日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

【対談】1人1台教育PCの実現と未来の教育を語る 前編

11面記事

企画特集

GIGAスクール構想から21世紀型スキルの育成へ

 児童生徒1人1台の教育用PC端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する「GIGAスクール構想」が進み、新年度よりICTを最大限に活用した教育活動の展開に期待が高まっている。20年以上にわたり教育現場のICT化に取り組んできたインテルは、GIGAスクール後の育てたい児童生徒像をどう描くのか。インテル代表取締役社長・鈴木国正氏と、日本教育新聞社代表取締役社長・小林幹長が、メーカーとメディアそれぞれの立場から、あるべき教育の姿を語った。

鈴木 国正 インテル株式会社代表取締役社長

鈴木 国正 インテル株式会社代表取締役社長
 すずき・くにまさ 1960年8月生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、ソニーに入社。2009年にソニー・コンピュータエンタテインメント代表取締役副社長を経て、2013年にソニーモバイルコミュニケーションズ代表取締役社長に就任。2018年からインテル代表取締役社長に就任。

小林 幹長 株式会社日本教育新聞社代表取締役社長

小林 幹長 株式会社日本教育新聞社代表取締役社長
 こばやし・みきなが 1958年6月生まれ。東海大学文学部卒業後、日本教育新聞社に入社。広告局次長を経て1996年に日本教育新聞社販売局次長。2011年に販売局長兼営業統括局長を経て2014年に販売局長兼専務取締役に就任。2016年4月より代表取締役社長に就任。

令和の教育のカギはICT活用
指導力向上に企業も貢献する時代

新学習指導要領が重視する情報活用能力の育成
 小林 海外でIT分野の仕事を長く経験されたとうかがっています。海外からの視点で、日本の教育に関してどのような印象を持ってこられましたか。

 鈴木 1990年代はアメリカの、インターネット前夜のコンピューター業界に身を置きました。当時、現地の大学に行くとトップクラスは日本人学生が多くを占めていました。海外から見ると、日本人の持ち合わせている倫理観や道徳観は世界に誇れるものです。それは今も昔も、現場の先生方が児童生徒の「心の教育」に努力してくれているおかげです。
 一方、2000年代に入り、OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心に実施される国際的な学習到達度テスト(PISA)で、日本の順位が下がったことが話題になりました。2018年の調査でも読解力の順位が前回と比べて下がったと聞いています。こうした移り変わりをどのように捉えればいいのでしょう。

 小林 今年1月26日に中央教育審議会が公表した答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」では、学校が学習指導のみならず、生徒指導の面でも主要な役割を担い、子どもたちの知・徳・体を一つのものとして育む「日本型学校教育」が諸外国から高い評価を得ていることを指摘しています。
 そのうえで、急激に変化する時代の中で育むべき資質・能力を新学習指導要領の着実な実施と、ICT活用により実現しなければならない、と論じています。
 1990年代は、いわゆる「ゆとり教育」が推進され、教育内容の削減と学校週5日制の実現が目指されてきました。その後の2000年代は、ご指摘の通りPISAの結果や、学力低下を懸念する声を受けて「脱ゆとり」への転換が図られた時期に当たります。
 最新の学習指導要領は、2017・18年に改訂が行われ、20年度から小学校で、21年度は中学校、22年度は高校と順次実施されているところです。
 今回の学習指導要領の小・中・高校共通の重要ポイントとして、情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力と位置付けたこと、その育成を図るため、各学校においてICT環境の整備と、ICTを活用した学習活動の充実を示したことは画期的でした。
 小学校では新たにプログラミング教育が開始され、中学、高校でも既存のプログラミングや情報セキュリティに関する内容を充実させることになっています。

