「脱・心理学」入門 10代からの文化心理学
18面記事新原 将義 著
記憶力など身近なテーマ取り上げ
心理学といえば、目に見えない心の内を探る学問といったイメージがある。一般人にはあまり縁のないものとの思いもあろう。ところが、本書を読むと、そのイメージは一変する。とにかく面白い。読み始めると止まらない。普段から気になっていたこと、例えば、記憶力のこと、頭の良しあし、コミュニケーションとかアイデンティティなど最近よく使われる言葉について実に分かりやすく解説されているのだ。
その秘密は三つ。まず、講義形式の会話体で話が進む。著者が面前で話してくれているような錯覚に陥る。次に、具体的な質問、例えば、「女子と話せるようになりたいのだが」といった現実的な課題に触れていく。いやが上にも興味が湧く。三つ目は考える視点として、納得できる事例が示されたり著名な心理学者の学説が紹介されたりする。評者のような門外漢でさえ、「なるほど!」とうなずきながら読み進め、気付いたら読み終えていた。
文化心理学とは、人間の精神のさまざまな現象を個人の内的な仕組みと捉えるのではなく、多様な道具や環境、他者と関係し合う社会的・文化的なプロセスに着目して捉えていく学問領域だそうだ。著者は「心理学に縛られない新しい考え方」(文化心理学)で本書を執筆されたわけだが、試みは十分成功していると感じられた。
(1980円 北樹出版)
(八木 雅之・元公立小学校校長)