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完成から2年 調理場の新たなモデルを示した学校給食調理場の現在

15面記事

企画特集

学校給食は食育の「活きた教材」
共同調理場を食育の情報発信の拠点施設に
倉敷市立倉敷中央学校給食共同調理場

 2019年4月、当時最新鋭の設備を備えた倉敷市立倉敷中央学校給食共同調理場が完成した。1日約12000食の給食を配給する大規模調理場でありながら食育の拠点として機能し、児童生徒や保護者の「食」への関心を深め、注目を集めている。食育への取り組みや安全性への配慮について、倉敷市教育委員会学校教育部参事・三宅香織氏、同調理場所長補佐(管理栄養士)・月本妙子氏に話を聞いた。


三宅 香織 倉敷市教育委員会学校教育部参事


月本 妙子 倉敷中央学校給食共同調理場所長補佐

 ―共同調理場新築時のコンセプトの一つとして「食育の推進」を掲げたねらいは?
 月本 (以下敬称略)近年、共働き世帯の増加をはじめとするライフスタイルの変化に伴い、外食や調理済み食品の利用が増加し、家庭で子どもの食生活を管理していくことが難しくなっています。家庭を中心としつつ、学校でも食育を積極的に推進することはとても重要です。
 三宅(以下敬称略) 地産地消を実現できる学校給食は、食育の「活きた教材」だと考えています。築40年以上経過した「倉敷」「倉敷北」「玉島」「船穂」の4つの学校給食共同調理場を集約し、小学校6校、中学校14校へ、一日最大12000食を提供する共同調理場を作ると決めたとき、「地場産物の利用がしづらく、食育ができなくなるのでは?」といった不安の声がありました。そこで新施設は、未来志向の食育を追求し、市民に開かれた食育の場となる「食育の拠点施設」とすることや、「地産地消」を継続することを明確にし、「活きた教材」を調理できる調理場として、最新鋭の機能を備えた機械器具、施設設備の充実を図りました。

 ―具体的にはどのような工夫をしているのでしょうか。
 三宅 泥つき野菜を検収できるスペースを広く設け、異物混入や食中毒のリスクを分散して地元食材を調達しやすくするために、4000食ごとの3献立にしました。また、2階には見学通路や食育展示コーナー、栄養教諭等が研究や研修を行える実習室・会議室を設置しました。
 月本 地域探検で共同調理場に来た児童が見学通路から調理員の作業の様子を見学したり、調理員から直接給食作りへの想いを聞いたりしたことによって、「給食を残さず食べようとする意欲がわいた」という話を聞きました。
 学校長や保護者を対象とした給食試食会を開催し、児童生徒と同じ給食を食べていただき、併せて、食品ロス削減などをテーマに「食育ミニ講座」も開きました。参加者からは、「栄養バランスがとれたメニューでおいしかった」「温かく、食べやすい大きさ・量・味つけで、野菜や肉をたっぷり摂取できて満足感が得られた」「できあがるまでの多くの人の労力、気遣いがわかった」「地産地消の想いに感動した」「栄養面をしっかり考えてくださり、子どもが食べられるものや量が増え感謝しています」などの感想をいただきました。
 三宅 衛生面では「安心して食べることができると感じた」「施設内の解説動画で、調理場が高い衛生管理基準に沿っていることを知り安心した」「乾いた床での調理、調理手順ごとの区画分けなど、衛生管理が徹底していることがわかった」などの感想が。安定的に安全・安心に食事を提供するのは学校給食の責務で、多くの小規模調理場を抱える本市にとって調理場の大規模化・効率化・集約化は避けられません。洗浄機器は食器カゴごと洗浄しコンテナに入れ、カートごと消毒・保管ができるようなものを採用するなど、作業を効率化できる厨房機器を採用しました。
 月本 アレルギー対応にも注力しています。アレルギー調理室は1階の調理エリアと分け、2階のアレルギー食調理専用エリアに配置。一般の調理場を通らずアレルギー調理室に直接入ることができるので、アレルギー原因物質の混入や、他の調理作業との交錯を防止し、より安全性を重視したアレルギー対応食の提供が可能となりました。

 ―調理場の使い勝手はいかがですか。
 月本 調理機器は最新でありながらシンプルで使いやすく、下ごしらえや洗浄を効率よく行うことができるようになっています。

 ―会議室・実習室では、献立の研究も行っているそうですね。
 月本 食育の推進を図るため、栄養教諭・学校栄養職員が新しい献立の試作・開発をしています。今年度献立に組み込まれた「若鶏のエスニック焼き」「さわらの青大豆みそ焼き」などは、スチームコンベクションオーブンを活用した献立開発によるものです。
 三宅 教材の開発や、最近ではオンライン会議システムを活用した自主研究会なども活発です。市内の大型スーパーなどで「mini学校給食展」を開催して共同調理場の様子を紹介したり、現在の学校給食や食育についての記事を掲載する「学校給食新聞」を毎月発行したりしています。情報発信も大切です。
 月本 受配校ごとに毎日、献立ごとの残量調査結果をグラフ化して各学校へ通知したり、成長期に必要な食事の量などを給食時指導や個別指導で伝えたりしています。給食委員会で残量調査を実施するなどして、学校全体で残菜が減るように取り組んだ事例もあります。