官民一致で1人1台整備を加速
 鈴木 小中学校における教育用コンピューターの整備、とくに1人1台の配備の必要性は、ずいぶん前から論じられてきたと思います。

 小林 機運は90年代からありましたが、その後、公立学校では整備が進まない時期が長く続きました。
 ICT環境整備予算は地方交付税で措置されてきた経緯もあり、必要性は認識しつつも、実現できない現状があったのです。その結果、整備状況に自治体間格差が生じていたのも大きな課題でした。
 それが、19年末の「総合経済対策」に「GIGAスクール構想」が盛り込まれた事により、1人1台の実現がぐっと近づきました。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大を機に、構想の前倒しが指示され、全国的に一気に導入が進んだ形です。

 鈴木 GIGAスクール構想はまさに突破口でした。2020年2月14日、構想の実現に向け、萩生田文部科学大臣と民間企業や団体との意見交換会が東京で開かれました。1人1台の整備には、かつてない規模の大量供給が求められます。ハードウェアメーカー、OS事業者、通信事業者、販売事業者が一堂に会し、GIGAスクール構想の狙いや推進体制について情報共有をしたのです。
 萩生田大臣の、何としてもGIGAスクール構想を実現させたいという協力要請には、並々ならぬ決意を感じました。業界全体がさまざまな形で動きながら、政策の早期実現に向け協力していこうという機運も生まれたのです。インテルとしてもこの1年、パートナー企業や教育団体と連携して1人1台環境の整備をお手伝いしてきました。
 この間、先生方や子どもたち、家庭は一斉休校や分散登校などで本当に厳しい経験をしたわけですが、コロナを奇貨としてGIGAスクール構想が進み、学校のICT環境は新しい段階に入ったと言えるのではないでしょうか。

GIGA元年の課題は「教員の指導力」向上
 小林 そうですね。コロナ禍において官民が協力してなし得た大きな成果だったと思います。
 さて、1人1台のコンピューター端末が行き渡り、今後は整備から利活用へと焦点が移ります。最大の課題は、教員のICT活用指導力の向上です。
 OECDが2018年に教員を対象に実施した「国際教員指導環境調査」(TALIS)によると、課題や学級活動で生徒にICTを活用させる教員の割合が加盟国平均より低くなっています。
 現場感覚で表現すると、ICTの知識や活用状況は、先生によってばらつきがある、と言ったほうがいいかもしれません。授業でICTを活用することにまだ不慣れな先生もいれば、すでにバリバリ活用を進めている先生もいます。
 他にも、低学年の児童はタイピングが難しい、破損や紛失を防ぎたい、使い方のルールも教えたい…と、どこから始めればよいのか悩んでいる学校や先生も大勢います。

 鈴木 私も同じ課題意識を持っています。1人1台整備は出発地点であり、この先、ICTをどう活用して授業をしていくか、その部分の支援を継続することが重要です。
 インテルでは「次世代教育サポート」として、オンライン教育の推進や、先生方のICT活用スキル向上のための研修開発と提供に力を入れてきました。
 Intel(R)Teachプログラムは、児童生徒が自ら考える力を育てる、思考支援型授業のための教員研修プログラムです。
 これからの時代を生きる子どもたちには、コミュニケーションや協働して学習する力、情報活用能力、創造性といった「21世紀型スキル」が不可欠です。Intel(R)Teachプログラムでは、プロジェクト型学習をベースにした授業設計の方法や、指導・評価の方法、効果的なICT活用法を、ワークショップ形式で学べます。
 グローバル企業であるインテルは全世界で20年にわたり、このIntel(R)Teachを提供してきました。インドや中国では100万人規模の研修が行われており、世界70カ国で1500万人以上の教育関係者が受講しています。日本でも2001年から4万人の教員と教員養成課程の学生が受講しています。
 Intel(R)Teachは採用する自治体の実情に合わせて、プログラムをカスタマイズできるのが特徴で、すでに広島県や埼玉県戸田市など自治体との連携支援も始めています。今後、より多くの日本の学校の先生方が体験できるよう、広めていきたいと考えています。

