防災・減災&コロナ対策の強化を
14面記事学校施設は子どもが学習する場であるとともに、災害時は地域住民の避難所としての役割も果たす重要なインフラであるにもかかわらず、防災機能がいまだ不十分であることが指摘されている。また、新型コロナウイルスの猛威が続く中で、新しい生活様式への対応やいざというときのための感染症対策も重要なテーマになっている。そこで、このような課題に向けて国が進めている施策を整理するとともに、防災機能を強化する設備・機器等について紹介する。
国土強靭化5か年 加速化対策で推進
防災機能の強化に向けた財政支援を拡充
2月13日に福島沖でM7・3の地震が起こるなど、近年頻発する地震や豪雨などの大規模災害を受けて、政府はこれまでの「3か年緊急対策」を延長し、およそ15兆円規模となる「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」を昨年12月11日に閣議決定した。その内訳は、激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策が12・3兆円程度、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策が2・7兆円程度、国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進が0・2兆円程度である。
この中では学校施設の老朽化対策や防災機能の強化も、重点的かつ集中的に対策を講ずる対象に挙げられている。すでに文部科学省は来年度の概算要求で防災に関わる予算を事項要求しており、続く15日に発表された今年度の第3次補正予算でも、衛生環境改善や耐震対策、老朽化対策、防災機能強化等の整備を推進するための予算として新たに2365億円を確保。これに伴い、遅れている学校施設の防災機能がより一層強化され、整備が加速していくことが見込まれている。
気象変化を踏まえた整備計画の見直しを
文部科学省では、これまでも学校施設の防災機能の強化について、避難所として求めるべき役割・備えるべき機能・施設の利用計画等を明確化し、優先順位をつけ整備することを各自治体に求めてきた。しかし、校舎自体の防災機能はもとより、体育館の天井落下対策や非常時の通信インフラ、自家発電設備、空調設備機器など防災・減災のための整備・機能がいまだ不十分であり、地域によって格差があることがわかっている。
学校施設の安全性や防災機能を確保する上では、過去の大規模災害時に生じた課題が教訓になっている。特に熊本地震では耐震化が完了していた学校の校舎本体や体育館では倒壊や崩壊が発生しなかった一方で、体育館のブレースの破断や天井材など非構造部材の落下があったほか、トイレや電気、水の確保において多くの施設で不具合が生じるなど新たな課題も挙がっている。
加えて、近年の気象変化に伴う豪雨では、これまで被害がなかった地域でも浸水による停電、断水などの被害も起きている。そこでは避難所の自家発電機が浸水して稼働できなくなったケースもあるため、立地場所や治水計画等を踏まえて安全な高い場所に設置するなどの見直しが必要になっている。このように、防災機能の強化には従来の予測を超えた整備のあり方や設置の仕方を踏まえた対策が求められている。
重要なライフラインを維持する設備
学校施設の9割が避難所に指定されている中、防災機能としてもっとも重視することは、児童生徒、職員及び地域住民等が避難し、救援物資が届き始めるまでの段階における電気、ガス、水道、トイレ、通信といったライフラインを維持することだ。
まず、飲料水の備蓄はもちろんのこと、電気については停電時に使える可搬型または据え付け式の非常用発電機と燃料を確保するほか、太陽光発電設備等には蓄電機能を備えておくこと。ガスについては、都市ガスエリアでも災害時にLPガスを使用できる設備を整備しておくことが有効になる。なお、非常用発電機やLPガスの確保にあたっては、民間事業者と協定を締結し、災害時に利用できるようにしている自治体も多くなっている。
また、避難者の生活拠点となる体育館では、トイレの確保が大きな課題となる。地震などによって断水して水洗トイレが使えなくなることを想定し、簡易トイレや携帯トイレを備蓄するとともに、プール水や雨水貯留槽などを利用したマンホールトイレの整備にも力を入れる必要がある。加えて、高齢者や車いす利用者等に配慮したバリアフリートイレの整備も急がねばならない。
さらに、災害時の安否確認や情報収集手段となる通信インフラとしては、スマートフォンでも利用できるWi―Fi環境を整備しておくこと。近年では平時は授業で活用し、災害時には公衆Wi―Fiとして開放できる無線LAN機器も登場しており、「GIGAスクール構想」と併せて校内全体での整備計画を進めていきたい。
避難者が生活することを考えた施設に
一方、避難者の居住スペースとなる体育館には、温熱環境を確保するため空調設備の設置や通風による換気や扇風機の使用等の対策を講じることが求められる。とりわけ、夏季に災害が発生した場合を考えるとエアコンの普及が待たれるところだが、今のところ設置率はわずか9%に留まっているのが現状だ。
しかも、新型コロナによって学校施設内の感染症対策も緊喫な課題になっている。昨年、文部科学省は感染症対策費として1校あたり300万円を上限に手当てしてきたが、来年度の概算要求においても169億円を盛り込んでいる。しかも、冬季に向かって感染者数が増加している事態を受け、第3次補正予算でも学校の感染症対策等支援に341億円を計上。保健衛生用品の購入や教室等の消毒作業を外注するために必要な経費を強化していく方針で、校種あたりの具体的な金額は、小中高校で80~240万円程度、幼稚園で30~50万円を見込んでいる。
避難所における居住スペースの質を向上することは、被災者の健康を守ることはもちろん、不安を抱える生活の中で精神面をケアする上で大切な要素となる。なぜなら、過去の災害では1カ月以上も避難所生活が続いた例もあるからだ。だからこそ、平時から人的な運営体制のあり方を構築するとともに、避難者がこの場所で生活することを考えた施設設備の備えを準備していくことが重要となる。