 ―食育には、給食提供者側からの働きかけが大事なのですね。
 月本 昨年12月には、高梁川流域自治体と一緒に、食物アレルギーのある児童とその保護者を対象としたアレルゲン除去食のクリスマスバイキングを開催しました。食物アレルギーの正しい知識を得るだけでなく、小麦や卵を使った給食が食べられず外食が難しい子どもたちが安心して食事を楽しみ、同じ食物アレルギー対応で苦労している保護者同士が情報交換できる良い機会になりました。
 三宅 共同調理場は倉敷市の食育の拠点として、今後も情報発信の役割を果たしていきたいと考えています。


アレルギー食調理専用エリア

食を支えるプロ集団として、子どもたちの健康を担う学校給食への信頼に応えたい


黒田 晃 日本調理機株式会社フードシステム推進部設計統括部長


川北 拓 日本調理機株式会社業務企画部長

 弊社は昭和22年の設立以来、学校給食としては自校給食、給食センターの調理システムを数多く手がけてまいりました。その中でもこの倉敷市立倉敷中央学校給食共同調理場はトップクラスの提供食数。着工3年前、プロジェクトを開始したときにまず考えたのは、衛生面の安心です。食材を交錯させないように食材を搬入し、下準備、調理、コンテナにつめるまでの動線をできるだけ短く、一方向にすることで二次汚染のリスクを少なくしました。また、動線を短くして、入室箇所をまとめることで省スペースを可能としました。これは作業効率の向上にもつながりました。
 「できるだけ地のものを使いたい」というのは、食育に力を入れている倉敷市さんからの当初からの要望でした。しかし、地のものは量の確保が難しいという課題があります。そこで、通常は調理日の朝に搬入する野菜を前日のうちに搬入してストックしておく冷蔵庫を配備し、地のものを活かした3献立での運用を可能にしました。また、配送出口数を増やし、積み込みから出発までのタイムラグが生じないようにすることで、できたての給食をできるだけ早く各学校に届けることを可能にしました。
 2階に見学通路や調理実習室、会議室、展示コーナーを設置。施設内の各コーナーはすべてモニター撮影が可能で、事務所などで観ることができます。これらは、給食に関わるすべての人が常にスキルアップを図ると同時に、食育の重要性をより広く市民に理解してもらい、この共同調理場を食育の拠点にしたいという市の想いを組み込んだものです。
 現在、新しい技術の開発にも積極的に取り組んでいます。具体的には現場のオートメーション化とIoT技術の導入です。すでに商品化している「キッチンコネクト」は、クラウドに集めたユーザーの機器稼働データを弊社で監視し、機器故障の際にスピーディーに対応する定額パッケージ保守メンテナンスシステムで、今夏竣工する給食センターにも導入されます。また、学校給食での人手不足の問題を解決すべく、ロボットアームによる食器洗浄システムの開発・提供にも90年代から取り組んでおります。
 今後も現場目線で、個々のニーズに合った最適な調理システムをご提供し、日本の子どもたちの食を支えてまいりたいと思います。

倉敷市立倉敷中央学校給食共同調理場(岡山県倉敷市鶴の浦1―1―2)概要

特長
 ・学校給食衛生管理基準、大量調理施設衛生管理マニュアル、HACCPの概念に基づく徹底した衛生管理手法を導入。
 ・LED照明、コージェネレーションによる排熱利用熱源供給設備を採用。エネルギーの効率化をはかり、環境負荷を低減。
 ・既存樹木を残しながら新たな植栽を施し、周辺地域の生活環境を保全。
 ・設置災害時の食料供給拠点として、最大24,000食のアルファ化米、水を備蓄。屋上に受電設備を配置。

【1階】
 食材搬入用プラットホーム…食材・用途別に分け、食材による交差汚染を防止。シャッターにより砂塵混入を防御。
 泥落とし室…ピーラー、野菜洗浄機を設置し、野菜の泥を他室に持ち込まないように処理。
 肉魚類下処理室…料理に合わせてテーブルを配置。専用冷蔵・冷凍庫を併設。
 野菜類下処理室…下処理シンクは食材ごとに区別。微酸性電解水用カランで食材を殺菌・消毒。
 準備・手洗い室…部屋を往来せずに着衣・靴の履き替え、手洗いが可能。
 焼き物、揚げ物、蒸し物室…大型の連続式揚げ物機、連続式焼き物機、スチームコンベクションオーブンでさまざまな献立、食数に対応。
 煮炊き調理室…1台で800~1000人の調理が可能な蒸気回転釜を設置。加熱調理前後の食材が交錯しないように機器を配置。
 和え物室…煮炊き調理室で加熱した食材を真空冷却器で冷却後、チラー水で冷却した回転鍋で和える。冷蔵庫を併設し、適切な温度で食材を保管・管理。
 洗浄室…食器、食缶、コンテナと用途別に分けた大型洗浄機を設置。食器洗浄は食器カゴごと洗浄し、作業を効率化。
 コンテナプール…食器はコンテナに積載し、天吊式の消毒装置で消毒。食缶は保管用カートに積載し、カートごと消毒・保管。

【2階】
 アレルギー調理室、会議室・実習室、見学通路


倉敷市立倉敷中央学校給食共同調理場外観

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