 小林 21世紀型スキルの育成は、子どもたちの思考力、判断力、表現力を高めることにつながります。その手段としてICTを活用すれば、学習者はより主体的に、積極的に学べるようになります。
 Intel(R)Teachのコンセプトは、新学習指導要領が目指す授業観、学力観にも合致するものです。ICT活用を目的化するのではなく、生きる力を育むための一つの手段として、用いている点が素晴らしいですね。

 鈴木 埼玉県の戸田市とは2017年に包括連携協定を締結し、同市が目指す教育を具体的に実現するための協力と支援を提供しています。21世紀型スキル研修のほか、プログラミング教育研修やプレゼンテーションスキル研修も行いました。
 市内の研究指定校に対しては、授業案の作成や演習等への協力、助言などの支援、市や学校が主催する研究大会に向けて、情報発信などの後方支援、当日のプレゼン支援などの協力を続けています。
 児童生徒の未来に必要な資質・能力、そして情報活用能力の育成に、企業が貢献できるとすれば、点ではなく、どの教員も共有化できる「面」としての広がりを持たせなければなりません。

連携支援に生きるインテルの「中立性」

間接的な立場から学校とかかわる
 小林 重要な指摘だと思います。ですが、一つの市であっても、小学校と中学校、学校によって導入している端末は違うことがあります。タブレットかコンバーチブルかといったタイプの違いもありますし、OSが異なることもあるでしょう。それでも同じ研修が受けられるのですか。

 鈴木 はい。採用している端末の種類に関わらず受講いただけます。
 ご存じの通り、インテルはコンピューターの頭脳である半導体のメーカーです。私たちの製品は、多くのメーカーの製造するコンピューターに使用されていますから「うちの学校はこの会社のコンピューターだから研修を受けられる・受けられない」といった差はありません。個別のハードウエアやOSに準拠したトレーニングとはコンセプトが異なると考えていただいていいと思います。

 小林 間接的な立場として支援できる、ということですね。

ユーザーに価値や経験を提供
 鈴木 教育委員会や学校の先生方に、インテルの次世代教育サポートが支持される背景として、インテルのブランド力/技術力の高さに加えて「中立性」があげられます。
 インテルの目的は、世界を変革するテクノロジーを生み出すことで、地球上のあらゆる人々の生活を豊かにすることです。日本の教育分野で言えば、これから1人1台端末を活用し、児童生徒のよりよい未来を創造するための革新的な授業改善の推進に貢献することが目標です。
 単に半導体を売るというのではなく、学校と企業を引き合わせ、インテルが持つグローバルの知見や情報を広く提供できる点を評価いただいています。「この製品を使ってください」というアプローチではなく、「こういう教育をしたい」という声に応えて、「では、それが得意な、こちらの企業を紹介しましょう」と、選択肢をいくつも提供できるのです。
 テクノロジーを使う人たちに、どのような経験や価値を提供できるかを考える―。このインテルの極めてユニークな役割の果たし方が、エンドユーザーである教育委員会や学校の先生方の安心感につながっています。
 また、インテルはグローバル企業であることから、製品や周辺技術の「標準化」を得意としています。Intel(R)Teachプログラムが世界的な視野に基づいて構築されてきたという点も、グローバルな視点で教育を展開したいと考える自治体や学校の共感を呼んでいるのだと思います。

 小林 私たち、日本教育新聞もメディアとしての中立性の確保は重視しています。ここ数年、大きな話題となっている大学入試改革に関しても、センセーショナルに取り上げるのではなく、学校現場の声を聞き、適切な情報提供やセミナーを、企業の力を借りながらタイムリーに提供してきました。
 ICT活用に関しても同様です。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、全国の学校が休業してからは、家庭学習に役立つウェブサイトを一覧にして公開しました。学校再開後は、コロナ禍でオンライン授業を展開した熊本市などの事例をレポートしました。

 これからは1人1台端末の環境をどのように生かすか、授業をはじめ学校教育活動のどのような場面で有効に活用できるのか、まだ、定まったものはありません。教育専門紙として、各地の情報を伝えることにまずは力を注いでいきます。

後編はこちら

企画特集

連載