、本人には科学者になりたい夢があり、かなえるためにはどうすればよいかとインターネットで詳しく調べ、ライフプランシート作成をきっかけに人生設計についても真剣に考えていたようだ」と田丸教諭。学習後は小学生向けに開かれた大学の体験講座にも参加して、夢の実現に向かっていたという。
コンクールへの応募を支援
イラスト動画公開中
第15回「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」を主催する特定非営利活動法人(NPO法人)日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(以下、日本FP協会)では現在、HPでイラスト動画「夢をかなえるライフプランニング教室」を公開している。
「お金の大切さ」「夢をかなえるための考え方」など約20分の動画を視聴するだけでもライフプランニングの重要性を学ぶことができる。
授業での視聴の他「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」作品応募の準備・動機付けの機会としても活用できる。また、動画を視聴する際の参考資料として、スライド毎のキャラクターのセリフやFPが伝える動画内での注意点やポイント等をまとめたスクリプトも用意されている。
「夢をかなえるライフプランニング教室」
https://www.jafp.or.jp/personal_finance/yume/inst_disp/movie/
ライフプランニング出張授業実施中
日本FP協会では、「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」の一環として、ライフプランニングの大切さを知る機会の提供を目的に、ファイナンシャル・プランナー(FP)を講師として小学校に派遣する「ライフプランニング出張授業」を実施している。
「金融経済教育」や「キャリア教育」の他「2分の1成人式」「卒業文集制作」等の学習活動の一環としても利用されている。「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」への応募と組み合わせた学習活動に導入するのも効果的だ。
派遣に係る費用(講師交通費等含む)は、日本FP協会が負担。対象学年は小学校4~6年生で、募集期間は4月~10月上旬まで。HPからも申し込み可能。
「出張授業」問い合わせ先
日本FP協会 広報部
Tel:0120―211―748 FAX:03―5403―9795
受付時間 10:00~16:00(土日・祝日・年末年始を除く)